14.ヘリウム(丸に梅鉢・楽曲コラム)
不思議なものや、取り立てて目立ってしまっているものを、私たちは「浮いている」と表現する。
浮く、ということはどういう現象なのだろう。
「あの子、浮いてるよね」
「化粧が浮いちゃった」
「今ちょっと浮き足だってて」
風船だとか、水の上のアメンボだとか、実際に「浮いている」ものとは少し違う。
もうひとつ例を挙げたい。
心理学・精神医学の領域で「離人感」という言葉がある。
離人感とは
「身体または精神から自分が切り離されたような感覚が持続的または反復的にあり、自分の生活を外から観察しているように感じること*1」
この感覚は「自分が浮いている」「現実味がない」「自分を他人のように感じる」など表現される。
自分自身から切り離されていることも「浮いてる」と言えるような気がする。
様々な「浮いてる」を言語化してみると、「本当はそこにあるものを気付けなくさせている状況」だと思った。
なぜ、本当にそこにあるものに気づけないのか。
ひとつは、知らなくても害がないから。
もうひとつは、知ることで傷つくから。
私はこの『ヘリウム』で後者が描きたかった。
傷から守られるため、浮くことを選択している愚かな「ヘリウム」たちの物語。
「知ることで傷つく」という事実は、本人さえも知らない無意識のなかで凝固している。
そして「世界を知ると傷つく」と思い込んでいるもの同士は惹かれあうが、近づきあってもお互いに浮くばかりなのだ。
8年ほど前に作った曲で、隠れて人気のある曲なのだが、音源がなかった。
今の自分の心境には合わないと封印していたからだ。
今回、満を持して、アルバムをラストへと導く曲に選ばれた。
この曲が心に響く皆さんが、「浮く」ことを選択しつづければならない状況を超えられますように。