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スーパースター☆澁谷かのん


澁谷かのんは、与える側の人間でありたいと願っている。


澁谷かのんは、可可の願いを叶えずにはいられない。スクールアイドル活動を始めたい可可のために学校創設者の娘と戦う。そして、自分と一緒に歌いたいと願ってくれる可可のために、人前で歌うことを諦めない。

澁谷かのんは、すみれを選ばずにはいられない。アマチュアの世界に入ってまでセンターに立ちたい彼女に、必死で寄り添い理解しようとする。そして、彼女の望んでいるスカウトという形で、一緒にスクールアイドルをしようと誘う。

澁谷かのんは、千砂都を気にかけずにはいられない。一緒にスクールアイドルをやりたいけれど、ダンスの邪魔をしないために誘わない。そして、電話越しの千砂都の様子がおかしいと思えば、海を渡って駆けつける。

澁谷かのんは、恋を救わずにはいられない。何度も理由なく突き放されても、彼女に向き合い続ける。そして、彼女が全校生徒から受けている非難を拭い、母親の本当の想いを伝えるために走る。

澁谷かのんはLiella!のグループ名を考え、作詞を行い、メンバーの期待に応えていく。普通科と音楽科の間に存在していた大きな壁を壊し、文化祭を成功へと導くことで、故人である葉月恋の母親の願いすら叶える。

澁谷かのんの本質は、幼少期から変わらない。子どもの頃の澁谷かのんは、発表前に怖がっている合唱メンバーには励ましの言葉をかける。自分がどれだけ怖くても、仲間の緊張を解くことを優先する。

道端で転んで泣いている子がいれば、靴を拾って新しい景色を見せてあげる。いじめられている子がいれば、すぐに駆けつけて助けてあげる。

澁谷かのんは一貫して「与える側」の人間だ。


しかし澁谷かのんは、ラブライブで勝つことができなかった。学校中から優勝を望まれて、期待されて、町の人たちにも協力してもらって、最高のステージを用意してもらっていたのに。みんなの願いを叶えることができなかった。与える側であるべき澁谷かのんが、与えられるだけで終わってしまった。学校の人、町の人の厚意に、応えることができなかった。

「夢は、歌でみんなを笑顔にすることです!」

夢は、叶わなかった。


澁谷かのんは、良いライブをすればみんなが笑顔になってくれると思っていた。ステージを用意してくれた結ヶ丘の生徒は、澁谷かのんに「最高のライブを見せてほしい」と伝えていたからだ。しかし結果は違った。「最高のステージだった」と称えてくれた結ヶ丘の生徒は、悲しそうな顔をしていた。目標は達成したはずなのに、みんなが笑顔になっていない。

そして澁谷かのんは、ライバルが言っていたことの意味を理解する。なぜ勝ちたいか。どうして勝たなくてはと思うのか。いいライブをするだけでは、みんなは笑顔にならない。「歌でみんなを笑顔にする」夢を叶えるためには、大会で勝つことが条件となる。

大会を終えた澁谷かのんはホワイトボードに文字を書く。ホワイトボードは決意を示す場所だ。かつて、高坂穂乃果はμ'sの解散を、高海千歌は0を1にすることを決め、それをホワイトボードに提示している。

澁谷かのんが書くのは、みんなを笑顔にするための極めてシンプルな決意だ。


「目指せ!ラブライブ!優勝!!」


☆  ☆  ☆  ☆  ☆


ラブライブの1作目は、太陽のような特別な存在の物語を描いていた。スクールアイドルの先駆者となり、後に語り継がれる伝説を作る人たちの物語。

2作目では、水のようなどこにでもある存在の物語を描く。先駆者にはなれず、特別な才能もない普通の人。そんな普通を輝かせる人たちの物語。

3作目は、輝きを見ている側の物語だ。虹は適した観測位置でないと見えないものだ。虹が存在するために必要な、誰かを輝かせる10人目の物語を描く。

そして4作目のモチーフは、言うまでもなく星だ。ここでは夜空に輝く星のような存在を描く。星とはどんな存在か?

星は、人々から願われる存在だ。その輝きで暗い夜を照らし、人々に夢や希望を与える。ラブライブ!スーパースター!! は、スクールアイドルをそんな星に重ねている。


星が輝くきっかけとなるのは、他の誰かの願いだ。澁谷かのんは可可の願いに応えて歌ったことで、小さな星として輝きだした。その結果がフェスでの新人特別賞だ。澁谷かのんは目的を達成することができた。東京大会では、結ヶ丘の生徒から願われていた最高のライブを見せることができた。

しかし、Liella!は優勝することができなかった。優勝するためには、それにふさわしい願いを受け取る必要があった。東京大会のライブ後、その願いを受けとめた澁谷かのんは、ラブライブで優勝することを決意する。敗北に終わった東京大会で歌った曲は "Starlight Prologue" だ。この出来事が、更なる輝きの序章となる。


星である澁谷かのんは、誰かに願われることで輝く。人々が夜空にむけて願うことで、星は輝き始める。ラブライブ!スーパースター!! におけるスクールアイドルのあり方は一貫している。それは1stシングルのタイトル "始まりは君の空" から変わらない。輝きは、他の誰かの願いから始まる。

Liella!の円陣は、メンバーの指を繋げてひとつの星を作り「Song for Me, Song for You, Song for All」と叫ぶ。彼女たちが歌うのは、自分のためであり、聴いてくれる人のためであり、みんなのためだ。合わせた指で星を作るように、願う人や願われる人、一人ひとりの夢が繋がって、結ばれて、一つの大きな夢をえがく。これが結ヶ丘スクールアイドル、Liella!の輝き方だ。

スクールアイドルになること、スポットライトを浴びること、幼なじみと頑張ること、大切な思い出を守ること、音楽で結ばれる学校を作ること、結ヶ丘のスクールアイドルが優勝すること。これらの夢を共に叶えることができるのは「歌でみんなを笑顔にする」夢を持つ澁谷かのんしかいない。

みんなの夢が繋がって、ひとつの夢になる。

こうして、「私を叶える物語」から始まるラブライブ!スーパースター!! も「みんなで叶える物語」に帰結する。

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