品川 力 氏宛書簡 その十四
親愛なるツトム君―昨夜は寒雨にて、かへってご迷惑でし
た。申訳ないと思ってゐます。
「思ひ出」ミスプリント訂正。㐧一段落から、六行目「こと
がある」は「ことである」㐧二段落から十八行目「音を偲ばせ
る」は「昔を偲ばせる」
拙文「厭生家の消息」のため、多大の物議を惹起せりと
きゝ恐縮の他なし。その罪死に値す。されど親愛なるわが
ツトム君よ、われ幼少より藝術と思恕の殿堂にこもり、その
花ぞのに醉ひしれて、情感、熱意、処世の理知を顧みる餘地な
し。たゞその往く侭に、己れを示す。己れの誠心を披厂す。前掲の一文
亦然り。されば大兄よ、兄にして若し、われら藝術家の心情を解
するところあらば、わが罪なき罪を深くとがめざれ。新らたに
起稿せる「屋根裏の詩人」三十枚貴意によって破棄す。
以上、わが謝罪の一端として謹んで机下におくる所以也。
「大鴉」翻訳草稿を見せて下さい。
[消印]14.4.6 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂
品川 力 様
きくち・よしを・
(日本近代文学館 蔵)
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