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サラリーマンだったからこそ、今がある(2)
〇地域コミュニティを育みたい
このまちづくりの仕事を通じて様々な立場の人たちの人生に触れる機会をいただきました。
たとえば、都心での再開発。地権者、商店街、テナント企業、近隣住民など、共通ビジョンのもと、あらゆる立場の人が一つにまとまらねばなりません。
また、土地の有効活用や売ることを検討している地権者の方には深い理由があります。相続税対策もあれば、まとまった資金が必要な事情があったり、地域に貢献したいとの動機をお持ちの方もいました。
しかし、将来の人生設計がしっかり立たなければ決断はできません。さらに、先祖から引き継いできた土地を売るとなると親族の方の理解も重要です。しかし、親族間の人間関係がねじれているケースも少なくなくその絆の修復のお手伝いからの取り組みということもありました。
商店主の方にとっては、売り上げが低迷している、後継者が見つからないといった悩みを打ち明けられて、一緒に知恵を絞りました。
近隣住民にとっては、高層の建築物を建てることになれば日影の影響や自宅が上から覗かれてしまうプライバシーの問題などが心配です。さらに、自治会、町内会など地域の人間関係の調整も一筋縄ではいきません。さらに、権利調整で利害がぶつかりあうことも少なくなく、立場の違う方同士の接点を模索する日々でした。
また、住民の方々の生活をじっくり聞かせていただく機会もたくさんありました。親の介護、子育て、教育、福祉、環境、生活に対する様々な課題はその家族だけでは担いきれないものもたくさんありました。
私の中で、地域の人たちが何とか相互に支援し合えないものか、市民として繋がり、問題が起これば相互に支援し合える、そんな地域コミュニティを生みだせないものか、との思いが湧き上がってきました。
住宅やオフィスビルなどの建物を建築して分譲するハードの部分が仕事の柱でしたが、そこに生活する住民の人たちがどうすればもっと豊かに、もっと楽しく地域の方と繋がっていけるのか。直接、人の意識に働きかけること、そして、地域住民の市民性を育み、コミュニティを育むソフトの部分に興味はどんどん移っていきました。
しかし、現実は、仕事の中では、ソフトの部分に費やせる時間もエネルギーも多くを割くことはできず、葛藤の中で悶々とする日々がありました。
〇一新塾との出会い
私は、ハードである建築へのこだわりよりも、ソフトである一人ひとり
の人生への関心の方に重心が移行していく自分を感じていました。人と人とのつながりをつくりたかった。地域に生きる人たちに人生を応援したかった。生活上の課題があれば相互支援しあえる地域コミュニティをつくり
たかった。子育て、教育、介護、雇用、福祉、環境…。
生活に関わるあらゆる問題に正面から向き合いたかった。
葛藤を通じて、自らの思いの輪郭が徐々に鮮明になっていきました。
しかし、民間企業の宿命もありました。ハードとしての建築をつくってそれを分譲して資金を回収し利益を上げることが第一に求められ、人とのつながりやコミュニティづくりに時間とエネルギーを十分に注ぎ込むことはできませんでした。
一九九五年阪神大震災の直後に、私は、建物倒壊の現場を訪問する機会がありました。焼け野原になった神戸のまち。倒壊した建物。形あるものは一瞬にして崩壊してしまうはかなさを痛感しました。そんな試練のどん底で、市民が立ち上がり、連帯を組んで、前を向いて、お互い支え合っている力強さ。
「やはり、人のつながり、コミュニティだ!」
しっかり、市民目線でコミュニティと向き合わなければ、未来がない、そんな気がしました。
一新塾と出会ったのはその直後でした。
一新塾に入ると、目からうろこの連続でした。業界目線だと表面上のほんの断片しか見えていなかった薄っぺらな自分を痛感しました。この場では、様々な業界を担っている人たちが、自分の生き様で業界の構造を解き明かしてくれ、「ああ、そうだったのか!」との発見が続々と起こります。
また、一新塾の仲間に、自らのビジョンをぶつけると、会社では、「できるのか!」と一蹴されてしまうことが、一緒になって考え行動してくれる仲間を得られ、救われました。コミュニティの再生は、まず、私たちが志を尊重し、志を応援し合うことからだと確信を得ました。
そんな時に、「一新塾で働かないか?」との誘いをいただきました。
「主体的市民の輩出に関わることは、地域コミュニティを創造するための、もう一つの方法ではないか!」
9年間勤めた会社を辞めて、一新塾事務局の仕事に飛び込ませていただきました。
★主体的市民を輩出する一新塾