コーチングよりも相談力(Peer Coaching)
20年前からコーチングを学び始め、何度かトレーニングやワークショップも行っていく中で、10年前にコーチとコーチィ(コーチされる側)にランクのようなものを設定してる考え方に違和感を感じました。
マネジャーに対してコーチングを教えることが多かったからというのもありますが、本来のコーチングは上司と部下、プロのコーチとクライアントといったパワーやランクの差がある状態でやるものではないのではないか、という疑問です。
コーチングは特殊技能ではなく、やり方さえ知っていれば誰にでもできるものです。そしてもっともっと自然な会話の中で行われて良いものです。
Peerな関係性の中で行われるコーチングこそが理想系であり、本来の姿ではないかと私は考えています。
10年前はアイディアだけでしたが、ちょっと整理してみますね。
コーチングとはプロセスである
以前、別のnoteでコーチングのコアについて述べさせていただきました。
このnoteではコーチングの本質を理解してもらうためのワークショップの進め方について解説しています。そのエッセンスは「コーチングとはスキルではなくプロセス」であり、「プロセスを理解してれば誰にでもできる」ものである、という考え方です。
(具体的なプロセスは今回のnoteには書きませんので、リンク先の記事をよかったら読んでみてください)
もちろん、コーチを職業としている人はトレーニングを受け、場数を踏んでいるプロフェッショナルではあります。しかし、場数を踏んでいるから誰に対しても良いコーチングができるかというと必ずしもそうではありません。
実際、エクゼクティブ・コーチングでもコーチとコーチィ(コーチング受ける側)の相性は非常に大切で、コーチをアサインする場合は人事がスクリーニングした複数のコーチ候補とコーチィとの面談を行い、コーチィにとって信頼にたり話しやすい人が最終的に選ばれます。
なので、あらかじめ腹を割って話し合える間柄があるのであれば、そこでコーチングが行われるのが最も良いのです。しかし、コーチの役割をする方がプロセスを理解していないと、ただのおしゃべりに終わってしまい、コーチングとして機能しないということはあるでしょう。
何をするのがコーチングなのか?
では、そもそもコーチングとして機能させるには、相手に対してどのように関われば良いのでしょうか。
傾聴することでしょうか?質問をして相手の考え方を引き出すことでしょうか?
目に見える行動としてはそうなるのかもしれませんけれど、何のために傾聴するのか、何のために質問するのか方がはるかに大切です。
言い方を変えると目的がわかっていれば、その目的に叶うよう自然に傾聴しますし、質問もすることになります。
「コーチはクライアント(コーチィ)にとっての鏡」ということをよく言います。これの意味はスポーツのコーチングをイメージするとわかりやすいと思います。
例えばゴルフの練習場に行ってコーチをつけたとしたら、コーチがやることはフォームやスイングの状況について自分から見えている状況を伝え、改善した方が良い箇所を指摘してきますよね。「左肘が曲がっているからまっすぐ」とか「グリップの握りが曲がっている」とか、ね。
また本人がどのようにクラブを振っているつもりなのかを聞いてくることもあるでしょう。コーチから見て本人が思っているように体が動いていなかったらそれも教えてくれるということがあるかもしれません。
すなわちこれは、フィードバックです。コーチィ本人からは見えていないことやコーチィとは異なった視点からのフィードバックが提供されるのです。これによって、コーチィは行動や考え方を変える必要に気づくことができ、次のアクションを決めることができるのです。
効果的にコーチングを行うためには、まず相手が起きていることをどのように認識しているのかを理解するために質問をし、傾聴します。
本人を取り巻く状況をどのように見ていてどのように感じていて、その結果どんな行動して、行動をした後を振り返ってみてどのように思うか、を丁寧に聞き出します。
そして、コーチィが置かれている状況と行なった行動が理解できたら、その話を聞いて何が起きていると考えられるのか、コーチとしてはどのように感じるのかをフィードバックとして伝えます。
当然ですが、こうやって返ってくるコーチからのフィードバックは本人と全く同じものではないでしょう。そこにコーチィが気づき学ぶ余地があるのです。
「そういう見方はしてなかった」とか「そこは考えてなかった」とか「自分が気づかなかった別の可能性について考えるきっかけになった」とかが起こります。
このように意見や考え方を交換した後、コーチィが何を選択するのか(行動するかしないのかも含めて)はコーチィに委ねられます。場合のよっては選択するのを手伝う目的で起きていることと本人の考え方、別の可能性について整理してみるということはできるかもしれませんね。
このような形での会話は「コーチング」と呼べるものではありますが、実は「コーチング」という言葉自体が誤解を生みやすい部分があり、人によっては何かのアドバイスがもらえると思っている人がいますので、私はあまり「コーチングしようか?」とは言わず「相談に乗らせてもらえるかい?」と問いかけるようにしています。
Peer Coachingの二つの形
さて、ここまでで実はコーチングは「本音を言い合える人同士」が「プロセスを知って」いて「相談の場を持つ」ことができれば十分成立しうることがわかります。なのでプロのコーチを雇わなくても資格など持っていなくても、友人同士や同僚同士対等の関係性(Peer=同輩)の中でできるものなのです。
そして、その進め方には少なくとも大きく二つのパターンがあるのではないかと私は考えています。一つは問題解決型で、もう一つは自分探し型です。
一つずつ簡単に説明しますね。
問題解決型は、コーチングの代表的なフレームでありプロセスであるGROWモデルを使って行われるものです。
「ちょっと困ったことになってて相談したいんだけれど」とか「なんか厄介なことになってるみたいだから相談乗ろうか?」みたいなきっかけで始まる会話になるでしょう。
GROWモデルについては私が書いたnoteの中でも説明があります。この手の相談の中でどのようにGROWが展開するでしょうか。
まず、相談者にとっての現実(Reality)と目指す姿(Goal)を質問で引き出し、傾聴して理解するところから始まります。
次に、コーチ役は話を聞いてそれが自分からはどのように見えるかどう感じるかを伝えます。ひょっとするとこのフィードバックが行われることで問題が「問題ではなくなる」ということが起きます。フレームを自分のものからコーチのものに変えてみることでリフレームがおこり、問題解決をする必要がなくなるということですね。
リフレームが起きないようであれば、その次に選択肢(Option)を出し合います。相談者がこうした方が良いと考えるもの、コーチがやってみたら良いのではないかと思うことの意見交換です。
最後に行動の決定(Will)、すなわち何をするのかを選択することになります。これは相談者が選ぶのに委ねても良いでしょうし、選ぶ選択肢のValidation(評価や実現可能性)を一緒に行っても良いでしょう。
相談したことで、相談者が次に何をするのかが決まったら終了できます。
一方の自分探し型は、何かと達成するためとか問題解決をするのが目的ではなく、自分が何を望んでいるのかを明確にしたり考え方を整理するのにコーチが付き合うものです。
このタイプの相談にはNVC的アプローチが有効であると考えています。
NVC的なアプローチでは、状況について聞くところから始めません。相談者の感情に寄り添うところから始まります。
それは、悲しいとか悔しいとか、あるいはモヤモヤしてるとかの言葉ではうまく表現できないものであったりもするかもしれません。
つまり、何があったのかを聞きに行くのではなく、まずはその感情に寄り添い、その感情を作り出しているのが自分自身であるとして、何がその感情を作り出しているのかの価値観を一緒に見つけに行くのです。
具体的には、相談者は抱えている感情が沸き起こるまでの経緯や状況を話してくれるでしょう。コーチ役はそれを黙って聞きながら相手のことをよくよく観察し、本人にとって何が大切なものであるのかを聞き取りに行きます。
相手にとって大切なことというのは、言葉して出てくるものよりも非言語、つまり声のトーンや大きさ、表情や体の動きに現れます。
気持ちが動いているのはその人にとって大切なものに触れているからであり、相談者の声や表情の変化にそれが現れるのを注意深く観察しながら、「話を聞いていると○○があなたにとってとても大切であるように聞こえる」と伝えてみると、そこで相談者が自分の価値観に気づいてハッとすることがあるでしょう。
あるいは、話の流れと感情の発露を整理して、「私にはこのように聞こえました」と伝え返すようなフィードバックもできます。こちらだと、相談者が冷静な視点で自分と自分を取り巻く状況を見ることができ、自分の思い込みに気付いて、それを外しても良いと自分自身に許可を出して楽になることができます。
どんな時に「相談しよう」となるのかを考えてみると、問題解決型と自分探し型以外にもパターンはあるかもしれませんね。
ただ、この二つのパターンのアプローチを知ってるだけでかなり役に立つのではないかと思います。
会話から変えてゆこう
信頼できてなんでも屈託なく話せる同輩や仲間同士が、お互いにコーチングしている状態がPeer Coachingであり、コーチングの理想系だと私は考えています。
そこには対等な関係性があり、コーチだからアドバイスするとか、コーチに教えてもらえるとかではなく、「ちょっと相談」があるのみです。その意味でコーチングの本質でありPeer Coachingが目指しているのは相談力の向上なのかもしれません。
「よしっ、それじゃこれからコーチングしちゃるから、そこに座れ」みたいに始まるのが必ずしもコーチングではありません。
もっともっと自然に日常会話の中で、何気ないおしゃべりからモードを変えて、結果的にコーチング的な相談になるのが本来の姿だと私は考えています。
Peer Coachingが素晴らしいのは、そこに「上司や会社の意図」や「プロとしてクライアントの問題を解決する」があるところから始まるのではなく、相談してくる相手への純粋な関心と相手の力になろうという意志から始まるところにあります。
機会があれば、Peer Coachingに特化したワークショップを設計してやってみようかなと考えています。
あなたの相談力が爆上がりしたら、あなたにとって大切な友人の力にもっとなれると思いませんか?