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うやむやに終わらせない!適切な意思決定を促す、「エスカレーション」の進め方

事業部間の対立が起きて、担当プロジェクトで前に進めなくなってしまったことはないだろうか。プロジェクトの方向性について意見が割れたり、あるいはキャパ不足で必要な協力が得られないなど、複数事業部が関わる時は時折避けられないものだ。ここで諦めるのも勿論一つの手だが、客観的に考えてこれは顧客・会社のために良くないと信じ、その会社が自分にとって単なる居場所やATM以上の存在なら、ただ諦めるのも勿体ない。そんな時はどうしたらいいのか。

私はAmazonに入社して間もなく、いきなりそんなことが起きた。Amazonのホームページは、顧客体験の象徴的な入口となるため、ここに掲載する出品者の広告は他ページより厳しい審査基準をクリアしないといけないのだが、その審査は「アルゴリズムではなく人間が1件ずつやらなくてはならない」、と広告政策チームが決めてしまったのだ。一握りの大手消費財顧客ならこれで済むかもしれないが、我々中小企業チームは何十万社の広告を掲載するため、そんなボリュームはとても人力では裁けない。既存アルゴリズムの方が人間より圧倒的に高い審査精度を誇るというデータを示したにも関わらず、広告政策チームは「アルゴリズムに任せていたら、問題発生時に我々が説明責任を取れない」という理由で自動審査の提案を却下してしまった。

私の上司はその打合せに参加できなかったので、私がチームを代表して参加し、結果を報告したら「それ最悪じゃん。どうすんの?」と言われ、「いや、すみません。。。」と答えに困る私。しばらくして、上司が「そしたらエスカレーション資料を用意しようか」と助け船を出す。私は「エスカレーション?何ですかそれ」と聞き返すしかなかったのだが、思い返すとそれが私が同社で担当した初めてのドキュメント(Amazon流の討議資料)となった。

エスカレーションって何?

ここで言うエスカレーションは、直訳すると「上層部を巻き込んで再審する」ことだ。法律の世界に例えるなら「控訴」になるのだろうが、Amazonでは割と日常茶飯事で、特に悪気はなく、部門間の対立をなる早で解決するための仕組みとなっている。会社によっては上層部に問題を持ち込む奴は仕事がデキないという見方もあるみたいだが、Amazonは「エスカレーションは失敗の兆候ではない。また、密告でもなく、必ずしも対立を意味するものでもない」と公式に位置づけている。勿論、これは思いつく全ての方法を尽くしても解決できず、自分達の提案には自信があり、上層部を巻き込む程大事な問題だ、と信じている場合のみ行う。(違うタイプのエスカレーションとして、純粋に人手が足りず、全部のプロジェクトを完遂できないので、「どれが一番優先順位が高いのか決めてください」、というパターンもある。)

エスカレーションの進め方

先ず第一に、意見が相違している他チームに、上層部を巻き込むことを伝える。相手の同意は要らないが、信頼関係を保つためには透明性は担保しなくてはならない。これは真摯に淡々と行い、他チームの非難などは避ける。

次に、メールでは済まないエスカレーションなら、会議の設定が必要。必要な関係者を特定し、彼らの予定をおさえる。当日までに必要なデータや個別相談、あるいは折衷案の相談なども踏まえて、スケジュールを立てよう。会議に向けての検討状況なども、担当メンバーが分かるように頻繁(例:日次)に連絡を取り合うのが良いだろう。

会議の準備ができたら、討議資料の作成に取り掛かろう。構成は以下の通り:

  1. 取り組みの目的や背景を整理する。なぜこの取り組みが顧客と会社にとって大事なのか、初めて知る人でも分かるように説明する。

  2. 意見の相違や、その根底にある問題を説明する。ここで、双方の主張を述べる。根拠となるデータを要約し、詳細な分析は添付資料に掲載する。

  3. 取り得るオプションと、そのメリット・デメリットを整理する。ここは特に大事で、今一度、折衷案や、未検討のアイデアがないのか洗い出そう。

  4. 各チームの提案を述べる。短期的な折衷案を提案するのであれば、長期的な根本解決までの道も提示するなど、マイルストン・ロードマップも含めて提示する。

ドラフトができたら、この問題に精通した人、そうでない人それぞれに読んでもらい、検討事項の抜け漏れがないか確認すると共に、読みやすいように構成や表現を見直そう。また、適切な意思決定を促すために、各オプションが与える影響(時間、お金、顧客体験、規制遵守、等)の定量化を忘れないように。(例:このオプションは「労力がかかる」ではなく、見込みであっても「○○人月かかる」と数値化し、別途のその前提の説明を用意する。)

ここまでやると、双方の主張と根拠が明確になり、どっちに転んでも後々やり切ったと思える内容になる。また、わざわざ上層部を巻き込まなくても解決できる道筋が立ちそうであれば、それに越したことはないので、スケジュールしたミーティングが不要になることもたまにある。裁判を行う前に和解するのと似たような感じだろうか。

討議が無事行われ、方向性が決まったら、内容とネクストステップを議事録にまとめ、振り返りも行おう。(例:次回はもっと早めに相談する、こういうことに配慮すれば相手も同意しやすい、といった学びを書いておく)

尚、私が直面した広告審査の問題では、「①既存アルゴリズムに加え、さらに「高リスク」商材(例:医薬品、肌着)を丸ごとブロックするフィルターを短期的に取り付ける」「②導入から3カ月は、掲載された広告の抜き打ち検査を行う人員を確保する」といった条件をつけることで、広告政策チームも「まぁしゃないか」と思える提案までこぎつけることができた。平行して、エンジニアチームには、ホームページ専用のアルゴリズムにも着手してもらい、長期的な解決策も導入していった。

「私の会社にこういう仕組みないんですけど」

ここからは完全に憶測だが、読者が所属する組織によって、「いや、こんなの普通でしょう」から「ウチでできるイメージがあまり沸かない」まで色々感想が異なるのではと思う。序列を重んじる会社では、進め方を間違えると打たれる杭になる、みたいなリスクもあるかもしれない。

私が渡米前に勤めていた出向先では、幹部が何でも相談したい「経営会議」を隔週で設け、議題がある人はそこに挙げることができた。何か幹部の方々と折り合いがつけられない時は、「そしたら経営会議で皆さんと相談してみましょうか」みたいなノリで公で話す場を設定していた。そういった場が作れそうであればそれが良いかもしれないし、なければとにかく、「○○さん達にも相談してみましょうか」と場を設け、その間に上記のような骨太な提案を紙に落として用意するのが得策なのではと思う。ご感想や、「私の場合はこう解決しました」「こんな時に悩みます」みたいなお話があれば是非お聞かせ頂きたい。

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