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uranus_xii_jp
品川 力 氏宛書簡 その二十四
このあひだはありがたう。僕の季節的憂鬱
は、今やうやく去りかけてゐます。「二月の午後」にまた広告
がはいった―眼がギヨロつと光つたらうと、ひやひやしてゐます。
失礼なことをお願ひしたばかりに、あなたの大嫌ひな、「キモノ」
などといふ字をお書かせしたりして申訳ありません。あなたの
鼻のするどいのにはおどろく。ますます好きで耐りません。
僕のわるいくせをはっきり言ってくだされたので。
これからは二行いちどによんでも、或は全くよまなくてもいゝや
うな手紙は差上げないやうに心がけます。それが僕のわるいと
ころでまたいゝところぢやないかと思ふのですが―自分では。
どうもあなたに叱られるのがいちばん恐ろしい。いらっしゃい。
[消印]14.6.29 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂
品川 力 様
漠黒栄
(日本近代文学館 蔵)
二 月 の 午 後
ロングフヱロー作
品 川 力 譯
陽の落ちぬれば
夜は近づけり
沼は氷にとざされ
河は死せるが如く靜もりて、
灰のごとき雲間を透して
眞紅に燃へし太陽は
村々の窓に
赤くきらめき消江うせり。
雪のふりしきれば
垣は埋もれ
野を行く道も早失せぬ、
牧塲を横切りて
氣味わるき影のごと
過ぎゆく柩
おごそかにつゞく人々に
かくて鐘の鳴りひゞかば
かず/\の思ひぞ
わが胸ぬちに
そが淋しき呪の鐘に答ふなり
その鐘の音ひゞかば
もの蔭すべて地にひいて
わがこゝろは、葬の鐘のごと
胸ぬちに すゝり泣きつ
鳴り響くなり。
―十四年、五月―
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↑「二月の午後にまた広告がはいった」とはこのことと思われる。
(ソフィアセンター柏崎市立図書館 所蔵)
※差出人欄の「漠黒栄」って何なんでしょう?