aikoのことを語る日は紛れもなく小さな丸い好日
僕はaikoが好きだ。先日、aikoが好きな人たちと初めて会った。男4人で半日もの間、aikoのことしか話さなかった。過去の恋愛話を除いて他の女性の話などしなかった。最高の一日とはこういう日のことをいう。
そこで出会った僕より一回り上のお兄ちゃんに感銘を受け、この度aikoのアルバムを時系列順に追うシリーズをnoteでやっていこうと思う。
余談だが僕は「歌詞を読む」のが苦手で、これまでは曲調で音楽を好きになることが多かった。しかしaikoというアーティストに恋をしてからは歌詞にも注目するようにもなり、他のアーティストの作品でも「歌詞を読む」醍醐味をaikoが教えてくれたように思う。その一面を楽しめるようになったのは少し大人になったのか何なのかは不明瞭だが、「歌詞を読む」行為は音楽の良さを何重にも高めてくれる魅力がある。aikoと年齢がかけ離れていようが僕の方からaikoの作品ひとえに価値観や人生を遡れば、僕はよりaikoを身近に感じられるようになり、aikoの描く「あたし」に何か新しい思いを馳せることができるのではないかという所存である。
◇◇◇
今回振り返る作品はファーストアルバム『小さな丸い好日(1999)』だ。
注意してほしいのは、「好日」は「こうび」でなく「こうじつ」である。
aiko自身が「このときによしとしてたのが力強く全部歌うというか、ちょっと自分自身、曲がしっとりしていても、歌うことに関しては尖ってればいい、じゃないけど、強ければ強いほどいいって思っていたので…」とライナーノーツで述べているのもあるせいか、アルバムを一枚を通してaikoの''パワー''を感じずにはいられない作品になっている。
たとえるならそれは、''殺気''や''威圧''という意味の圧迫上司的な力強さではなく、どちらかというと''エネルギッシュ''や''インパクト''という横文字を駆使しながら「aikoって言います!大阪で下積みしてきました!聴いてやってください!」と宣言する社会人3年目のような躍動感である。
以下、曲順。
01.オレンジな満月
02.ジェット
03.私生活
04.歌姫
05.赤い靴
06.イジワルな天使よ世界を笑え!
07.恋堕ちる時
08.夏にマフラー
09.ボブ
10.ナキ・ムシ
11.あした
恐らくジャンキーでない人は「ナキ・ムシ」を知っているかどうかだろう。シングル作品は時系列順に「あした」と「ナキ・ムシ」のみ。
正直メジャーな曲はあまりない。個人的には「歌姫」がシングルでないことに毎度驚愕する。
01.オレンジな満月
重厚感あふれるイントロに対して、aikoの歌唱が始まった瞬間にポップソングに昇華される名曲。初期aikoのポップソングといえば、これか同アルバムの6曲目「イジワルな天使よ世界を笑え!(以下イジ天)」かなと思う。
「イジ天」にも通じる点だが、サビの跳ねる感じがめちゃくちゃ好み。サビで繰り返される「左目からお願い」の部分で声を張り上げる歌唱も良い。歌っていて気持ちいいし、ライブで歌ってくれたら嬉しい曲である。
明日もため息の行進が加速をつけるわぅわぅ
ため息の行進。この頃から詞の才能を遺憾なく発揮しているaiko。
以下は、「あなたに対してなげたボールが返って来なくて不安な気持ちになる毎日」に対して続く歌詞。
優しかったり何もなかったり
鳴らないオルゴールのねじまわすみたい
くそ!鳴らないオルゴールのねじまわしてえ!アンティークショップ行こ!ウッディも欲しい!
あと個人的には1番のAメロ「そうあなたのナナメ45°に届くように」の周辺の息遣いでくちゃくちゃしているのがえっちでいい。
悪いけどこういうことを書くためにこのシリーズを始めたので非常に清々しい気持ちでこれを書いている。あまりこっちを見ないでほしい。
02.ジェット
疾走感のあるaikoといえばこの曲を真っ先に思い浮かべる。ベストアルバム「まとめⅡ」で再収録された音源の方がライブに近いテンポなのだが、こちらのゆるジェットも大変良い。まじでライブのジェットは速すぎてaikoどこで息吸ってんの?ってなる。aikoより客の方が息切れる。aiko凄い。
この曲の疾走感は凄まじいもので、aiko自身も当時デモテープを聴きながら三軒茶屋の町を一人で走ったという。ちなみにジャンキーはライブ会場で走り回るaikoをよく見ているので三軒茶屋で走り回るaikoを想像するのは容易なことである。
03.私生活
かわいい曲調とは裏腹に歌詞が凄まじい曲。
この曲はaikoが「歌詞はまさしくこういう気持ちが自分にあるので、自分が今まで生きてきたなかで、築き上げてきたちょっと怖いとこっていうか、THE女なところとかも表現した曲だったので…」と語っているが、aikoにいろいろツッコみたいことがある。突っ込みたいのである。
あなたを独り占めする為に邪魔する理性を脱ぎ捨てた
えっち…………。
いろいろ脱ぎ捨ててますやん。続いてCメロ。
あなたが飼い主ならば あたしは忠義を尽くす物に変わる
忠犬aikoじゃん………。
首輪つけて歩き回したいな……。
もう一度言うが、こういうことを書くためにこのシリーズを始めたので非常に清々しい気持ちでこれを書いている。
「忠義を尽くす物」にさえ変化を遂げるaikoは次にこんなことを言う。
こんなに好きなんだから 手を引く権利をあたしに下さい
ええ…………。忠犬aikoを完全に従えていたつもりだったのに主導権握っていたのはそっちだったんすか。ベッドの上でここほれワンワンプレイ中だったのになあ。おかしいなあ。何?ここほれワンワンプレイのことか?もう一度言うが、こういうことを書くために(以下略)。
04.歌姫
僕はこの曲を聴くと勇気を貰える。「がんばれ歌姫」というストレートすぎる歌詞が好きで、aikoがこんなに頑張っているんだから自分も頑張らなきゃという気持ちに駆られるのだ。
以下、歌い出し。
必ず太陽が昇るんならば
昨日がもう帰って来ないなら
より道しても前に行くしかない
aikoはこの6年後に「より道」というカップリング曲を発表するのだが、aikoが大切にしている言葉なんだなと今実感して書きながら感傷的になってしまった。
05.赤い靴
「ナキ・ムシ」のカップリング2曲目でもある。
なぜタイトルが「赤い靴」なのかは歌詞から説明する。
ほしくてほしくて手に入れた 底の高い赤い靴は
あなたの肩にこのあごが届くように
ゆっくりゆっくり押しこめた 物欲にからまった気持ち
全てあなたのためだった事を知って
やっぱり真っ直ぐ歩けない はきこなせない赤い靴に
たまらなく好きだった事を知る
むっちゃ純粋。しかしながらこの曲の「あたし」は振られてしまう。「あなた」はさよならの理由を少しずつ並べるのである。「あたし」が言う。
君を好きじゃなくなったって
息巻くぐらいに言えばいいじゃない
上手な別れ方だなんて
そんな言葉あたしにはいらない
aiko、赤い靴なんか履かなくとも俺の肩とかあごには届くと思うけどどう?
06.イジワルな天使よ世界を笑え!
いいねえ。偏差値5タイトル。歌詞もぶっ飛んではいるが、これもライブで歌ってくれたら嬉しい曲の一つである。このアルバムで一番好きな曲。
こんな風に初期の曲がライブのセットリストに入っていたら嬉しいアーティストってなかなか存在しないのではないだろうか。aikoは作っているものがずっとブレてないから、セットリストにどの時代の曲を持ってきても神リストが出来上がってしまうんだよな。
(曲について)これまたちょっぴり不本意(笑)、”イジ天”って言われてるから。イカ天みたいでしょ、揚げ物っぽいでしょ。さつま揚げっぽいやん。”天使”って言ってよって。私はずっと”天使”って言ってるからそれが普通なんですけど、”イジ天”って言われるんですよ。
かわいい。
ちなみになんで「これまた不本意(笑)」と述べているかというと、1曲目の「オレンジな満月」を「オレ満」って言う人がいるらしい。うん、それは僕も不本意よaiko。「満」の響きがよくないよね。辛うじて漢字だからいいけど。響きがよくないよね。「満」ってね。うん。
07.恋堕ちる時
aikoのプレイリストを全曲分類したときにも書いたが、開幕ブレスが最高な曲。レコーディングの際、aikoは風邪を引いて体調が悪かったため5分前まで寝ていたらしい。起きて歌ったらこれって凄すぎ。鼻声ですら愛おしい。
見つめられる前にあたしが見つめる
「二人」という曲の「見つめられれば恥ずかしいけど」というフレーズにもある通り、aikoにとって「見つめる」という行為は凡人の「見つめる」とは一線を画するものがある。
耳のうしろのにおいがのどを通ったなら
あたしはあなたなしでは生きてゆけない体になるだろう
ふーん、えっちじゃん。
08.夏にマフラー
途中のフェイクも相まってかわいさが溢れちゃっている曲。なにかしらのアニメのED曲に起用されそうなゆるい雰囲気の曲調。
夏にマフラーするほどの熱い気持ちが込められていて、歌詞を読むと甘い気持ちになる。
この曲で言いたいことはひとつ。
腕時計の跡見せて
刻んだ日々なんだかうれしい
パーフェクトリリックじゃん。「刻んだ日々」という言葉も最高。デートから帰って来て二人で同時に帰って来たのに「ただいま」と「おかえり」を言い合って、靴脱いで、荷物置いて。そしたら「腕時計の跡見せて」ってaikoが言ってくるんでしょ?いくらでも見せる。なんならそのままちょっと汗ばんだ腕も嗅がせる。絶対aikoいい顔する。それ見て俺もいい顔する。
09.ボブ
弾き語りのしっとりバラード。
時々 思い〼 あなたの事を
四六時中ぢゃないです
大丈夫、文字化けではない。こういう歌詞だ。ますは〼なのだ。じゃはぢゃなのだ。aikoが学生時代によく使っていた言葉を用いたらしい。
こういう風に残していくのもなんかいいね。
10.ナキ・ムシ
このアルバムでは一番知名度のある曲のはず。
「歌詞は、加湿器の湯気を見てできたっていうか。」
は?やっぱり天才でしょこの人は。
aikoって切り取る日常の一コマが他に類を見ないものばかりで、数年後には冷蔵庫やらドライヤーやら水道やらを歌詞にブチ込んできてたりする。普通に生きているだけで歌詞の種がそこら中にある。本当に凄い。
「加湿器の蒸気を見て、あぁキレイだなぁと思って、そっからできた曲ですね。あとは自分の生活とかをそのまんま。もうすっごいよく泣くんで。」
だから天才かよ。誰が加湿器の蒸気見て歌詞書くんだよ。その、申し訳程度に「あとは自分の生活っすかね」って入れてくる感じたまんないね。
この部屋で5分の出来事 白い影が消えては映す
ガラスの赤い光
ああ、なんだこのぶわっと思い描かせてくれる詞は。まごうことなく綺麗。
泣き虫だし いい言葉も並べられない
笑顔も下手だし不器用だけど
ありのままの気持ちを誓え Ah
サビの詞は等身大でめちゃくちゃ愛でたくなる。
ちなみに僕はGoogle日本語入力を使用しているが、「なきむし」と打つと変換候補に「ナキムシ」に加えて「ナキ・ムシ」が表示されることに毎回心が躍る。Googleチームにジャンキーが潜んでいるに違いない。
11.あした
ラストにしてオマケ感。なぜならこの曲は唯一作曲がaikoではない。
逆にいうとこの曲以外はaiko作曲によるものなので、一味違うaikoを味わえる曲。
作詞では子どもが観る映画の主題歌のために難しい言葉を使わないでくれと言われ、レコーディングでは「マライヤみたいなフェイクして」と言われ、ジャケット撮影ではショッキングピンクの口紅を塗られて半泣きになり、挙句の果てには照明で日焼けしたらしい。
ほろ苦いデビューだったねaiko。
でもここからが始まったんだね。ありがとうaiko。
◇◇◇
以上、計11曲。
最初のアルバムだからかやはりバラエティに富んではいるが歌詞の世界観や初々しいパワフルな歌唱を考えると、aikoの曲作りの姿勢や、”歌”に対する強い思いはこの頃から垣間見える。ここから全てが始まったと思うと月並みだが感慨深い。
ところで、このアルバム名「小さな丸い好日」というのはアルバム1曲目である「オレンジな満月」の歌詞の一部である。
大きくなくていい 小さな丸い好日
この歌詞に対してaikoはこう言及している。
「自分の幸せな日を表現できた言葉です。こういう嬉しいことが毎日続けばいいなっていまだに思っています。」
――aiko's linernotes「aiko bon(2005)」より
満ち欠けのないaikoへの愛をnoteに、小さく、丸く、残していこうと思う。
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