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第2回これはゲームなのか?展出展者インタビュー#2 朝戸一聖(TANSANFABRIK)

アーツ千代田3331で12月7日から15日まで開かれるゲームの展覧会、「第2回これはゲームなのか?展」には、17組の作家が出展します。17組いれば17通りの異なった背景がそこにはあって、そのためコンセプトの解釈も、もちろん作品そのものも異なっています。

これから展覧会までの間、各作家さんへ1組ずつインタビューを行います。質問は3つで、過去、現在、未来に対応しています。1.(過去について)あなたはどんな人で、どんな背景を持っているのか。2.(現在について)これはゲームなのか?展について、コンセプトをどう理解してどう考えているのか。3.(未来について)1と2を踏まえて、どんな作品を作ろうと思っているのか。

これを読んでから展覧会に行った方は(または、図録を読んだ方は)より立体的に作品が楽しめます。第2回は朝戸一聖さん、インタビュアーはニルギリです。

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#2 朝戸一聖

「ルールの体験によって得られるものが、必ずしも善いとは限らないということの面白さ」

聞かれる人:
朝戸一聖
1988年生まれ、京都造形芸術大学(京都芸術大学 通称 瓜芸)卒業、卒業後同級生3名とボードゲームの専門会社タンサンを立ち上げる。
京都を拠点に、ゲームのディレクション、アートワーク、ゲームデザインなどを手がける。制作したボードゲームでグッドデザイン賞ベスト100、グッドトイ受賞。これはゲームなのか?展副代表。

聞く人:
ニルギリ
これはゲームなのか?展代表。

TEXT: ニルギリ
PHOTO: Masao Fukase

こんな面白くて、何よりも面白いのに、日本にこんだけしか会社がないわけないだろと思っていた。

- 学生時代についてお聞きします。学科はゲーム学科だった訳ではないですよね?

朝戸:
 プロダクトデザインでした。工業デザインが好きでした。今も好きですけれど。

- 携帯電話とか?

朝戸:
 そう!INFOBAR※1とかでおなじみのau desigin projectの時代。あれは良かったですねー。

※1 INFOBAR:2003年に発売されたデザイナー深澤直人氏が手掛けた携帯電話端末。

- どれを選ぶか、迷いました。

朝戸:
 そうそうそう。

- neon※2を使ってました。

※2 neon:2006年に発売された携帯電話端末。INFOBARと同じく深澤直人氏がデザイン。

朝戸:
 neon!大好き。僕も水色のフラグシップのを使っていました。深澤直人さんデザインの。あのソリッドさはらしい感じでした。
 スマホになってからちょっと面白くないです。最近のiPhoneが……(ひとしきり、スマホの話で盛り上がる)

- わかります(しみじみ)元々、プロダクトデザインがお好きということですね。途中からボードゲームをやろうと思ったきっかけは何かありますか?

朝戸:
 何ですかね。普通に面白くて。もともと遊んでいました。ただ、当時はあまり発展していなかった。僕はいまでは割と(ボードゲーム界隈では)昔の人になってしまったのですけれど。

- ご自身では、ベテランだとは思っていない。

朝戸:
 そうですよ。本当にいつの間にか。

- もう中堅どころか大御所だと思っていますけれど。

朝戸:
 嫌だな~そんなことないですよ。でも、浅草の人※3はそうなりつつありますよね。

※3 浅草の人:2001年~2012年までのゲームマーケットが浅草の産業貿易会館で行われていた時期から出展していた人のこと。

- 浅草時代を知っているだけでそうですよね。自分はビッグサイト時代からしか知らないです。オインクゲームズ※4の佐々木さんと同期くらいですかね?

※4 オインクゲームズ:アナログゲームとデジタルゲームを制作するゲームスタジオ。代表は佐々木隼氏。代表作「海底探険」「藪の中」など。これはゲームなのか?展には第1回より参加。

朝戸: 
 ほぼ同期だと思います。ライバルだと思っています……嘘です(笑)

- オインクさん、TANSAN※5さんそれぞれの立ち位置の違いを評して、朝戸さんがAppleとAndroidと言ったというのは事実ですか?

※5 TANSAN:朝戸氏が代表を務める会社。

朝戸: 
 ああー、そうそう、AndroidとiOS。佐々木さんのところはAppleであり、iOSなんです。自分たちの完成されたプロダクトを出すし、そもそもオインクさんのパッケージの大きさは、iPhone4の大きさですよ。

- 知らなかった!そうなんですね。

朝戸: 
 うちはAndroidを目指しています。Windowsのようなもので、ガワに合わせてやるということです。ソフトウェアを提供するだけというか。いろんな人と組んでやっています。

- TANSANさんの話題に移っていきます。在学中からTANSANFABRIK※6というグループはあったのですか?

※6 TANSANFABRIK:株式会社TANSANが運営するボードゲームレーベル。

朝戸: 
 そうです。在学中の2回生の時に作ったグループです。一緒にボードゲームを遊んでいた友達と3人です。最初からずっと3人で、増やしたいですけどね。

- そうですよね。先ほどのお話からすると、オインクさんの側の方が少人数で、TANSANさんの側が多人数ならわかるのですが、完全に逆ですもんね。

朝戸: 
 確かに。

- 手を超えていませんか?

朝戸: 
 いやいや、違うんですよ。プロダクト販売とクライアントとで分かれているんです。規模拡大の難しさ。クライアントワークだとスケールアウトしにくいという。

- これからBtoCをやっていこうというプランはあるのですか?

朝戸: 
 まあ、BtoCはずっとやっているし、もっと力を入れたいと思っています。それはそうです。スケールアウトしないので。

- 在学中、始めるときは会社を作ろうということでは無かったんですよね?

朝戸: 
 普通によくあるボードゲーム制作チームとして、デビューしています

- どこで会社にするというジャンプをされたのですか?

朝戸: 
 卒業する時に就職したくなくて。ボードゲームの黎明期っぽかったので、早めにやっておこうと思って。

- 凄い先見の明ですね。こんなに業界が大きくなるとは。

朝戸: 
 大きくなるとは思っていました。こんな面白くて、何よりも面白いのに、日本にこんだけしか会社がないわけないだろと。

- 面白いという確信がまずあったのですね。

朝戸: 
 はい。まあ、ボードゲームしている人は皆あると思いますけれど。
ボードゲームの広がりは思ったほどじゃなかったかな(笑) まだまだこれからですよね。

- (笑) はい、まだまだこれからですよね。

任天堂が好きなんです。

- ゲーム自体は、元々お好きだったのですか?

朝戸: 
 そうです。デジタル、アナログどっちもです。結構デジタルとアナログって分けて語られますが、遊ぶ時に『人生ゲーム』するか『スマブラ』するかで別にそんな差がないです。そういう感じでした。

- いわゆるデジタルゲームだと、何がお好きだったのですか。

朝戸: 
 僕は任天堂が好きなんです。京都に住んでいるのも任天堂の本社が京都にあるから、ここで会社作るぞー!と思って。

- じゃあ、いつか任天堂と仕事をできたら……

朝戸: 
 めっちゃいいなと思って。出来てないですけれど。

- 任天堂さんって、出来てくるものを見ていると明らかにボードゲームを研究しているように思えるのですが、だとするとそのうち一緒にできる可能性はあるかもしれませんよね。

朝戸: 
 そう。そうかもしれない。最近特にね。Nintendo Switch(以下、スイッチ)で顕著になってます。

- ボードゲーム、食われないですかね。

朝戸: 
 食われないですよー! 大丈夫です。レコード盤のように、これがいいよねという人が残っていくんじゃないですかね。

- もっとニッチになってしまいますか?

朝戸: 
 ニッチになるというか、マスに広がる時にスイッチの方が広がりやすいだろうなとは思うのですが、今わざわざボードゲームをやっている人がボードゲームをやめてスイッチの方がいいと移動するということはそれほど多くないんじゃないかなと思っています。どっちもやるんじゃないですかね。

- いま、ボードゲームは業界全体が大きくなっているから……こう言うとなんですけれど、自分を含め有象無象の人が集まってきています。デジタルゲームの黎明期ととても似ている気がするんです。いろんな人が入ってきて、その分いろんなジャンルのバリエーションができて面白い、という。
しかし、ということはボードゲームでも同じことが起こる可能性があります。これから大資本によるボードゲームが生まれてきて、個人製作者の幅が狭くなっていく、ということが起こるのでしょうか。

朝戸: 
 でも、今もSteam※7などで小さいのが出ているじゃないですか。そんなに変わってないかなと思いますね。

※7 Steam:パソコン向けゲームのプラットフォーム。4000以上のゲームが配信され、ユーザーは全世界で1億人を超える。

- 確かに、デジタルでも同人がなくなったかといえばそんなことないですね。

朝戸: 
 見せ方が変わっただけで、いうほど変わってないです。

- Steamのゲームもお好きなんでしたっけ。『Factrio』※8とか……

※8 『Factrio』:Steamで配信されているWube Softwareが開発するリアルタイムストラテジービデオゲーム。資源を使い採掘、輸送などを自動化しながらゲームを進める。

朝戸: 
 『Factrio』大好き! 良いですよねー面白い。Steamで一番面白いゲームは『Factrio』だと僕思っていますよ。生産ラインを作るゲームです。効率化につぐ効率化をするゲームで、最終的には設備を作るロボットを作るくらいのレベルになるんです。

- 拡大再生産でもあるんですかね。ちょっとボードゲームぽさもある。

朝戸: 

 ボードゲームぽくもある。いやどうかな……うん、ボードゲームぽさもある。効率を重視する感じ。


遊びは炭酸だと思っている。

- 話を戻しましょう。TANSANFABRIKを立ち上げて、ボードゲームでやっていくぞとなり、そこから「これはゲームなのか?展」までにかなり時間があるわけですが、その間は主にどういうことをされていましたか。

朝戸: 
 えっと(笑) 仕事してました。ボードゲームの色々を何でもする会社なので、箱の絵を書いたり、印刷を手伝ったり、ルールを作ったり、ディレクションをしたり、全部やりますという感じでやっています。主にアートワークが多いですが、それ以外もやってます。
 自社レーベルもあって、TANSANFABRIKという名前はレーベル名として残してあります。

- 会社のお名前としてはTANSAN株式会社になったのですね。

朝戸: 
 TANSAN株式会社になって、なのか展まではずっとゲームを作る仕事をしていました。

- なぜTANSANFABRIKになったのか、聞いて良いですか?

朝戸: 
 いいですよ。炭酸て、良いなと思って。

- 有馬温泉の炭酸とは……

朝戸: 
 全然関係ないです。遊びは炭酸であると思っています。要は、炭酸飲料というのは人生において意味ない訳です。水で良いじゃん、という。でも、二酸化炭素という余計なものを水に溶け込ませることによって、素敵な飲み物になるわけです。刺激もある。炭酸のようなモノづくりがしたい。

- なくても死なないけれど、あるとより良いということですね。 FABRIK(ファブリーク)の部分はいかがですか?

朝戸: 
  FABRIKは、カワサキファクトリー※9に憧れていたので、ファクトリーにしたかったのですがタンサンファクトリーにするとカワサキファクトリーと丸かぶりじゃないですか。だから、ドイツに寄せようと思って FABRIKにしたんですよ。

※9 カワサキファクトリー:2003年より活動している同人ゲームサークル。代表作「R-ECO」「ルールの達人」「クイズいいセン行きまSHOW」など。

- あっ、 ファブリークは工場なのですね。ファブリックではなくて。

朝戸: 
 工場なんです。ドイツ語で工場という意味なので、タンサンファクトリーとほぼ同義です。

- クライアントの人がいて……

朝戸: 
 クライアントの人がいて、ボードゲームの制作会社のような形です。

- その際はもちろんクライアントの意向を優先すると思うのですが、ご自分で出されている作品についてはどういったものを作ろうとされていますか?

朝戸: 
 別にそんなこだわりはないのですが、既存のものを新しくすることが多いです。かるたを新しくしたり(『ヒットマンガ』※10)、囲碁を新しくしたり(『RANKA』※11)、人狼ゲームを新しくしたり(『人間ゲーム』※12)ですね。

※10 『ヒットマンガ』:かるたをアレンジしたカードゲーム。空欄のフキダシにハマるセリフを考えて遊ぶ。

※11 『Ranka』:囲碁のエッセンスが詰まった2人用ボードゲーム

※12 『人間ゲーム』:「ダサい」「短足」など、お互いのコンプレックスを探り合う大人のパーティゲーム。

- 『人間ゲーム』についてもう少しお聞きします。どのようなゲームでしょう?

朝戸: 
 人狼ゲームをベースにしているのですが、人狼の推理が悪口になっているというものです。要するに、狼が一人夜に全員へ悪口を配るんですよ。僕のことをチビだというやつは誰だ、というような。そういうゲームです。盛り上がりますし、仲良くなります。

- ケンカになりません?

朝戸: 
 いやーならないですよ。嘘嘘そんなの。

- 本当に危ないところ、地雷には踏み込まないことが大事なゲームですか?

朝戸: 
 それは人狼次第です。

- 本当にその人が気にしているところに踏み込んでしまうと、大変な空気になることもありますか。

朝戸: 
 なるかもしれないです。

- メンバーを調整すればですかね?でもそれは、あらゆるゲームがそうですね。

朝戸: 
 あらゆるゲームがそうだと思いますね。僕ら関西だからかもしれないですね。東京の人は結構悪口に対する怯えがあるような気がしていて、関西は割とこう、ナチュラルにちょっとそういうことを言ったりするじゃないですか。ボケとツッコミというか。うーん、あまり良くないですけどね。

- ある意味、関西的な感性で生まれたゲームかもしれない。

朝戸: 
 そうです。一緒に作ったのが大阪の株式会社人間というところで、そこも面白くて変なことをする変な会社で、そこと一緒に作ったのでああいう感じになりました。

- 関西の方が、精神的なパーソナルスペースの中に無理せず踏み込める雰囲気があるんでしょうか?

朝戸: 
 それはありますね。

卒業制作では、『無』を作った。

- 次の質問であるなのか展についての話題に移ります。そうしてゲームを作られている時、なのか展にごくごく初期のメンバーとして入っていただいた訳です。なのか展の話を持って行ったのは、IKEさん※13(ひとじゃらし)の次に朝戸さんでした。声をおかけした理由としては、美大出身でかつ卒業制作で面白いことをやっていたとお聞きしていたからです。卒業制作作品をご紹介いただけますか?

※13 IKEさん:『共遊する時間を提供したい』を掲げ2012年に「ひとじゃらし」を結成。これはゲームなのか?展には第1回より参加。

朝戸:
  卒業制作では、『無』を作りました。具体的には、Amazonに『無』を出品しました。当時はシステムに穴があって、何もないのに商品として登録することが可能だったんです。マーケットプレイスが始まったばかりで※14、その仕組みを使って無、Nothingという作品を制作しました。

※14 マーケットプレイスで「フルフィルメント by Amazon」という個人の販売物をアマゾンが倉庫から送ってくれるサービスが当時はじまったばかりだった。

- 画像はあったのですか?

朝戸:
  ないです。Nothing、おもちゃ、何もない、という感じです

- その発想がどこからきたのですか?例えば、仏教的背景があったのですか。

朝戸:
  そうです。僕、仏教がすごく好きで、アートとプロダクトの間みたいなものを作りたかったのです。『無』はアート寄りですが、並んでいる商品を購入するということは、プロダクトだと。Amazonに並んでいるものはすべからくプロダクトだと思うので。だから、Amazonというガワがあるから『無』が存在するという。

- 区切るものがあるから、『無』が定義されるという感じですか。

朝戸:
  『無』というのも、Amazonのダンボールが送られてきて、空(から)が入っているというのが一番重要なんです。

- ちなみに、実際に売れたんですか?お値段は?

朝戸:
  売れてない。800円でした。

- 安い!(笑)

朝戸:
  安くないですか? バンバン買って欲しいので、40個くらい出荷したんです。でも実体のないものを出店してるということが途中でバレたんです。

- なぜ、バレたんでしょう?

朝戸:
  そりゃバレるでしょう!システムのエラーだったんですよ。仕組みをいうと、当時出庫するためにはバーコードが必要だったんですよ。実は、バーコードのみでも出荷できたんです。当時は。商品に貼るためのバーコードのみしかなくて、インチキといえばインチキかもしれませんが、『無』というのは登録しているので、商品番号があるんです。

- 『無』なのに、周りのものによって実体化していることが面白いですね。

朝戸:
  購入した人は、開けてしまうとただのAmazonの空箱になってしまう訳ですよ。区切られている状態では無のままなのですよ。ただ、僕は、愚かなことに開けてしまった。

- (笑) 『無』で無くなった訳ですね。

朝戸:
  でも、あれは入っているんです。伝票。なので、伝票だけ家に飾っています。

- インスタレーションをどう保存するのかという問題にも繋がりそうですね。

朝戸:
  そうですね。

- 卒業制作はゲーム作品ではなかったのですね。ちなみに、どうやってプレゼンされたのですか?

朝戸:
  論文を書きました。

- 論文?

朝戸:
  僕はそれを正直認めてもらえなくて、論文を書いて卒業したんです。美大生って普通あんまり論文書かないので。卒展ではAmazonの画面を掲示して、Nothing Shopですと言って出しました。

ルール自体には善悪がないので、悪意を持ったデザインにしたのが『デロス島のゲーム』

- なのか展のアイディアをはじめてお聞きした際、どう思いましたか?元々考えていたコンセプトに近かった?

朝戸: 
 僕は良いと思っていました。やりましょうと言った通りです。やりたいなと思っていたことと一緒だったので。

- ボードゲームで商業、プロとして活動されている方は、思いついても作れない作品があると思います。朝戸さんにも、相当それはありますか?

朝戸: 
 いっぱいあります。やっぱり。

- なのか展に出展した作品は、そのアイディアの一部ですか?

朝戸: 
 うーんでも、それは違います。展覧会が決まった後に作りました。
- 第1回に出展されたのは『デロス島のゲーム』でした。これは元々ネタバレ禁止だったんですよね?

左:『これはゲームなのか?展#1図録』 右:『デロス島のゲーム』

朝戸:
 そうです。一応、公式にネタバレ解禁をします。

 『デロス島のゲーム』をまず紹介すると、まずテーブルにカードとルール、そして紙が置いてあります。参加者はその訳のわからない紙を見てスタートするのですが、そこには「一人しかルールを読んじゃダメ」と書いてあります。その後、ルールを読んだ人の説明に従って皆でゲームをします。要はババ抜きなんですが、ルール通り進めていくと決して終わらないように出来ています。途中でだんだん皆それに気づきだして、「これは終わらないぞ」となります。そうなったら「終わらないので、途中で止めて終わりにしましょう」という合意を全員で作って止めるという、終えるためにはルールを破らなければいけないという作品でした。

 なぜこれを作ったかというと、前回の展覧会テーマは「ルールで世界する」でした。ルールによって世界が生まれているということを自覚して欲しい、かつそのルールが善意かどうかはわからない。ルール自体には善悪がないので、悪意を持ったデザインにしたくて、というのがこのゲームです。

- 遊んでみて、悪意がしっかり込められている感覚はありました。

朝戸: 
 これをやると、まず終わらないんです。いやらしいのは、2組くらいは揃うようになっていて、一瞬終わるかもと思うんです。しかも、「面白いなー」であるとか、「面白くないなー」ということを言わせるという指令カードもあって、本心で言っているかどうかもわからないということで、しかも初対面の人たちで、ルールを読むのも1人なので、皆が皆やめようと言いにくい設計になっているんです。ゲームが間違っているかどうかも言いにくい形を作っていて。その中で、ゲームをやめようと言って合意してやめるプロセスを体験するためのゲームです。

- 全ての仕組みが、そこに向かって収束するように作られているのですね。

朝戸: 
 そうです。実はヒントもいろいろあって、例えばババ抜きなのにカード枚数が偶数なんです。赤いジョーカーは提示していますが、そもそも偶数なのでおかしい。こういう風に、いくつかヒントがあったんです。

- 実際にプレイされている様子を見ていて、想定通りだったこと、そうではなかったところはどこですか。

朝戸: 
 想定と同じだったのは、皆終わらないなと思って止める事だったのですが、ゲーマーの中には勝手にルールを拡大解釈して終わらせようとする人がいるんですよ。例えば、この図柄は似てるから一緒だと見なせるなどと言って。というので、ルールにあくまで沿った形で終わらせようとする人が結構いて、そこがゲーマーはゲームに縛られているなと。ルールを破るという行為をしたがらずに、解釈でどうにかするというところが日本らしいと思いました。

ゲームの本質は、ルールだと思っている。

- 最後の質問に移ります。これはゲームなのか?展の第1回を踏まえて、第2回で何を作ろうとされていますか。

朝戸: 
 ルールの体験によって得られるものが必ずしもよくないということは、面白いと思っています。そう言った感情、楽しいだけがゲームルールではないということをやろうと思っています。

- フォーカスしているのは、ルールですか。

朝戸: 
 そうです。ゲームの本質はルールだと思っています。ルールによって起きる世界、作られる世界がゲームだと思っています。それを突き詰めていきたいです。

- インタビュー#1で、高畑さんが「ゲームにはルールとコンポーネントがあるが、それだけではなく、遊ぶことでお互いのプレイヤー間に生まれる場を見えるような仕組みにしたい」と仰っていました。そこは似ている部分はありますでしょうか?

朝戸: 
 近いかもしれません。

- 作品はうまく出来そうですか。

朝戸: 
 ちょっと悩んでいます。出来てることを祈ります。

- 楽しみにしております。


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