核融合を想う

マイクロソフトがヘリオン・エナジーから2028に核融合電力を受ける契約を結ぶなど、最近核融合の話題が目立つ。主に民間ベンチャーである。こういうベンチャーにべらぼうな投資が出るのがアメリカの凄いところだ。騙されたりコケたりするのを恐れない。

国際研究機関が延々と研究してた核融合は重水素・トリチウム(DT)核融合だが核融合ベンチャーは他のタイプを選択しているケースが多いようだ。
DT核融合は反応条件が比較的楽なのだが(それでもブレークイーブンできてないが)それ以外の問題が大きいせいもあるだろう。

まずDT核融合では多量の高速中性子が発生する。2kgの重水素と3kgのトリチウムを反応させると1kgの中性子が発生するのだ。素粒子の目方売りとか。この高速中性子は核融合炉を放射化(放射性同位体になる)するし、強度を脆化させる(放射性同位体別の元素にかわっちゃうから)。
次に、トリチウムが天然では存在しないことだ。現在、トリチウムを生産しているのは重水炉(大半がカナダ)だが、全世界の生産量合計はせいぜい年間数kgなので全然足りない。国際研究機関の計画では、核融合炉から発生する膨大な高速中性子をリサイクルしてトリチウムを量産するという自転車操業でこれを解決することになっている。
あとは、核融合で発生するエネルギーの大半が高速中性子に持っていかれるので、お湯を沸かしてタービン回すおなじみの方法でしか発電できないことだ。

まあそんなわけで民間ベンチャーたちはDT反応に見切りをつけて研究している。
マイクロソフトと契約したヘリオンエナジーは重水素・ヘリウム3核融合を狙っている。ガンダムの動力源である。重水素・ヘリウム3核融合は反応条件はキっついが中性子の問題はあんまりなく、お湯を沸かさずに発電できるのだが、問題はヘリウム3が地球上にほとんど存在しないことだ。
ヘリオンエナジーはどうやってヘリウム3を調達するつもりだろうか? 2028年までにジュピトリスを建造して木星に行くのだろうか?

ヘリウム3核融合による発生エネルギー:18.354MeV
ヘリオン・エナジーの目標値:50MW
発電効率:95%
ここから雑に計算して燃料として必要な重水素(D)とヘリウム3(He3)は0.1原子モル/h。1日あたりDが4.8g、He3が7.2gが必要だ。

手っ取り早い方法としてはトリチウムの崩壊を待つ手がある。トリチウム(半減期12.3年)は最初の一年、1日あたり雑に0.015%がHe3に変化する。
1日7.2gのHe3を手に入れるには、雑に計算して48kgのトリチウムがあればいい。例えば純度100%のトリチウム水(HTO・分子量20)をざっくり320kg、密閉容器に入れてこぽこぽ湧いてくるHe3を回収するとかだ。
問題はトリチウム48kgの調達方法だろう。
そんなに作ってないのだ。ついでに言うとトリチウムは水爆の材料でもあるのでベンチャーがそんなほいほい入手できるかわからない。

実際のところ、ヘリオンエナジーは磁場による圧縮と、高効率クローズド燃料サイクルを利用するプラズマ加速器で重水素を融合することによりヘリウム-3を自社で生成する、とか言ってるらしいがようわからん。
加速器で原子核を衝突させるのは超効率悪いと思うんだがどうなのか。まあDHe3反応ができるんならDD核融合は確実にできるだろうが(DD核融合反応は50%の確率でHe3が生成する)。

あるいはミューオン核融合でHe3を作るのかもしれない。銀河漂流バイファムとか2001年宇宙の旅である(加速器はミューオン生成に使う)。
ミューオン核融合はすでに理研&ラザフォードアップルトン研究所が進めていて、連続稼働の実績もある。反応のレベルは極低温の重水素の温度がちょっと上がったりするレベルなのでまあエネルギー回収など何それ状態だが。現状では180日間連続稼働して生成したHe3は1mgにも届かないと思われるので大幅なスケールアップが必要であろう。

さてどうなることやら。いずれにせよ、地球上でヘリウム3をほいほい作れるようになると木星でヘリウム3を調達するというガンダムの設定は大幅に見直さざるを得なくなるだろう。富野監督がストレスでハゲてしまうのではないかと心配だ。

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