これはゲームなのか?展#2 大塚健吾氏による批評
2019年12月7日~15日に開催しました、ボードゲームデザイナーによる企画展覧会『これはゲームなのか?展 #2』が終了して一ヶ月が経ちました。
まずは、ご来場いただいた皆様、ご協力いただいた皆様のおかげで本展覧会が開催できましたこと、心から感謝申し上げます。
入場無料の第1回の盛況を受けて、第2回は規模を大幅に拡大し、入場料も1800円としました。結果、約2000名の方にご来場いただき、大盛況の内に幕を閉じることができました。
さて、より意義のある展覧会を目指す中で『批評』という視点からのアーカイブが重要であると私たちは考えます。第2回の新しい挑戦として、ゲームデザイナーの大塚健吾様と連絡を取り、お仕事として公式に批評の依頼を致しました。結果、3万字を超える大変熱量のある評を頂きましたので、noteに掲載させていただきます。全作品に真摯に向き合ってくださいました大塚様に、厚く御礼申し上げます。
なお、下記の評はこれはゲームなのか展運営側からの公式見解ではありません。あくまで公式から依頼した批評家によって書かれた批評文です。あらかじめご理解の上お読みください。
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こんにちは!
『これはゲームなのか?展』主催のニルギリさんより“公式批評家”の称号をいただきました!大塚健吾と申します!!
簡単に自己紹介をしますと、普段の職業、肩書としてはボードゲームデザイナーをしています。
わりと珍しい職業なので、ご存知ない方にざっくり説明しますと、面白かったりカッコ良かったりするゲームを考えるのが仕事です。
そんなヤツがなぜ今回“公式批評家”の称号をいただいたのか。
まぁまぁ、ニルギリさんの中でいろんな理由があるのでしょうが、その中の一つに「大塚が自分と全然似ていないから」というのがあるそうです。
異なる視点から展示作品について語られることで、議論が活発になり、『これはゲームなのか?展』がより深みを増す!……みたいな感じでしょうか。
というわけで“公式批評家”。
ボードゲームデザイナーとして必須の技能がありまして。
様々なゲーム案が面白かったりカッコ良かったりするゲームなのかどうかわかること。
じゃないとゲーム作れませんからね。
なので、ちゃんと観て、ちゃんと語れると良いです。
[批評について]
めんどくせぇ!!
なんかハードル上げてみましたが、マジでめちゃくちゃしんどいんですよ!?
この“公式批評家”。
何がしんどいって基本的に僕にメリット1個もないんですよ!!
例えば、もし作品に対して否定的な内容になってしまったら、僕を嫌うような作者さんもいるかもしれないじゃないっすか!!
あれだよ!?一応言うけど、批評書くにあたって『エスパー魔美』の『くたばれ評論家』とか読みなおしちゃったからね!
っていうかね、なんだったらSNSとかみたいに
「自分の中にあるゲームに対する固定観念に気付かされました!!」
「一つの枠に収まりきらない、とてもチャレンジングな作品ばかり!!」
「日常もゲームだし、ゲームも日常だったんだ!!」
みたいな“なんとなくそれっぽいだけの言葉”を並べて「批評しました!」って言い張ることもできるんですよ!?
それでも真面目に批評する理由は2つです。
1つ。主催のニルギリさんが本気だってこと。
めちゃくちゃカッコイイ方です。ニルギリさん。本当にびっくりするぐらい真面目で真剣な姿勢で、魂込めて、この『これはゲームなのか?展』を開催されています。
そういう誰かの本気には少なくとも自分は応えたいと思っています。
2つ。この2つめに比べたら1つめはわりとどうでもよくて。
自分の信用の為です。
[定義について]
こういう批評は言葉の意味捉え方に差があると意味わかんない内容になってしまうので、次の2つを僕がどういう定義で使用しているのかを書きます。
・ゲームとは……
目的を達成する過程のこと
・アートとは……
その人にしか出来なそうな、なんかすげぇカッコイイヤツのこと
特に補足がない限り基本的に僕はこんな感じの定義で使っています。
「恋愛はゲームだぜ!」ってモテる人が言ったとしたら、相手が自分のことを好きになるとか、付き合えるとか、そういう勝利条件を達成するまでの過程のことをイコール“ゲーム”と呼んでいます。
その過程が面白かったり、目的を達成したときが気持ち良かったり、そうなればなるほど、良いゲームとなります。
また、歌を歌う人がアーティストと呼ばれているのも同様に、その人にしか出来なそうな、なんかすげぇカッコイイヤツをしているからです。
しばしば“なんだかよくわかんないけどなんかカッコつけようとしている作品”と誤用されがちですが、とりあえず“アート”とはそんな感じの意味です。
余談ですが、前述の誤用としての“アート”が僕大嫌いで。
その理由は、主に言い訳として使用されるものだからです。
例えば、“アート系映画”みたいな言い方ですね。シンプルにつまらないだけの映画なのにコレには何か特別な価値があるんだ!と言い張ることでごまかそうとする姿勢です。
実態のない物のごまかしとして誤用(悪用)されてしまうことが多いのも“アート”というものの哀しさな気がします。
あ、重要なことなので、先に自慢をしておきますね。
ゲームとアート。上記の定義において、ボードゲームデザイナーである大塚健吾は目的を達成する過程を提示し、かつ、それがその人にしか出来なそうな、なんかすげぇカッコイイヤツを作っているので、当然、「僕はアーティストだぜ!」と言い張ることができます。
[『これはゲームなのか?展』テーマについて]
先に白状しておきますと“公式批評家”大塚健吾はカンニングをしています。
ニルギリさんからテーマを聞いています。
そのテーマ、今コレを読まれている方、驚かれると思います。
『これはゲームなのか?展』
型破りで革新的な、今までのゲームの形に囚われている人には「これはゲームなのか?」と眉をひそめられてしまうような、それでも挑戦することでゲーム業界の未来に繋げる!
……って、言うと思ってたでしょ?
コレね、全然違うんですよ!!
や、っていうかね、僕も勘違いしてましたよ!
そういうところをテーマにしてるんだろうなと思ってましたもん!
ニルギリさんに確認してみて、違うって話で、正直めちゃくちゃ驚きました!
ニルギリさんが本当にやりたいテーマはご本人の言葉を借りると、
【ゲームとアートの境界線をさぐる!!】
という一語に尽きます。
では、なぜ、『これはゲームなのか?展』という誤解されかねないタイトルがつけられているのかというお話も聞かせていただきまして。
前回、第1回の開催時、出展者側からアートとしての側面を押し出されるとやりづらい!との要望があったそうで。
そのあたりの折衷案としてタイトルが生まれ、会場はアート展がメインのアーツ千代田3331、チラシなどの説明欄にコンセプトが書かれるという形に落ち着いたようです。
主催者のテーマに賛同していない出展者が出展を!?という当然の疑問は置いといて。
おそらく、その方はアートを誤用として定義で捉えていたのでしょうね。
「ゲームはゲームであれば良くて、それ以外の何かであってはならない!」みたいな感じでしょうか。
ニルギリさんのテーマにも関わる重要な話なので、あのカッコイイヤツをもう一度言い張らせてください。
ボードゲームデザイナーである僕!アーティストだから!
あれですよ。
こうじゃなくて……
こうでもなくて……
こう!!
……正直、コレをわりと最初に書いてよかったかはわかんないですけど。
そして、今回の『これはゲームなのか?展2』ですが、今回のから出展される方の中で、主催のニルギリさんと距離のある方ほど、ニルギリさんのテーマとは離れ、『これはゲームなのか?展』というタイトルから受ける印象を元に作品を作られています。
正直、個人的には少し残念です。
それでは、個々の作品がどうだったのかについて語っていきたいと思います。
[個々の作品について]
■『ルールのたまご』 CHOCOLATE inc.
《概要》
2台のガチャガチャのマシーン。100円を入れて回すと、中から出てくるのはゲームのルールの紙。そこには30種類のルールの中から1つがが書かれている。
テーブルと椅子、紙とペンがあり、出てきたゲームを実際に遊ぶためのスペースとなっている、
また、ガチャガチャのマシーンの隣りにはカプセルの捨て場、その隣には、“ゲームではない”と購入者が思ったルールを捨てる“ゴミ箱”が用意されている。
《どういう作品か》
作者様の解説を参考にまとめている上記の概要からも伝わるように、
主催ニルギリさんのテーマとは異なる『これはゲームなのか?展』というタイトルから連想される、“ゲームかどうか微妙な意欲作を作ってみました”というタイプの作品です。
こちら、まぁ、一言で言ってしまうと、
【(いわゆる紙ペンゲームなど含むため商品化しづらい)CHOCOLATE inc.さんのゲームボツ案集】
それ以上でも以下でもないのですが、アイデアとして興味深いとこがあります。
ガチャガチャのマシーンを使ったことがズルくて偉いです!!
ここが何より賢いです!っていうか、もう腹立ちますよ!!マジで狙ってやってますからね!ここの作者様たちは!!
どういうことかと言いますと、ガチャガチャのマシーンってボツ案を売るアイデアとして完璧なんです。
ガチャガチャってさ、ハズレがあること前提で購入するわけじゃないですか。
だから、そこから、どんなハズレが出てきたとしても購入者は文句を言えないんですよ。
いや、文句を言えないというよりも、「そういうものだよな」と納得する。
『ピューと吹く!ジャガー』に出てきた『がっかりイリュージョン』で主人公が行った手法を思い出したりもしました。
是非はともかくそこは間違いなくアイデアがあったものです。
ただ、まぁ、それ自体は基本的にダメな物でも許してもらえる為のアイデアなので、個人的には最初から30種類のルールブックをそのまま並べているだけの方がずっと潔いし、作品自体が優れているならば、ずっとアートです。
《面白いかどうか》
僕は100円払ったのち、作者様に許可を取って、ゴミ箱を漁るというズルいやり方でルールを確認しました。
なんでしょうね。
それらのルールはまぁ、正直、ああ、ボツ案だなぁという印象です。
とはいえ、それらはどうあれ、面白いゲームを!と考え出されたものなので、『これはゲームなのか?展』全体で見ても、わかりやすく遊べる作品であるとも言えます。
余談になりますが、僕は個人的にCHOCOLATE inc.さんのゲーム好きです。
ゲームデザイナーは何か楽しいこととか面白いことがあったらそれをゲーム化したいと考えるものなのですが、その楽しいことや面白い何かがゲームそのものだったりすると、既にゲームであるものをゲーム化しても……という作品になりがちですが、CHOCOLATE inc.さんは間違いなくゲーム以外の何かからアイデアを想像されています。
そこからさらにゲーム化するには、今度はいろんなゲームに触れて知識がないと既存の何かに似てしまうとか、いろいろめんどくさいんですが、最初からゲームをゲーム化したものよりはずっと好きです。
《まとめ》
作品自体とその売り方や作品の見せ方など非常にCHOCOLATE inc.さんを象徴する出展となっていると思います。
売り方や作品の見せ方に優れるというのはそこには確かな技術や学ぶべきものがたくさんあり、そうした視点で楽しんでいただけたらありがたいです。
追記。
……と、書いていたら、30種類全てを1500円で販売というのを開始されていました。
それもまた、うまい作戦なんだと思います。
■『城のゲーム』 朝戸 一聖(TANSANFABRIK)
《概要》
カーテンに区切られた暗い一室。そこにあるのは大きなスクリーンと32人が座れる椅子。さらに荘厳なBGMが雰囲気を盛り上げる!スクリーンに表示されているのは“時間がきましたらルール説明を行います”の表示。いったい何が始まるのかと期待が高まる!
5分、10分、30分経っても同じ表示が繰り返される。そして、ある時、僕らは気付く。「あ!コレそういう展示か!」と。
作者様は『城のゲーム』はマグリットさんの『ピレネーの城』、カフカさんの『城』などから着想を得たのだそうです。
《どういう作品か》
先に細かいというか、めっちゃ表面的な話をしますね。
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