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エッセイ『読書と音楽とサイクリング』King Cage とTHERMOS



去年の夏のはじめ頃だったか、暑さに耐えかねて、ロードバイク用のTHERMOSを買った。今は魔法瓶のことを「サーモス」と呼ぶそうだ。サーモス社はドイツで創業したが、今は日本の会社なんだって。ぼくが子供の頃は魔法瓶と呼ぶのが相場だった。「ゾウジルシ」にならなかったのは、ぼくら世代には残念な話かもしれない。

さてサイクリングの話である。サーモスを買って後、氷が溶けないままの冷えに冷えた、快適な水分補給を楽しめるようになった。風呂上がりのビールに近いものがある。若い頃は格好つけて走りながら水分補給をしていたが、最近は喉が渇いたらいちいち止まって飲む。だって1分1秒を争うライドじゃないんだもの。ちなみに女房殿は「お茶」と呼ぶ。アクエリアスだろうがポカリスエットだろうが、「お茶」と呼ぶ。そういうことだ。

秋口に影を潜めていたサーモスは冬本番に再登場した。熱々のお茶を入れるのだ。今度は本当にお茶なのだ。ほうじ茶が定番で、ときどき緑茶か紅茶にする。温度の加減が難しくて、たいてい口の中をベロンベロンに火傷するけど気にしないしすぐ治る。お茶となるとやはり「お茶うけ」に頭が向く。洋菓子は乳脂肪分が喉に詰まりそうになる。ここはやはり和菓子だ。どら焼き、大福、三色団子などいろいろ試してみたが、結果、羊羹に落ち着いた。羊羹以外は、バッグや背中のポケットの中で、毎回ぐっちゃっと潰れていた。

サイクリングの補給食も兼ねているので食べきりサイズじゃないと何かと具合が悪い。1竿とか食べれるわけもなく、仮に食べでもしたら満腹中枢がイカれて間違いなくその場で昼寝となる。

コンビニ各社のミニ羊羹はもちろん網羅した。土産物屋とか道の駅とかで目にしたものは片っ端から買った。目下のところ「新宿中村屋」の独り勝ちだ。

食感も甘さも塩加減も、ちょうど良い塩梅なのだ。ブルーボトルコーヒーのyokanもとても美味しい。でもあれはもはや洋菓子だ。虎屋はもちろんめちゃくちゃ美味い。ただ気品がありすぎる分、野趣に欠ける。外で食べるものじゃないと結論づけた。結果「新宿中村屋」の快勝である。

サーモスは快適なのだが、ひとつ問題があった。スパカズのボトルケージだとガタガタと音が鳴り続ける。これはいただけない。スパカズが悪いのでもサーモスが悪いのでもない。相性の問題だ。ネットで調べるとサーモスの音鳴りがぴたりと止まる!などというキャッチコピーのボトルケージもあった。でもデザイン的に気にいるものがなかなか見つけられずにいた。あれこれ考えている時に、以前使っていて外したまま放置しているKing Cageがあることを思い出した。普通サイズのビドンだと窮屈で出し入れに手間取っていたので、なら逆に、ちょうど良いのではないかと閃いた。ピタリ賞だった。これで快適さはさらに増した。

内緒だが、たまにフィナンシェに浮気する。「老年に差しかかったへぼサイクリストの風情」は、深まるばかりなのだ。

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