あのときの温もり【出会い】
つり目で不愛想な猫が、大嫌いだった。
夜中に得体のしれない声で鳴く猫が、大嫌いだった。
そんな僕が、初めて猫を飼ったのは、中学3年生の春休みだ。
僕の地元は、山と川しかなく、林業だけが盛んな田舎町だ。
僕は、いつもつるんでいる悪ガキ3人と、花見をしようという事で、近所の公園に出かけた。
その日は、ぽかぽかとした陽気で、桜が満開だった。僕たちは、大きな桜の木の下にレジャーシートを敷いて、買い込んできた酒やお菓子を広げた。
大人の真似事をして酒を買って飲んだはいいが、ただただ不味いだけだった。
だが友達に、酒が飲めないなんて思われたくなくて、無理して、「やっぱり桜には酒やなあ」などとイキがって酒を飲んでいた。
そんなアホな宴会を2時間ほどして、帰ろうとしていると、公園の入り口に人だかりが出来ている。
気になった僕たちは、その人だかりの所に行ってみた。
すると、そこにはミュウミュウと鳴く、へその緒の付いた、目の開いていない2匹の子猫がいた。
2匹とも白と黒のブチだった。
その子猫の近くには、おそらくその子猫たちの兄弟であろう白黒の子猫が、誰かに踏みつぶされて死んでいた。
それを見た僕は、人だかりをかき分け、子猫を抱きかかえて、「何でこんなに大人がいるのに、誰も助けんのや」と怒鳴った。
この僕の言動は、正義感でも何でもなく、ただ酔っ払って気が大きくなっているだけのことだった。
僕は、抱きかかえた子猫たちをバック入れて、家に持って帰った。
家に帰ると、母と祖母が夕食の準備をしていた。
僕は酒を飲んだことと、子猫を拾ったことがバレないように、そっと階段を駆け上がって、自分の部屋に入った。
連れて帰って来たものの、猫を飼ったことがなかった僕は、どうしていいのかわからず、とりあえず段ボールの中に数枚のタオルを入れて、牛乳を飲ませることにした。
ただそのためには、母と祖母のいる1階に降りて、段ボールとタオル、そして牛乳を確保しなければならなかった。
僕は、1階に降りて段ボールとタオルをかき集めた。
そして、牛乳を取りに行くため、母と祖母が夕食の準備をしている台所に入った。
僕が冷蔵庫から牛乳を取り出していると母が、「翔馬、あんた帰って来たんなら、『お帰りなさい』くらい言いなさい」と言って、僕の坊主頭をひっぱたいた。
頭を叩かれたことでイラっとしたが、勢いに任せて文句の一つでも言うと、お酒を飲んだことがバレそうなので止めておいた。
部屋に戻ると、僕は早速、段ボールにタオルを敷き詰めて、子猫を入れた。
そして、牛乳を皿に移して、子猫たちの口元に置いた。
しかし、子猫たちは牛乳を全く飲もうとせずにミュウミュウと鳴くだけだ。
何度か無理に飲ませようとするが、全く飲まない。
そのうち僕は、すっかり酒が回ってしまい、そのまま寝てしまった。