「王友」第十二號 編輯後記
◇今年の正月から六月へかけての「王友」第十
二號期間は、僕らにとつて誠に目まぐるしい
程、多事多端なものであつた。二、二六事件に
よつて我がニッポンがうけた國家的思想大轉換
は、その最大なものであつたが、わが「王友」
に關する限りに於ても、名編輯者土肥君を苫小
牧に送つて、編輯戰線に大異狀を來したのを始
め王友賞授賞作品決定、樺太民謡募集、その入
選決定及びレコード吹込、趣味娯樂移動蒐集隊
の活躍、「趣味を語る」欄の材料蒐集、「工場
短信」欄創設等、次から次へと僕らに相當の壓
力を加重した。何分にも僕等にとつて不慣れ
な、柄にない仕事ばかりであつたため、意外の
ドヂを踏んだり、關係各方面に多大の御迷惑を
かけたりしたが、今ではどうにか曲りなりのも
落着したものもあるし又目下順調に進行中のも
のもある。殊に工場委員を御擔當願つてゐる諸
氏には、非常なお骨折を煩はしたので、この機
會に厚くお禮を申述べて置く次第である。
◇「工場短信」は本社と工場間の連鎖を緊密に
する意味で頗る重要な役割をつつめるものと信
ずる。今後號を追ふて、全工場に渉りお願ひす
ることになつてゐる。又「趣味を語る」は取敢
へず本號締切に間に合つた二篇だけを掲載した
が、これに對しても編輯者は相當腹案を持つて
ゐる。順次これを實現してゆくつもりである。
白羽の矢を立てられた方は、どうか本誌のため
と御觀念下さつて公務妨害にならぬ範圍で、隔
意なき御援助をお願ひして置く次第である。
◇本號から冒頭に述べたやうな、新らしい企劃
の一端が現はれたために、從來の本誌に比し、
相當ニュアンスがちがつてゐる。卽ち昔の「王
友」らしさは漸次後退して、何ものかを模索し
て或る方向へ漸進しつつあるのである。それが
本誌本來の使命にとつて、いいことか、惡るい
ことかの論議は別として僕等はこれを以て當然
の針路と確信してゐる。或は顰蹙と反感とを抱
かれる向きもあるかと思ふが、今のニッポンと
同じく、或る時代の過渡期的あがきとして御寛
恕願ひたいのである。
◇本年度入社の新人諸君の抱負をきくと、大い
に「王友」に寄稿したいといふ人が多數あると
のことである。これは非常に喜ぶべきことで、
「新人出づ」の聲を黎明の鐘のごとく渴仰して
ゐる僕等にとつて願つてもない福音である。新
人、舊人相呼應して、百花繚亂の次號を待望し
て、今から胸踊るを覺えるのである。
◇從來本誌は、五月と十一月に原稿を締切つ
て、六月、十二月末發行といふことになつて
ゐたが、恰度、決算期に當面して、寄稿家の
不便が尠くないので、次號から一ヶ月宛繰り
下げることにしたいと思ふ。何れ具體的なこ
とは後報するが、豫め御含み願つて置く次第
である。(菊池)
(「王友」第十二號
昭和十一年六月三十日發行 編輯後記より)
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