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サンドウィッチマンはなぜ「ベア系ゲイカップル」と思われたのか?〜アジアの「ベア系ゲイ」の定義

※※このエントリは2016年3月21日にLetibee LIFEで公開した記事を加筆修正したものです。

手前味噌でありますが、2016年3月12日につぶやいた下記のツィートが予想もしなかった反響を呼んで驚いています。

最初にツイートしてからの6日間で4.7万リツィート超。最初に反応したのは僕をフォローしてくれているゲイの方でしたが、あっという間にノンケ男女に拡散して、どんどんリツィート数が増えていく様に戸惑いました。しかし、その反応を見ていると、なぜこのツィートが一気に拡散したのかが分かって来ました。

それは「ベア系ゲイカップル」というワードが、ノンケ男女にとって新鮮に感じたからのようなのです。

ゲイのことを何も知らないノンケさんは、「ゲイは男なら誰でもいいんだろ?」と勘違いしている場合が多いですが、とんでもありません。ゲイほど相手のタイプにこだわるセクシャリティはないと言っても過言ではないほど、現在では男の好みのカテゴリーが細分化されています。

もともとG-menというゲイ雑誌の編集をしていて、ガッチリ以上のデカい男を愛でるとというゲイの好みのカテゴリーの真ん中にいた自分にとってはごく当たり前に使った「ベア系」という言葉でしたが、たしかにノンけさんには聞き覚えのない言葉で、新鮮に感じたのは当然だと思いました。

そこで、今回はアジア圏のゲイにおける「ベア系」というカテゴリーの定義をご紹介します。ちょっと長いですが最後までお読みいただけると、なぜにサンドウィッチマンが「ベア系」なのかも、ご納得いただけると思います。

欧米の「BEAR」とアジアの「ベア系」の違い

もともと欧米のゲイの間で「BEAR」というカテゴリーは定着していました。上に並べた画像は欧米の「BEAR」にターゲットを絞った雑誌の数々です。

一般的に言われている「BEAR」の定義は

1) 豊かな体毛があること
2) 体は筋肉質からデブまで肉厚であること
3) 年齢は中年以降(40代以降が主流)

という感じです。体型や年齢には幅がありますが、共通しているのは豊かな体毛があることです。

人種的な特徴ゆえ、アジア人には体毛が少ない人が圧倒的に多いです。そのため「BEAR」というカテゴリーは欧米のもの、と考えられていました。でも近年、日本以外のアジア各地のゲイの中では好きなタイプを「ベア」と呼ぶ人が増えてきました。ところが同じ「ベア=熊」でも、欧米の「BEAR」と、アジア圏での「ベア」は大きく異なります。下の画像は、台湾で毎年夏に行われている盛大なビーチパーティー「熊祭」の模様です。

欧米の「BEAR」とアジアの「ベア」の大きな違い、お分かりになりますよね。そう、アジア圏の「ベア」には豊かな体毛は必須ではないのです。

同じ「熊」でありながら、欧米の「BEAR」とは異なりアジアの「ベア」文化が形成されてきたのは何故なのでしょうか?

アジアの「ベア」文化の流れの起源は日本にあり

2016年2月発売号で休刊が発表されたゲイ雑誌「月刊G-men」が創刊したのは1995年4月、約20年前です。僕は創刊号から2014年初夏までこの雑誌の編集に携わっていました。

「ガチムチ」というカテゴリーを指す言葉が広く知られようになり、体のデカイ男を好む層がゲイの中で市民権を得ている今の状況からは想像もつかないでしょうが、1990年代中盤まではゲイの中にもこの分野を指す言葉はありませんでした。当時のゲイの中での体型カテゴリーはざっくりと下記の6種類のみ。

・ スリム
・ 中肉中背
・ スポーツマン体型
・ マッチョ(ビルダー)
・ ガッチリ
・ デブ

※「スポーツマン体型」というと非常に曖昧な感じですが、例えば水泳とかテニスなどの均整のとれた体つきを指していました。

ところが困ったことに、僕の好みのタイプは、この6種類のどこにも当てはまりません。当時、「好きな体型は?」と尋ねられると、こんな答え方をしていました。

「ラグビーのフォワードや柔道をやっていたような人が、運動やめて筋肉の上にしっかり脂肪が載った感じ」

これ、上の6種類のカテゴリーで正確に表すなら、「ガッチリ」以上「デブ」未満となるのでしょうが、そんなカテゴリーはないので一般的には「デブ」とされていました。しかし「デブ専」と言われる度に忸怩たる思いに囚われていました。「デブはデブでも、体育会系デブと文化系デブはまったく違うものなんだ!」と。

G-men創刊から2年ほど経った時に、まさに僕の好みのド真ん中の現役体育会ノンケ大学生がモデルに応募してきました。現役アメフト部で全身が太く筋肉の上にしっかり脂肪の載った体つき、そして顔は少年っぽさも残る童顔の美形。

「腹が出てるモデルはNG」という創刊当初のポリシーに頑にこだわる編集長を説得して、この大学生君のグラビアを撮影することになりました。

好みド真ん中のモデル君の撮影ですからいつも以上に熱が入るのは当然のことで、それが伝わったのかカメラマン氏もノってくれて非常に完成度の高いグラビアに仕上がりました。

それを見た当時の社長から

「彼は今までのゲイ雑誌にはいないタイプだし、こういう感じを好きな人は少なくないと思うから、この体型の呼び方を決めてコーナー作ったら受けるんじゃない?」

と言われて浮かんだのが、「スーパーガッチリ」という言葉でした。

これは、上記の僕の好みのタイプの説明を聞いた新宿2丁目のあるマスターが、

「そういうのはガッチリ以上だからスーパーガッチリでいいじゃない」

と言われたことが記憶に残っていたからです。

そのモデル君のグラビアが掲載になる号から体育会系デブを愛でるという目的の「SGC〜スーパーガッチリクラブ〜」という連載を始めたところ、この「SG(スーパーガッチリ)」という略称が予想もしなかった勢いで拡散していきました。僕と同じく、体育会系デブを好む人は結構多かったということなのでしょう。

「デブ」という一言で括られていた大柄の男を「体育会系」と「文化系」に分けたために、特に文化系デブを好むサムソン誌の編集部(主にサムソン高橋氏)や、バディ誌に当時あった文化系デブコーナーの担当氏からは揶揄や攻撃を受けることになったという予想外のオマケまでありました。

あっと言う間に日本のゲイシーンに拡散して定着した「SG」という言葉も、数年後に某ビデオメーカーが発案した「ガチムチ」という言葉にとって代わられましたが、体育会系デブを好む人や、そういう体型になろうと努力する人は増殖していきました。

ここ最近ではガチムチも含む大柄な男をまとめて「GMPD(※)」と呼称する場合も増えています。1990年代中盤までには存在していなかったこのカテゴリーも、現在では日本のゲイの中でもある程度大きな割合で定着しています。

※GMPD……ガッチリ、むっちり、ぽっちゃり、デブ、ガチムチ、ガチデブなど、ガッチリ以上の大柄な男を指す形容詞の頭文字を集めたもの。

では、アジアの状況はどうだったのか?

1990年代後半のアジアの状況も、日本と同じような感じでした。

今でこそ台湾のゲイシーンに注目が集まっていますが、当時アジアのゲイシーンと言えば、タイと香港が有名。そして、どちらもゲイシーンのお手本として見ていたのは日本ではなく、欧米でした。

欧米人がリゾートとして遊びに行くタイでは、欧米人とタイ人、というカップリングが当然だったので、欧米人が好むエキゾチックで少年っぽい雰囲気のタイ人がシーンの中心。また中国に返還前の香港はイギリス領でしたから、こちらも欧米人の好む均整のとれたスマートな雰囲気の香港人がシーンの中心でした。

日本でSGという言葉が広まっていた時期、アジアの他の国では体育会系デブのゲイなんていない、とまで言われていたものです。ところが、1990年代の終わりに初めて香港に行った時に、事実は違う事を知りました。

ご存知のように香港は、香港島と九龍半島の2つのエリアがあります。この2つのエリアの雰囲気はかなり違います。

東京で喩えるなら、香港島とそこに面した半島の先端は六本木や渋谷、代官山、お台場という開発されて洗練された雰囲気で、半島の奥の方は上野や浅草という下町の庶民的なイメージです。

かつての香港のゲイシーンは、香港島と九龍半島の先端に欧米人とスマートな香港人が集まるゲイバーやサウナなどがあるだけでした。ところが1990年代後半になると半島の少し奥の方(油麻地駅、旺角駅周辺)に大柄なタイプが集まるバーとサウナができ、どちらもそこそこ盛況となっていました。

取材で香港に行き店の方に話をうかがうと、

「香港にも昔から体育会系デブという体型のゲイはいたのだけれども、ゲイバーやサウナに言ってもまったく相手にされないので表に出てくることがなかった。しかしG-menや日本製の太め系ゲイAVの人気が高まるに連れ市場があることが分かったので、それまで香港にはなかった大柄な男中心のバーとサウナをオープンさせた」

とのことでした。

さらに、台湾にも同じようなタイプが結構いて、そこでもG-menは人気があると言う情報も教えてもらいました。その方は台湾で購入したというG-men掲載イラストがプリントされた(もちろん無許可で。笑)ローソクを見せてくれました。

そこにプリントされていたのが、このイラストレーターさん(越後屋辰之進)の作品です。

アジア、特に中華系のゲイにとってはワイルドよりも可愛い系の方が受けがいいのだ、とこのとき初めて学びました。

考えてみれば、90年代中盤までの日本もアジア圏の他の国と同じように、男の「美」の基準はゲイの先進国である欧米を手本にしていました。つまり、スリムな美少年とかマッチョがヒエラルキーの最上位にいると思ってください。筋肉の上に脂肪が載った、喩えるなら「ずんぐりむっくり」したアジア人に多い体つき(しかも短足)を「美」とする概念は、欧米にはあり得なくて当然です。欧米のゲイ雑誌でも、体育会系デブを取り上げたものなど見たこともありませんでした。アジア人に多いのはやはり主食が米だからかなあ、と思っていますが僕は専門家ではないのでこれ以上の言及は止めておきます。

さて、当時の台湾、台北のゲイシーンに於いても、中心にいるのは華流スターのような均整のとれた体型の青年であって、体育会系デブなど出る幕もありませんでした。

しかし、それから十数年で状況はがらりと変わります。

今や、毎年秋のプライドパレード(台北同士遊行)の時期にはアジア各地からLGBT当事者が10万人以上も押し寄せてくるという、アジアでもっとも熱い存在となった今の台北のゲイシーンにはガチムチ・体育会デブが溢れかえっています。

アジア圏の「ベア系ゲイ」を定義する

2014年10月台北でのプライドパレード「台北同士遊行」会場で撮影したアジアのベア系ゲイたち。(撮影:kit)

2010年秋、プライドパレード(台北同士遊行)前夜に開催されたガチムチが集まるゲイのクラブイベントで100人以上の中華系ゲイにインタビューする機会を得ました。

そこで「好みのタイプ」を尋ねたところ「ベア」を挙げる人が非常に多かったのです。しかもその「ベア」は体毛豊かな欧米の「BEAR」ではなく、日本で言うガチムチ、つまり体育会デブのことでした。

つまり、アジアのゲイにとっての「ベア」とは

1) 体毛の有無は問わない
2) 体は筋肉質からデブまで肉厚であること
3) 年齢は20代から
4) ワイルドよりも可愛い雰囲気であること

という定義になるのです。

高校時代はラグビー部に所属した大柄で、年と共に脂肪も載った体つきとなってきたサンドウィッチマンのお2人。

「仕事で人殺しそうな方と、趣味で人殺しそうな方」などと評される一般的には強面でありながらも、ガチムチ・体育会デブが好きなゲイから見ると可愛い顔立ちとしか思えないこの2人が、パステルカラーのコートを羽織って楽しそうに旅行しているポスターを見た台湾人が

「これはベア系ゲイカップルなのか」

と判断するのも当然といえば当然のこと。

ちなみに日本語ができない台湾人の彼と、中国語ができない僕の意思の疎通はカタコトの英語。「ベア系ゲイカップルの旅行ポスターが駅に氾濫している日本は、なんてオープンな国なんだ」と言われても、

彼らは東北大震災の被害に遭った東北出身のコメディアンで、だからJR東日本のキャンペーンに起用されているんだよ。また同じ高校のラグビー部に所属していて、その頃からの長い付き合いだからこその仲の良さが写真に現れているよね。

という説明を僕の英語力で説明するのは不可能なこと。それゆえ、

「そうだね〜」

と曖昧な笑顔で答えてお茶を濁したのでした。


◾︎画像引用元
北海道新幹線広告画像
サンドのお風呂いただきます


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Tomita Itaru
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