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iPhone 14が衛星通信機能を搭載
今月(2022年9月)8日、AppleがiPhone 14シリーズを発表し、シリーズ4機種全てに衛星通信を用いた緊急SOS機能を搭載することを明らかにしました。今年11月から米国とカナダでサービスが開始される予定です。
(2022.11.16追記)今年11月15日から米国とカナダで緊急SOS機能の提供を開始しました。12月にはフランス、ドイツ、アイルランド、英国でも利用できるようになる予定です。
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1.iPhone 14搭載の衛星通信機能
今回iPhone 14に搭載する衛星通信機能では、携帯電話の電波が届かないエリアでも、人工衛星経由で緊急SOS発信を行うことができます。
この衛星通信サービスは、低軌道衛星コンステレーションを運営する米国の衛星通信事業者のGlobalstarとAppleが連携して提供します。
通常、衛星通信用のアンテナは、携帯電話用のアンテナよりだいぶ大きいのですが、アンテナを小型化して、iPhone 14の本体内に衛星通信用のアンテナを内蔵しています。また、今回利用する衛星通信サービスで送受信できるデータ容量が小さいため、緊急通報のみで利用可能となっています。
実際に人工衛星経由でSOS発信する場合は、利用する人工衛星を肉眼で確認することができないため、人工衛星の方角を示すガイド表示機能を導入し、ユーザーが自分で、その方角にiPhone本体をかざすことによって、衛星通信を行う仕組みとなっています。
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また、衛星通信の限られた帯域でも短時間で発信できるように、独自のテキスト圧縮アルゴリズムを実装し、空を見渡せる状況なら15秒以下で発信できるといいます。
緊急通報時にテキストベースの情報を素早く送信できるように、画面表示に従って、ユーザーの現在の状況や緊急度合いなどを選択肢から選ぶ方式のアプリを採用しており、同時に位置情報も送信されます。
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通報した内容は、アプリを通じて、Appleが運営する中継センターに伝達され、中継センターが警察や消防などの通報先に代理で電話をします。
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さらに、iPhoneなどの位置情報探索アプリを通じた現在地の共有にも対応するそうです。
今年11月から米国とカナダでサービスが開始され、最初の2年間は利用料無料で提供されます。なお、このサービスがいつ日本でも提供されるのかは未定です。
iPhone 14では、このほかにも、自動車の運転中の衝突事故を検知して、自動で緊急通報を行う機能を搭載するなど安全面に力を注いでいるようです。
2.Globalstar
今回、Appleと提携して衛星通信サービスを提供するGlobalstarは、衛星電話と低速データ通信用の低軌道衛星コンステレーション(地球の上空を高速で周回する複数の低軌道衛星(LEO)を次々と切り替えて地上との通信を実現する仕組み)を運営する米国の衛星通信事業者です。同社は、防衛関連企業のLoral Corporationと通信機器メーカーのQualcommの合弁会社として1991年に創業しました。
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Globalstarの第2世代衛星コンステレーションは、2013年までに打上げられた24個の低軌道衛星で構成されています。
24個の人工衛星は、Thales Alenia Space社製で、Sバンド用とLバンド用の2種類のアンテナを有する通信システム、台形型の本体、2つの太陽光発電アレイで構成されており、受信した信号をそのまま折り返すベントパイプ方式の中継器を採用しています。地上からの高度は1,414kmとなっています。
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3.他の事業者などの動き
(1) Huawei
AppleがiPhone 14を発表する直前の今月6日、中国のHuaweiも、人工衛星と直接通信できる機能を搭載した新型スマホのMate 50シリーズを発表しました。
Mate 50も、iPhoneと同様に、人工衛星を介して、メッセージと位置情報を送信することができます。
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この衛星通信サービスは、中国が2012年から運用している衛星測位システムの「北斗」を利用します。北斗衛星は、2020年6月までに55基の人工衛星が打ち上げられ、第3世代のシステムが完成しました。
北斗衛星は、GPSと異なり、地上通信機器からの信号の送信も可能で、Mate 50は、専用のアプリを使って、メッセージと位置情報を北斗衛星経由で送信し、携帯電話の電波が届かないエリアでも、緊急時などに自分の居場所を伝えることができます。なお、送信専用でメッセージを受信することはできません。
また、現時点では、中国国内のみでのサービス展開となる見込みです。
(2) Starlink
イーロン・マスク氏が率いるSpaceXも、今年8月にスマホから直接、SpaceXの衛星通信サービスのStarlinkを利用できるようにするCoverage Above and Beyond計画を米国携帯電話事業者のT-Mobileと共同で発表しています。
こちらのサービスも、当初は、SMS(ショートメッセージサービス)などのテキストメッセージの通信から始める予定ですが、マスク氏は、将来的に音声通話や動画などのデータ通信にも対応するつもりだと発言しています。
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Appleの衛星通信サービスとの違いは、T-Mobileが所有する既存の携帯電話用周波数を利用することにより、iPhone 14のような衛星通信用の特別なアンテナを内蔵しなくても、現在のスマホをそのまま利用することができるという点です。
SpaceXは、高度約550kmの第2世代Starlink衛星の打上げ後、2023年末までに米国の一部地域で試験サービスを開始する予定です。
(3) AST SpaceMobile
日本の楽天モバイルや英国のVodafoneグループと提携した米国の衛星通信事業者のAST SpaceMobileも、スマホと低軌道衛星を直接通信できるようにするスペースモバイル計画を進めています。
この計画も、Starlinkの計画と同様に、既存の携帯電話用の周波数を利用することを想定しています。
AST SpaceMobileは、今月10日に、SpaceXのロケットFalcon 9を利用して、重量1,500kgの試験衛星BlueWalker 3の打上げに成功しました。
この人工衛星は、これまでに宇宙に打ち上げられた中で最大の商用通信衛星であり、今後、巨大なアンテナを展開して、楽天モバイルやVodafoneなどの提携通信事業者と共同で通信実験を行う予定です。
(2022.11.18追記)通信アンテナの展開が11月14日に完了しました。一方で、BlueWalker 3が明るすぎて、天体観測に影響を及ぼすなどの問題が明らかになっています。
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BlueWalker 3では、地上の携帯端末からの微弱な電波を受信するため、64㎡にも及ぶ巨大な太陽光発電アレイとアンテナを搭載して、人工衛星を高度の高い携帯電話基地のように機能させる予定であり、最終的には、試験衛星よりさらに大きな太陽光発電アレイが搭載された人工衛星を高度730kmに100基以上打ち上げる予定だといいます。
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これが成功すれば、iPhoneの衛星通信サービスなどと比べて、はるかに高速大容量の通信が可能となるはずですが、実験は予定通り進むのでしょうか。最初の試験衛星BlueWalker 3の通信実験の成否が注目されるところです。
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4.まとめ
現在は、まだ緊急時のテキストメッセージの送信を目的とするものが主流ですが、多くの通信事業者や通信機器メーカーがスマホからの直接衛星通信について関心を持ち、参入してきていますので、今後は、音声通話や容量の大きなデータ通信などの新しいサービスがどんどん出てきて、台風の目となることが予想されます。
一方で、国境を越えたサービスが可能な低軌道衛星コンステレーションの発展で、既存の国内通信事業者との軋轢も起こってくるでしょう。
今は、まだStarlinkの利用さえ始まっていない日本は、今後どうなっていくのでしょうか。今後の動きから目が離せません。
(2002.11.16追記)日本でも、今年10月からStarlinkサービスの提供が始まっています。