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ほ た る 草 (ある初夏の思ひ出の斷片)

ほ た る 草
(ある初夏はつなつの思ひ出の斷片)
                  草川義英


谷あひのうす靄も消江月かげに螢とび交ふ
竹やぶの見ゆ。


竹やぶの靑竹の中ほのぼのと明かりに見江
し口紅もうれし。


星あかり螢と光りあけちかくわが幻に生きな
んとする。


新らしき麻蚊帳の夜をなつかしみねむりし
われに螢とび來くる。


たまさかに眞珠光らしほたるとぶこの田舎
道ゆく女かな。


はつ夏のむしあつき夜に蚊帳の外の螢の光
り見つめたりけり。


靑き瓦斯溫泉の中に光るらし霧ふる夕べの
一匹のほたる。


星月夜のほたるは悲しきれぎれに光る闇夜
は泣かまほしけれ。


戀々とほたる追ふ子もおみなごも一夜をい
ねて暁におく。


(函館毎日新聞 大正六年八月二十三日 
 第一万一千五百十六號 二十二日夕刊 一面より)


※草川義英は與志夫の函館商業学校時代のペンネーム、同学校の生徒
 を中心に結成された夜光詩社という短歌クラブに所属していた。
[解説]夜光詩社について


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