百鬼ゆめひな『地獄太夫』
小雨の石畳を進み、地獄太夫に逢ってきた。
ミミズクヤでの百鬼ゆめひな公演。
二階の座敷は、野ざらしの原になり遊郭の床になった。像られた一休宗純と太夫が眼差しで語る。睦み合う。ヒトカタと人の境はあいまいに、静止はなくなった。
終演を迎えて、店を出る。冷える夜空に月が出ていた。
仰いでいると、演者手作りの水引き細工を買っていた女性客が横切った。長いスカートの裾がはためいて、太夫の打ち掛けを憶わせた。石畳を去っていく姿に月の明かりが注ぐ。太夫の簪の彩りだ。月を浴びた彼女は振り返らずに夜を帰っていった。