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メタバース入門Ⅲ(メタバース実現に向けた企業の取組)

【メタバース入門Ⅱ】に続き、「5.メタバース実現に向けた企業の取組」から解説します。 


5.メタバース実現に向けた企業の取組

 一部の大手ゲーム企業や巨大IT企業は、以前からメタバースの実現に向けた布石を打ってきました。特にメタバースの実現に積極的な企業について、以下で説明します。

(1) エピック・ゲームズ(Epic Games)

 メタバースの実現に向けた積極的な取組を進めている企業の代表として、エピック・ゲームズがあります。同社は、3Dゲーム用ゲームエンジンのスタンダードであるアンリアル・エンジンを開発し、5億を超える登録アカウントを持つ代表的MMORPGの「フォートナイト」を提供する米国のゲーム会社です。

 エピック・ゲームズは、二つの戦略でメタバースのリーダー的存在になろうとしています。
 一つ目の戦略は、フォートナイトのような人気オンラインゲームにソーシャルサービスの機能を追加し、様々なイベントを開催して参加者を集めることによって、ゲーム空間上で人々の交流や活動が行われるメタバースを実現しようというものです。

 このため、エピック・ゲームズは、2020年からフォートナイトにゲーム性の強いバトルロイヤルモードとは別に、ソーシャルサービスの要素を強化したパーティロイヤルモードを実装しました。

 また、フォートナイトのゲーム内で、トラヴィス・スコットや米津玄師などの有名アーティストを招いてオンラインライブを開催したり、ゲーム内のバーチャルスクリーンで「インセプション」などの映画を上映したりするなど、多くの参加者を集める様々なイベントを企画し、実行しています。

 もう一つの戦略は、3Dコンテンツ制作のためのゲームエンジンやコンテンツ流通のプラットフォームを幅広く提供することにより、3Dコンテンツのクリエイターを自社の運営するメタバースに囲い込もうというものです。

 エピック・ゲームズの開発したアンリアル・エンジンは、ゲーム開発だけでなく、建物、自動車などの設計や映画、ビデオの制作など幅広い分野で活用されており、一般ユーザーがメタバース上に配置する3Dコンテンツを制作するためにも利用することができます。

 また、リアルな3Dキャラクターを簡単にモデリングできるツールや3Dの建物、地形などをリアルタイムに描画できるツールなどを提供し、多数の高品質3D資産に簡単にアクセスできるようにするなど、クリエイターがアンリアル・エンジンを利用して3Dコンテンツを制作しやすい環境を提供して、クリエイターの囲い込みを図っています。

 さらに、デジタルゲームをオンライン上で販売できる「エピック・ゲームズ・ストア」を開設し、アンリアル・エンジンでゲームを開発した場合は、エンジンの使用料を免除しています。

(2) ロブロックス(Roblox)

 2021年3月に上場したオンラインゲームプラットフォームのロブロックスも、メタバース企業であると強く主張しています。
 ロブロックスでは、ゲームエンジンの「ロブロックス・スタジオ」を使って、ユーザーが簡単にゲームを作成したり、他のユーザーが作成したゲームをプレーしたりすることができます。

 1日当たり5,000万人近くのアクティブ・ユーザーが参加しており、低年齢のユーザーが多いことが特徴です。
 アメリカでは、16歳未満の子供の半数以上がロブロックスを利用しているそうです。
 また、ロブロックス内では、ロブックスという仮想通貨が流通しており、一定の条件の下で現実の通貨と換金することもできます。

 このように、ロブロックスは、ユーザーが簡単にコンテンツを創作できて収益化も可能なコンテンツ制作プラットフォームデジタル資産を自由に取引できるエコシステムを軸に、メタバースの実現に取り組んでいます。


(3) 中国企業のメタバースへの取組

 メタやマイクロソフトなどの米国企業のメタバースへの積極的な取組に対抗して、中国の大手IT企業も次々とメタバース関連事業に参入しています。

 中国インターネット検索最大手のバイドゥは、2021年12月に、独自開発した仮想空間「シーラン」を公開しました。
 スマートフォン用アプリを使い、「クリエーターシティー」と呼ばれる仮想空間内で他のユーザーと交流したり、観光したりすることができます。
 最大で10万人が同時に利用可能で、VRヘッドセットにも対応する予定とのことです。

 また、動画共有サイトのTikTokなどを運営するバイトダンスは、2021年8月に90億元(約1610億円)でVRヘッドセットを開発する「ピコ・テクノロジー」を買収し、メタバース型のSNSの開発に乗り出すなどメタバース事業への進出に積極的に取り組んでいます。

 テンセントは、主に投資を通じて、メタバース分野への参入を進めています。同社は、メタバース事業の主要プレイヤーであるエピック・ゲームズの株式の40%を保有しており、ロブロックスにも出資して、中国市場における同社の販売代理店を引き受けています。また、その他にもゲーム、SNS、eスポーツを手掛ける会社などメタバースに関連する数多くの企業に投資を行っています。

 アリババグループも、最近、日本のゲーム開発会社と提携して、企業向けメタバース構築サービスの提供に乗り出しました。

 このように、中国の大手IT企業は、メタバースの実現に向けた技術開発や投資を加速させていますが、一方で、中国政府は、中国国内におけるネットワークゲームや仮想通貨などへの規制を強めており、今後、中国企業によるメタバースへの取組がどのように進んでいくのか予断を許さない状況です。


〇全体構成

【メタバース入門Ⅰ】
 1. メタバースとは何か
 2. メタバースを支える技術
 3. メタバースの分類
【メタバース入門Ⅱ】
 4. メタバースの歴史
【メタバース入門Ⅲ】
 5.メタバース実現に向けた企業の取組
メタバース入門Ⅳ
 6. 代表的なメタバースサービスと始め方
【メタバース入門Ⅷ】
 
7. メタバースの課題と展望

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