魚が金より高い 近未来、地球温暖化の影響で海水温は上昇し、海洋生態系は激変していた。かつて豊富だった魚介類は激減し、食卓に並ぶのは高級レストランのみ。庶民は、人工培養された海藻や昆虫を主食とする日々を送っていた。 そんな時代、東京湾沿いの小さな漁村に住む老漁師、海野源蔵は、昔ながらの漁法でわずかな魚を獲って生計を立てていた。ある日、源蔵は網に珍しい魚がかかっているのを発見する。それは、かつて「幻の魚」と呼ばれた、ニホンオオウナギだった。 ニホンオオウナギは、絶滅したと思われていたが、深海で生き延びていたのだ。その肉は、とろけるような舌触りと濃厚な旨味を持ち、かつては食通の間で珍重されていた。 源蔵は、このウナギを市場に出せば、高値で取引されることを知っていた。しかし、彼は迷っていた。この貴重なウナギを、金儲けのために売ってしまって良いのだろうか? 源蔵は、幼い頃から海と共に生きてきた。海は彼にとって、かけがえのない存在であり、命の源だった。彼は、海の恵みを奪い尽くすようなことはしたくなかった。 悩んだ末、源蔵はウナギを海に帰すことに決めた。 「お前は、海の宝だ。これからも、海で自由に生きてくれ。」 源蔵は、ウナギを優しく海に放した。ウナギは、感謝するように尾びれを振り、深海へと消えていった。 その夜、源蔵は不思議な夢を見た。夢の中で、美しい人魚が現れ、彼にこう告げた。 「あなたは、正しい選択をしました。私たち海の民は、あなたの行いを決して忘れません。」 目が覚めると、源蔵の心は晴れやかだった。彼は、金よりも大切なものを守ったのだ。 翌朝、源蔵はいつものように漁に出た。すると、彼の網には、たくさんの魚がかかっていた。それは、今まで見たこともないほどの豊漁だった。 源蔵は、海の恵みに感謝し、これからも海と共に生きていくことを誓った。 この出来事は、人々の間で語り継がれ、「魚が金より高い」という言葉は、お金よりも大切なものがあることを教える、教訓となった。