誰も語らない、良いビジョンの作り方
組織のリーダーにとって、ビジョン作りは最も大事な仕事の一つです。
ビジョンとは、3~10年後に目指す目的地のこと。私もPMとして実行力が上がるにつれ、「次は大きなビジョンを示してリードするのが課題だね」という指導を上司から受けていました。
その後、全社で目指す動画広告体験のビジョン作りを担当し、一定の成果を上げましたが、良いビジョンの作り方について具体的に書かれた文献の少なさに困惑したのを覚えています。また、様々な企業の採用やIRページを見ると、ミッション(=存在意義)は書かれていても、ビジョン(=創りたい未来)が書かれていない企業が多い印象を受けました。
ビジョンは、職場に限らず、自分のキャリア、家族、課外活動など、様々な場で使える日々の指針になります。今日は、そのビジョンの作り方を整理したいと思います。
ビジョンがないと何が問題なのか
ご存じの方も多いと思うので、手短に。なぜビジョンが大事なのかは、ビジョンが無いとどう困るのか考えてみると一番分かり易いです。革新的な取り組みほど紆余曲折がありますが、ビジョンがないと、その過程で一貫した意思決定ができなくなります。具体的には、以下のような問いへの答えを出すのが難しくなります。
顧客のために何を成し遂げたら良いのか
やれることが限られている中、何を優先すべきか
どんな技術構造(アーキテクチャ)で作るべきか
組織をどう構成すべきか
仕事の意味は何か。何のために頑張るのか
投資家、幹部、社員はなぜこの会社を応援すべきなのか
応募者はなぜこの会社を選ぶべきなのか
デザインツールで有名なFigmaの新規事業リーダーMihika Kapoorは、「ビジョンが全て」と言います。「プロダクト開発の現場は、カオスです。ノリノリな時もあれば、どん底な時もあります。進む道が見えたと思ってユーザーと検証したら、間違いだと気づき、また練り直さなければいけないこともあります。そんな時に落ち込まずに、学びの過程だと捉えるには、常にチームの柱となるビジョンが必要なのです。」
ビジョンを作るための5つのステップ
ビジョン作りは、ストーリー作りと同じように、クリエイティブなプロセスです。そのため、残念ながら、良いビジョンを作るための穴埋めテンプレートやキャンバスは存在しません。
とはいえ、様々な企業の事例を見ると、良いビジョンを作るために必要な議論の進め方に共通項はあります。順番に見てみましょう。
①ビジョンを共に作るメンバーを集める
当たり前に聞こえるかもしれませんが、これが大事な最初のステップです。よくある間違いとして、幹部が1人で考えて、「ビジョンを考えてきたから、これで行こう」と提案してしまうことがあるからです。共に考えたものでないと、主要メンバーの賛同を得るのは難しくなります。
一般的には、CEO、各部門の責任者(プロダクト、エンジニアリング、デザイン、マーケティング、営業、など)と、その他議論に貢献してくれそうなエース級の人材で計5~15名程度を招集するのが望ましいです。
この際、エースデザイナーが参加できると尚良いです。顧客の悩みに対する深い洞察を共有してくれるだけでなく、議論の後はビジョンタイプ(=ビジョンを画像や動画で現したもの)を形にする役割を担えるからです。
議論には通常1~2日かかるため、合宿形式で集まるのが理想的です。
②議論に必要な材料を揃える
次に、議論に必要な材料を揃えます。(以下例)
事業目標
顧客の課題
最近の気づき
技術トレンド
業界トレンド
競合状況
販路状況
自社の能力
組織の状態
加えて、皆で議論したい質問項目も準備しておきましょう。(以下例)
我々は何を成し遂げ、何を変え、何を改善したいのか?
具体的に、誰のためにこれを行うのか?
彼らの何の問題を解決したいのか?
10年後に我々はどんな姿になっていたいか?
10年後に市場はどう変わっているか?そのために我々は何をすべきか?
別々の場所から参加する場合は、FigJamやMiroのようなブレストツールにこれらの情報と質問を用意しておくと良いです。事前にリンクを送り、それを開いたら、当日何をどう議論するのか一目で分かるのが理想的ですね。
一緒に集まれるなら、事前に同様の情報を共有した上で、ホワイトボード、付箋、タイマーなどを用意しておきましょう。
③メンバーでブレストする
当日は、用意したアジェンダに沿ってブレストを進めましょう。
個々の問いについて考える際は、以下のような順で進めるとスムーズです。
まずは各自で考えて付箋に貼る
一定時間が過ぎたら各自順番にコメントし、メンバー間の理解を深める
共通のアイデアをグループ化し、示唆を出す
人数が多い場合は、メンバーをグループ分けし、最後に各グループから発表してもらうのが良いかもしれません。
留意点として、会議の終わりまでにビジョンを仕上げる必要はないことを明確にしておきましょう。ここではあくまでアイデアの抽出ができればOKです。
④ビジョンを形にする
ブレストした内容を基に、チームがワクワクしそうなビジョンを書いてみましょう。長さは目安A4で1枚以内、要は「人が覚えられる範囲」におさめることが大事です。
ビジョンを形にする際は、以下の点を意識しましょう。
顧客中心:顧客にどう貢献するのかを明確に(事業目標ではない)
野心的:大胆な未来像が必要。自分が想像する以上の結果は得られない
実用的:戦略や取り組みの判断に役に立つものにする
長期的:今の制約に縛られず、遠い未来を見る。1年で達成できるならNG
刺激的:社員がワクワクするものにする
ドラフトができたら、エースデザイナーと共有し、擦り合わせできたら、デザイナーにビジョンタイプの叩き台を作成してもらいましょう。予算があれば、プロの制作会社にムービーを作ってもらうのも良いですね。(そろそろ生成AIでできてしまうかも?)
⑤参加者からフィードバックをもらい、最終化する
文章と画像・動画で叩き台ができたら、参加者からフィードバックをもらい、最終化しましょう。
勿論、完成したら終わりではありません。ビジョンを社内で広め、戦略や施策と一貫させ、採用・評価・昇進基準などに組み込む必要があります。具体的にな進め方は、「ビジョンを実現する、事業戦略の書き方」や「イノベーションを起こし続けるための5つの秘訣」をご覧ください。
良いビジョンの例
参考まで、いくつかの企業のビジョンを紹介します。詳細は各社HPに記載があるので、ご興味ある方はそちらをご覧ください。
また、上述のビジョンタイプについて、いくつか例を見つけたので、こちらも参考までリンクを下記します。
Airbnb (Pixarと共にビジョンの作成過程を動画化)
Microsoft(未来の働き方)
John Deere(未来の農業)
SpaceX(火星への旅)