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『おもかげの雲』品川陽子詩抄 (No.5)

おもかげの雲
  -妻を失える人の-

あたたかき冬陽さす
くぬぎの丘を
ひそかにもよぎり
さびしうにゆくをわれは見たり

あわれ幼児おさなご
わが指させるまゝに
故知らず見つむる雲に

そはまどかなる
空にたゝずみ
果とほくゆく月ほどに
淡きおもかげなりしが
ついにはるか
母の面輪も見知らざる幼児と
わが上をよぎり
むなしくもまたかえるすべもなし

                      『箕作秋吉歌曲集』昭和46年 
                     箕作秋吉編著 全音楽譜出版社
                       初出『現代詩集』第5集4


(『品川陽子詩抄』平成25(2013)年10月 
            柏崎ふるさと人物館発行 より)


#品川陽子 #品川約百 #詩


※「おもかげの雲」は箕作秋吉の作曲により歌曲となっている。


※「おもかげの雲-妻を失える人の-」は雑誌「若草」大正15年5月号、に掲載されています。




       『若草』大正15年5月 寶文館発行 日本近代文学館 所蔵


※この作品は一錢亭の「雲」という小説と同時期に作られていて、
 もしかしたら共通のモデルとなる人がいたのかもしれません。

一錢亭は「雲」のあとがきにこう記しています。

(赤い夕陽の原をひとり歩るいたとき
 は寂しかつた。眞赤なカンナの咲き
 みだれた郊外の花畑を泣いてうたつ
 た日もついこのあひだのことなのに
 ――こう私に言つて呉れたひとだけ
 が、このつまらない一篇を書いた私
 の心をいちばん深く知つてゐる。私
 はそのひとにだけこの感傷的散文を
 おくる。餘人は只、笑ひ給へ)





品川 陽子(明治38年(1905)12月6日―平成4年 (1992) 12月12日)
本名は品川 約百よぶ
新潟県柏崎町納屋町に生まれる
詩人
佐藤春夫に師事
兄に、本郷の古書店「ペリカン書房」の品川力、弟は、版画家の品川工

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