サラリーマンだったからこそ、今がある(1)
『人生を聞かないことには始まらない』
●ふるさと
私が一新塾に入塾したのは、1996年。サラリーマン9年目の時でした。当時、住宅メーカーの都市開発事業部でまちづくり関連の仕事をしていました。
「ふるさとはどちらですか?」
私がいつも問われて戸惑う質問です。実感としての故郷はありません。
私は中学に入るまでに、7回引っ越しています。父親が転勤族で、2年に1回、全国を転々としていました。
ですから、ふるさとのある人はとても羨ましくて。ずっと地域コミュニティという言葉にこだわり続けてきたのは、地域に根を下ろす実感を持てなかった渇望感、地域コミュニティへの憧れがあったからかもしれません。そんな思いが根底にあって、この仕事を選んだんだと思います。
私が入社したのは、バブルがピークの1988年。土地を買って建物を建てれば飛ぶように売れる時代、だんだんと入社の頃のように地域コミュニティへのこだわりを熱く語ることが減り、事業規模の大きさや利益額の大きさなど、唯物主義にのまれていく自分がありました。
しかし、この最初の仕事を通じて、貴重な数々の教訓を得ることが出来ました。
●地域の現場
都市開発の仕事は、とても地味な仕事でした。地域の現場に入って、最初は、地主さん一軒一軒、飛び込みで「土地の有効活用をしませんか?」と話をしにゆきました。しかし、見も知らない人が、突然訪ねてきて、人の大切な財産の話を持ち出すわけですから、「何しに来たんだ!」と門前払いされることが普通でした。
新入社員の頃は、地域をウロウロ歩き回っている自分と丸の内のオフィスでスマートに活躍している大学時代の友人と比較して、「こんなところ見られたらカッコ悪いな」との思いもよぎりました。
●人生を聞かないことには始まらない
そんな中、100軒に飛び込めば、2~3人くらい、話を聞いてくれる地主さんと出会えました。「どうぞ上がってゆっくりしてってください」と居間に上げてくれるのですが、一向に土地の話はさせてくれない。人生の思い出話が始まると、これが一時間、二時間延々続く。そのうち、「一杯やるか?」「いえいえ、仕事中ですから」といった具合で、時間つぶしに使われているのではないかと思っていました。しかし、何回も、何時間もお話を聞かせていただくと、「よし、そろそろ本題に移ろう」と突然、敷地の図面をもってきて、有効活用の相談が始まることがありました。とにかく「人生を聞かないことには何も始まらないんだ」ということが刻まれました。
●再開発は人間関係の再構築
そして、「有効利用してマンションでも建てたいんだが、兄の所有権もあるので、兄がうんと言わないと進まない。しかし、兄とはけんかして、この10年、口もきいていない。」こうしたケースでは、私がお兄さまとの仲介に入り、仲直りしてもらうことから始まります。「兄との関係も修復できた。では、土地の有効活用をスタートしよう」といった具合です。
事業に一歩踏み出す承諾をいただけるときは、きまって、親族との雁字搦めだった絆がほどけたとき。人間関係が結び直されるドラマがあって、再開発で新しい建物が生まれる、といった実感でした。再開発で新しい建築物が創造されるとき、見えない舞台裏では、人間関係の再構築が行なわれているんだということを何度も実感させていただきました。事業と人生はつながっている。地域の現場で、人生や人間関係を学ばせていただきました。(続く)
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