親愛なる
品川 力 君
昨日のタイムスはほんたうにありがたかつた。
あなたの宇宙的燦訳の記念号であった。
「大がらす」のカットはすこし嫌だったが、印刷
もきれいだし、ミスプリントもないのは、快い。
昨日朝横浜へくる汽車の中でいくども
愛誦し、あなたの好意をうれしく思
った。「アラン・ポオそのほか」はまた近来
の好きな文章であなたの素質が、すっ
きりとにじみでゝ僕は快感を覚えた。
夕方伊勢佐木町を散歩してゐると、
薔薇の花があったので、約百さんの約束
もあるし、あなたの藝術があまり僕を
喜ばせたので、一鉢かって、わたしの生涯の
愛人ツトムさんと約百さんにおくったわけです。
むろんミルクホールへも寄りました。夜神
谷町の方へおじゃまにあがり、お父さんといろい
ろお話しました。お父さんはあんまりすごす
ぎる。
あなたはちっとも手紙をくれませんが、何か
怒ってゐらっしゃるのでせうか。僕にわるいとこ
ろがあったら、どんどん云って下さい。
今横浜へつき待合室でこれをかいてゐます。
おあそびにゐらっしゃい。
五月廿六日横浜にて、
菊池 与志夫
[消印]14.5.26 (大正14年)
[宛先]東京市京橋区銀座
尾張町 大勝堂
品川 力 様
五月廿六日
横浜ステーシオンにて
菊池 与志夫
(日本近代文学館 蔵)
※普通のはがきではなく、封緘はがきといって現在のミニレターに似たもの に書かれていた。
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