12.金平糖(丸に梅鉢・楽曲コラム)
私の好きなバーでは、数杯飲んだあと、可愛い小皿の上に金平糖が出てくる。
トマト味や、しそ味、とうもろこし味、なんていうものもあったような気がする。
confeito [kõˈfɐjtu]というポルトガル語が語源だという。
糖菓という意味である。
もともとは、植物の種子を芯にして砂糖の層で覆った菓子だったようで、ドラジェとも言われている。
ドラジェの中身はアーモンドで、実をたくさんつけることから多産や繁栄を意味し、幸福の象徴とされている。
(余談だが、私は子供の頃からドラジェが大好きだ。可愛いハートの瓶のなかに入れられた資生堂パーラーのドラジェを、1日1粒ずつ食べさせてもらっていた。)
そしてドラジェのように、金平糖も縁起物とされている。
長い時間をかけて慎重に撹拌しながら沢山の美しい球体を作り上げて行くことから「夫婦円満」や「子孫繁栄」。
5色の色が幸運をもたらす「招福招来」。
多量の突起には悪運を払う効果があり「鬼」を遠ざけることから「無病息災」「家内安全」。
皇室の引き出物として使われていることも、縁起物とされる理由の一つだろう。
巷ではそのように幸福の象徴として扱われている金平糖。
私はこの金平糖を、縁起物というよりは「矛盾を孕んだ爆発物」のように思うのだ。
姿はまるでマキビシのようで、棘だらけ。
それなのに色とりどりで、食べると甘い。
「攻撃性をその姿に孕みながらも、可愛く、甘い」
それは私が女性に対して感じる、最高と最悪を混ぜ合わせたような美しい凶器に思える。
そしてまた、女性が否応にも背負う苦しみにも似ているように感じる。
可愛い菓子として瓶の中で、しずしずと大人しく詰められ、皆から愛されること。
金平糖がその攻撃性を我慢しながら瓶に詰められている姿が、抑圧されてきた女性たちの姿と重なった。
そしてまた、社会の中で自己を抑圧して過ごしてきた自分とも重なった。
そういう抑圧による役割を果たすことの苦労は、世の中には溢れているのではないかと思う。
多くの人に安全や繁栄の縁起物として愛される金平糖を、攻撃や爆発の象徴とする皮肉めいたこの曲。
収録するか最後まで迷った。
しかし、金平糖という皮肉を自身の中に持つのは私だけではないはずだと信じ、収録に至った。
自身の中の皮肉を、甘い砂糖菓子として他者の口の中に放り込ませることが、いつしか武器になるように。
そんな思いが裏側に秘められたタイトルであることを、心に留め置いてもらえると作者としては嬉しい。