初めて学会というものに参加してみた話~シンポジウム「AI活用・教育データの利活用とその課題」の感想を中心に
昨日、川崎市のカルッツ川崎で開催された「日本教育工学会2022年秋季全国大会」に参加する機会に恵まれた。
会員でもなければ研究者でも教員でもない私が、なぜ突然教育工学の学会なんてものに参加したのか。
実は、川崎市教育委員会が開催地として大会の共催に名を連ねたため、川崎市関係者は無料で参加できることとなり、その案内通知が学校に来たのを目にしたせいだ。
(事務職員は文書受付処理を行うので、ほとんどの通知を目にすることができる)
(ちなみに言えばその案内は私の職場の校内では、結局教員に周知されていない…と思う)
私は「教育データの利活用」問題に批判的な立場から関心を寄せ、(しばしばサボりつつも)その動向を追うとともに、関係先においてこれに関する考えを公にする機会をいただいてもいる。
2021年3月9日・院内集会「デジタル化される医療と教育」でのレポート
3・9 院内集会「デジタル化される医療と教育」 - YouTube
2022年2月26日・全学労連ニュース
「教育データ利活用ロードマップ」 あらゆる個人情報から内心に至るまでを蓄積し流通させ生涯管理と選別の社会を生み出す危険な企て
しかるに日本教育工学会は、この教育データ利活用に関する「推進派」の拠点?縄張り?的な学会であろう、という認識。
特に会長の堀田龍也東北大教授は、文科省が設置する「教育データの利活用に関する有識者会議」の座長をはじめ様々な政府検討会議のメンバーを務め、教育データ利活用の推進を担っている人物として、メディアも含めその発言をしばしば目にする。
まさに教育データ利活用の中心人物と言っていいだろう。
となれば、この学会は私とは見解を異にする点が大、という理解。
とはいえ、批判するにしてもその対象のことを知らなければ論は展開できない。
せっかく無料で参加できることだし、大げさに言えば「敵情視察」の気持ちで行ってみようかと考え、プログラムを確認。
すると初日のシンポジウムの演題は「AI活用・教育データの利活用とその課題」とある。まさにどんぴしゃ私の関心対象だ。
「課題」がどの程度提示・剔出されるのかも見ものだぞと。
しかもパネリストに、教育データ利活用に関する課題を憲法学の立場から指摘されている堀口悟郎岡山大准教授がいらっしゃる。かねてお話を聞いてみたいと思っていた方で、良い機会だ。
そんなわけで、川崎市関係者枠により参加することにした。
当日。
目当てのシンポジウムは午後だったが、仮にも市の枠で参加する身であまり遅くに行くのもあれだし、冒頭にチュートリアルもあるというから、それに間に合うように向かう。
「川崎市関係者」受付へ。おそらく総合教育センターの人。学校名と名前を聞かれ伝えると、参加票が確認されプログラムや名札を渡される。
「さっきまで情報研(川崎市立小学校情報教育研究会)の人がそこに集まってたんですけどね」と言われる。「いや、私情報研関係ではないので…」と返すと「おやおやそれはわざわざご参加を…」的な反応。
事務職員ですとまでは言わなかった。
冗長になってきたのでまとめる。
〇午前中見て回ったポスター発表、ほとんど意味がわからなかった。(←門外漢なので残念ながら当然)
〇ポスター発表者のなかに、17年前に学生自治をめぐりちょっとピリッとした関係になった大学職員がいた。当時は職員だったが今は教授なのね。私のことなどもう忘れてるだろうから話しかけはしなかった。
〇出版社のブースを眺めていたら営業の方に「献本しますよ」と書類を渡されそうになる。「あ、これたぶん大学教員だと思われて授業の教科書に使ってくれって営業だ…!」と気付き「いや、私小学校の職員なので」と返して逃げる。
〇昼食問題。カルッツ周辺は食べるところ少ないんですよね。昔、近くの教育文化会館で初任研受けてたのでよく知ってる。で、カルッツ向かいの川崎競輪場に突入しそこでパクつく。
〇午後イチの全体会。開催地として教育長が話していた。感想は言わない。
〇シンポジウムは良かった。目当ての堀口先生は期待通り。
〇それ以上に、指定討論者の美馬のゆり・はこだて未来大教授の課題提起が素晴らしかった。私が問題視している点の一端を、当然ながら私などよりはるかに高い水準で突きつけてくれた。
〇具体的には、AIの実態を踏まえた様々な問題点(キーワードだけ挙げると「不透明性」「規模拡大」「有害」「代理指標」)を指摘し、それを教育に適応することの危うさについて、教育工学や文教行政はどう対処するのかと質す内容。
〇パネリストの文科省桐生崇教育DX推進室長。そもそもシンポジウムの題目を理解していなかった?AI活用に関する課題指摘を受け「今はその段階にはない。現段階では言えない。論点を囲っていかないと進まない」って、それはないでしょうよ。(私、小声で「エー!」とつぶやく)
〇桐生室長のこれに対し美馬先生「まだそれを考える時期ではないと言っているうちに、どんどん進んでしまう」と指摘。(私、小声で「そうだそうだ」とつぶやく)
〇キーノート兼パネリストの安田クリスチーナさん。ぶっちゃけ、肩書として記されていた「マイクロソフト」から情報産業の代弁者的なこと言うのかと思っていたが、全然違った。考えが違う点も多いが非常に良いお話だった。特に、AIにまつわる問題として避けて通れないスコアリングの問題に関する、実体験を踏まえたコメントは素晴らしかったし勉強になった。
〇パネリストの緒方広明京大教授。この方も教育データ利活用のためのシステム開発・実装に係る第一人者との認識。でも「現場でやっているけど先生方は優秀なので指摘のようなことにはなってない」って、ちょってあまりに課題認識が軽くないか。
〇文科省桐生室長、それからコーディネート役だった村上正行阪大教授の発言にも聞いて取れたのだが、技術の進展の中でその先端にいる立場と一般の人々の認識に距離が生じている(それはその通り)中で、後者を下に見るような意識が感じられた。
〇ともあれ、推進側も先端と一般の認識の乖離は理解していることはわかった。
〇であればこそ、(これは私の従来からの問題意識だが)推進側はここでしているような議論に教員・保護者・子ども・市民を巻き込んでやってきたか?政策的に上から進めようとばかりしてきた/していいるのではないか?コロナ禍に乗じたGIGAスクール構想~「ピンチをチャンスに」などと言って~に便乗する形で、教育データ利活用をある種どさくさ紛れに進めようとしている。私にはそう見えて仕方がない。
ともあれ、学会とはこういうものなのかという新鮮な発見とともに、教育データ利活用の最先端にいる方々の議論を見聞きすることができたのは望外の機会となった。
冒頭のチュートリアルで村上副会長が、「議論を闘わせる場に」と言っていた。
学会そのものを推進派の縄張りと考えていた私は「ほんとにそうなるんかいな」「推進派同士の上げ合いのシャンシャンなんじゃないん」と思っていたが、それは邪推であった。
本当に行って良かった。