部活動顧問を拒否するための関連法令および判例
部活動顧問を拒否するにあたり、管理職と戦うために使える法令や判例をまとめました。ここまでしっかり理論武装をしておけば、まず間違いなく顧問拒否を実現することができます。
①給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)第3条
【①のポイント】
◯1項で、全教員に対して一律に、基本給の4%を基準とした額を都道府県ごとの条例によって定め、「教職調整額」という名目で給与に上乗せしなさいということが述べられています。
◯2項で、基本給の4%に相当する「教職調整額」を支給するかわりに、教員には時間外勤務手当、すなわち「残業手当」を支給しないということが定められています。
◯本来は、労働基準法は公務員にも適用されるため、残業が「存在」したら、当然、労働基準法に従って残業手当を支払わなければなりません。だから教員以外の一般公務員には残業手当が支払われます。ただし、それは残業が「存在する」からです。
◯しかし、給特法によって特例的に「教員には残業手当を支給しない」ということを定めたことによって、法理論上、教員には残業が「存在しない」ということになります。
②公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令
【②のポイント】
◯給特法3条で、「教員には残業手当を支給しない」(=残業は存在しない)と定めたのにもかかわらず、管理職によって残業命令がなされてしまっては法律違反(違法行為)になります。そこで、給特法3条を裏付けるために、「教員には時間外勤務を命じてはならない」ということを政令によって定めました。
◯ただし、同政令2項にあるように、上記の4項目の業務のみ例外とされます。いわゆる「超勤4項目」と呼ばれる例外規定です。
③給特法(給特法公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)第6条
【③のポイント】
◯1項で、「教員(管理職を除く)を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従わなければならない」とあるので、「超勤4項目」を除いて教員に残業を命じることは法的に禁止されています。
◯2項で、「教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない」とあるように、正規の勤務時間の割振りを適正に行うべき労務管理責任者である校長・教育委員会は、職員の時間外勤務が常態化している場合には「適正化」を図る責任があります。
④学校における働き方改革特別部会(平成30年10月15日)参考資料5
【④のポイント】
◯教職調整額の導入趣旨が、文科省の資料に明記されています。
◯「残業」というのは「命令に基づいて行うもの」であり、「教員には時間外勤務を命じてはならない」と定められている以上、「教職調整額」は時間外勤務手当(見込み残業手当)ではありません。
◯資料にも明記されているように、「教職調整額」というのは教師の《自発性》《創造性》によって授業準備や教材研究等によって超過勤務することなど想定したものであり、だから全教職員一律に支給される特殊な調整額です。
◯すなわち、教職調整額が支払われているから時間外勤務を断ることができないというのは給特法の立法趣旨をねじ曲げた違法な解釈です。
◯むしろ、この「教職調整額」によって我々は本来守られていると考えることができます。なぜなら残業代を支払わない代わりに「教職調整額」という特殊な手当を法的に認めることによって、校長による時間外勤務を命令できないようにしているからです。
◯繰り返しますが、勤務時間外の労働時間は法的には「労働時間」と認められず、教師の《自発性》《創造性》によって行っているものとされます。
◯だから部活動顧問として時間外勤務をしても、それは命令によってではなく、教員個人が自主的・自発的に行っているものという扱いになります。そして超勤を命じた場合(超勤4項目)には手当の支給ではなく、勤務時間の割り振りを行う必要があります。
◯部活動顧問を引き受けるかどうか、また引き受ける場合も何の部活を担当するかというのは、あくまで教員個人の意思に基づくものでなくてはならず、いかなる強要も受けるものではありません。
⑤鳥居裁判の判決文(平成27年2月26日)
【⑤のポイント】
◯鳥居建仁先生は愛知県豊橋市の中学校教員で、2002年9月13日に体育館で倒れられました。鳥居先生の勤務は、陸上部の部活指導にとりくみ、学校祭の準備に奮闘し、倒れる前夜は夜警のために学校に泊まり込んでいました。倒れるまでの1か月の時間外労働は112時間以上、1週間では40時間を超えていました。右脳内出血のために重い障害を負ってしまわれたが、公務災害と認定されませんでした。
◯鳥居先生は公務災害認定を求め、2008年に名古屋地裁に提訴し、2011年に判決が下され勝訴しました。地公災基金支部は控訴しましたが2012年に名古屋高裁判決でも勝訴。基金側は上告したものの、2015年最高裁が上告を棄却して鳥居先生は完全勝利しました。
◯この最高裁で結審し確定した名古屋地裁判決に注目すべき点があります。それは、教員の勤務に校長の「包括的職務命令」を認めたことです。
◯それまでの公務災害認定裁判では、勤務時間外の教材研究や部活指導等の勤務に校長の職務命令はなく、教員の自主的な活動であるとして「公務」の範囲と認められてこなかったのですが、「校長の包括的な指揮命令は明らかで、全体の業務量からして、所定の労働時間内に終えることは困難であり、加えて教材研究についても必要不可欠なもので、社会通念上必要と認められ、黙示的な職務命令が及んでいると認められ、被告の主張は採用できない」(判決文)とされました。
◯これまでの教員過労死裁判等で教員は「自主的」に働き過ぎた、と教育委員会や校長は主張してきました。教員に対して勤務時間以降は給特法に規定された業務(超勤4項目)以外は命じられないのだから、職務命令はなく、あくまで自主的・自発的に行った行為であり、公務災害は認められないとしてきたのですが、鳥居裁判は「最高裁判決」であり、これにより「教員が勝手に働き過ぎた」とは言えなくなりました。
《参考①》労働基準局長回答 1950.9.1
客観的に見て正規の労働時間内ではなされないと認められる仕事が指示され、法定労働時間を超えて勤務がなされた場合には、時間外労働となる。
《参考②》名古屋地裁 1991.4.22
業務が所定労働時間に終了し得ず、残業が恒常的となっていたと認められるような場合には、残業について具体的な指示がなくても黙示の指示があったと解すべきである。
《参考③》東京地裁 1999.7.13
使用者が労働者に対し労働時間を延長して労働することを明示的に指示していないが、行わせている業務の内容からすると、所定の勤務時間では業務を完遂できず、納期を考慮すれば、労働時間を延長して労働することを黙示に指示した。
《参考④》最高裁判所第一小法廷 判決(2000.3.9)
労働時間とは、労働者が使用者の明示または「黙示の指示」によって、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。
⑥労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第30条の2
【⑥のポイント】
◯校長というのは労務管理責任者であると同時に学校組織における最高責任者であり、校長からの「お願い」は優越的な関係を背景とした言動であり、「職務命令」という言葉を出さずとも実質的な職務命令に当たると考えられます。
◯特に部活動指導においては、勤務時間を大きく超えて行わざるを得ない実態を考えると、顧問をお願いすることは超過勤務を黙示的に指示していることになります。
◯また、部活動指導は教育課程外に位置づけられることから、部活動指導による超過勤務は「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であり、その時間によって授業準備の時間などが十分に確保できない点から労働者の就業環境が害されるものでもあります。
⑦給特法(給特法公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)第7条
【⑦のポイント】
◯1項で文部科学大臣が、教育職員の健康と福祉の確保、学校教育の水準維持のための「指針」(ガイドライン)を定めるとしています。つまり、文部科学大臣が定める「指針」は単なる「通知」ではなく、法的根拠をもつものです。
◯平成31年1月25日、萩生田文部科学大臣は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を公表し、教員の「超過勤務時間」についての上限の目安を「月45時間、年360時間以内」とするという基本方針を示しました。
◯月45時間というのは、1週あたり約11時間15分。1日あたりでは2時間15分ということになります。これを超えて働くと月45時間の上限規制は守られなくなります。
◯具体的には19:00以降も時間外勤務をしていることが常態化している場合、ガイドライン違反の働き方をしていることになります。
◯また、一般的な勤務時間は8:15~16:45(休憩45分含む)です。18:30まで活動したとすると、部活動による時間外勤務だけで一日あたり1時間45分を要し、その他の業務に当てられる時間は30分ということになります。部活動顧問を与えるには、部活動終了後30分以内に終えられる仕事量しか割り振ってはいけないことになります。
⑧労働省通知 1947.9.13
【⑧のポイント】
◯「休憩時間とは労働から離れることを保障されている時間」である以上、例えば学校外に出てコンビニに行こうが、原則として何をしても自由な時間です。しかし、16:00からの部活動顧問を引き受けると、休憩も取れないままに働き続けていることになります。
⑨労働基準法第34条
【⑨のポイント】
◯労働基準法では6時間を超えて8時間までの労働は45分間の休息時間をとることが定められています。
◯教員の正規の勤務時間は 1 日あたり 7時間 45 分であるため、休憩時間が必ず 45 分以上与えられないといけません。(ただし、休憩時間は労働時間の「途中」に与えられないといけないという規定があるので、休憩終了時間が勤務終了時間と同一ということはできないようになっています。)
⑩労働契約法第5条
【⑩のポイント】
◯多くの学校では16:00頃から休憩時間が設定されていると思います。16:00からの部活動開始は、本来、安全配慮義務を果たすべき労務管理責任者たる管理職が制止しなければならないことです。
◯これを放任するばかりか時間外勤務の常態化を黙認している以上、過剰な労働により生命や身体等の安全が害されないように配慮する義務を果たしていないことになります。
⑪公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案に対する附帯決議 (令和元年12 月)七
【⑪のポイント】
◯給特法の改正に当たって、第200回国会閣法第14号 附帯決議において、部活動を学校単位から地域単位の取り組みに変えることを「早期に実現」することが定められました。学校は部活動の縮減をする必要があります。 岐阜県では部活動を統廃合し、2~3割程度減らす方針を令和2年に打ち出しています。
◯また、この条文の主語は「政府は」となっており、文部科学省や教育委員会の管轄から切り離されました。令和 2 年10 月には経済産業省が主体となり「地域×スポーツクラブ産業研究会」が始まり、部活動の地域化へ動き出しています。
⑫教諭等の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について(通知) (令和2 年7 月17 日付け、文部科学省初等中等教育局)
【⑫のポイント】
◯教諭等の職務内容を定めるにあたっての注意点として「以下に掲げる学校の業務であるものの必ずしも教諭等が担う 必要のない業務や、基本的には学校以外が担うべき業務については、教諭等の業務の縮減を推進する観点から、標準職務例には掲げていないこと」と示した上で「学校の業務であるものの必ずしも教諭等が担う必要のない業務」 に「部活動に係る対応に関すること」を挙げています。
◯職務として掲げられているものを差し置いて部活動指導をした結果、本務たる職務が滞るということはおかしなことだといえます。
⑬中学校学習指導要領 (平成29 年改定、令和3 年度全面実施)高等学校学習指導要領(平成30 年改定、令和4 年度全面実施) *中高で記載内容が同一
【⑬のポイント】
◯部活動は「教育課程外」の活動という位置づけになっています。つまり、やらなければならないものと国が定 めているものではなく、各校が独自に開設をしているものということになります。
◯「生徒の自主的、自発的な参加によって行われるもの」というのが部活動の法的位置づけです。(学習指導要領は法的な拘束力を持つので守る義務があります)なぜなら、授業時間後の放課後(つまり、個人的・私的な時間)に行われるものであるため、それを強制するわけにはいかないからです。
◯教員においても同様です。休憩時間、勤務時間外にまたぐ活動への参加は、給特法上、自主的・自発的な活動という位置づけになるため、あくまで教員個人の意思が全面的に認められなければならず、いかなる立場であれ、その意思に反して強要することは完全な違法行為です。
⑭中央教育審議会 今後の教員給与の在り方について(答申)
【⑭のポイント】
◯「部活動による時間外指導が可能な限り生じることがないように、校長が適切に管理・監督するよう指導を行うことが必要である」とされています。
◯部活動(やその他の業務全般)が勤務時間に収まらない実態がありながら、部活動顧問を要求することはできません。
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