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岡麓雨君を憶ふ

     本社 靑 木 榮 之 助

 麓雨君と親交深かつた菊池一錢亭子
が先日こんなものが出て來たからと云
つて麓雨君の書を私に見せて呉れた。
畫仙半切に唐詩を草躰三行に書かれた
もので、確かに私にも見覺あるもの
である。一錢亭子が特に私に見せて呉
れたのは私も麓雨君と同じやうに古く
から王友書道會に名を列ねて居る因緣
を思出して呉れたからであらう。もつ
とも同じやうに名を列ねて居るとは云
へ、麓雨君は私共惡筆家とは異り、昔
から社内屈指の能書家であり、殊に勤
務の關係上永く近藤竹蔭先生の傍らに
在つて直接、間接常にその指導を受け
られる好運にも惠まれて居たので、天
稟の才能は益〃磨きをかけられ、あの
物柔い人柄そのまゝの穏やかな書風は
會員の中にあつても際立つて光つて居
た。
 今その遺された筆の跡を見るにつけ
ても溫厚そのものゝやうだつた在りし
日の俤が忍ばれてならない。そうして
あのおとなしかつた麓雨君が祖國の爲
めに敢然と銃を執つて立ち、遂に熱病
の爲めに斃れて前途有爲の身を江南の
花と散らせてしまつたことを憶ふと何
か心の沸ぎる思ひに耐えないのであ
る。(終)



(「王友」第十五號 
  昭和十三年四月二十五日發行より)

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