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No.232,素人小説「変数は絶えず変わりゆく」


第1章 破綻

【南尾勇人】

南尾勇人は現在50歳である。

幼少期から勉強やスポーツなど、何をやってもうまくいかないことに悩んでいた。

そういった気持ちから自信を失い、自尊心も低下していった。

しかし、自己評価とは裏腹に、なぜか目立つ存在だった。中学・高校ではクラス全員から支持され、生徒会長に選ばれることで徐々に自信を持てるようになった。

そんな南尾は東京の大学に進学し、勉学よりもアルバイトに明け暮れた。成績は芳しくなかったため就職活動も苦労したが、大手飲料メーカーに就職することができた。

現在は課長として働いている。

大学時代から付き合っていた沙織とは就職と同時に結婚したが、結婚生活13年目に破綻した。原因は部下との一度きりの浮気だった。
その事実が妻に発覚し「あなたを許すことはできない」と言って離婚届にサインした。
一人娘の親権は沙織に渡った。

後に共通の友人から沙織が再婚したことを聞いた。そして再婚相手は大学時代のゼミの先輩であり、結婚する前から関係が続いていたことも知らされた。

その瞬間、今まで信じていた世界が「まやかし」であったかのような失望と絶望を感じた。

青空のような世界だと思っていたが、真実は黒い渦巻く世界だった。

第2章 定数ではない日常

南尾勇人は妻と別れて5年が経過した。外食やコンビニ弁当で済ませていた生活のため、離婚前に比べて体重が10キロも増加していた。

焦りを感じた彼はダイエットを決意し、職場に向かう際は一駅前で降りて歩くようにしたが体重は減らなかった。

そんな中、ネットで効果を調べていく中「ヨガ」がいいことを知る。

早速、ヨガ教室を調べ会社の帰り道にある教室に通い始めた。最初は身体が硬く、運動神経も良くなかったため苦痛だったが、次第に効果が現れ始めた。

汗をよくかくようになり、体幹トレーニングで姿勢が改善され筋力トレーニングも行うようになった結果、筋肉質な体型になり、体重も減少した。

その結果、半年で10キロの減量に成功した。

ある日、レッスンを終えてシャワーを浴びようとしている時、樋口涼子と名乗る女性に声をかけられた。南尾の娘と同じ年頃の女性で、第一印象はモデルのようなスタイルだった。

涼子は最近入会したばかりだが、すでに中級者コースを修了していた。
会話の中で「南尾さん、長山亜希子さんを覚えていますか?」と尋ねられた。

「えっ? 長山亜希子ですか? 知りませんが、誰ですか?」と南尾は答えた。

「平川紀子といえばわかりますよね?」と涼子は言った。

平川紀子は有名な女優で、数年前まで映画やドラマで活躍していた。

「思い出せないですか?」と涼子は続けた。

「思い出すも何も、テレビで活躍している芸能人ですから、もちろん知っていますが…」と南尾は答えた。

「まあ、そうですよね…」と涼子は言い、平川紀子が自分の母であることを明かした。

そして「南尾さん、大学時代を思い出してください」と言って去っていった。

その日以降、彼女を見ることはなかった。

第3章 あらたな変数

樋口涼子が残した「大学時代を思い出してください」という言葉の意味を考えていた。

当時、南尾は学校にはほとんど顔を出さず、様々なアルバイトに明け暮れていた。

晩酌をしながら、ふと古いアルバムが目に入った。

大学時代にアルバイトをしていたショッピングモール内のファッションショーの写真が1枚あった。

そこには平川紀子として活躍する前の長山亜希子が出演していた。

確かに樋口涼子の母親である長山亜希子との接点はあった。

南尾は何か特別なつながりを感じ、彼女の言葉が自分の過去と関係しているのではないかと思った。

それから1週間後、樋口涼子から連絡があり会う約束をした。

二人は落ち着いたカフェで話し始めた。

「南尾さん、私が長山亜希子の娘であることは本当です。彼女は私を妊娠出産した当時、すでに芸能界で活躍していました。そのため、私を育てることができない状況でした。私は長山洋子の父と母、つまり祖父母に育てられました」

彼女の話に集中した。「成人式が終わり、実の母から南尾さんのことを聞きました。ただ、南尾さんという男性に会いたいとだけ言って、南尾さんの勤めている会社と大学時代の写真を渡されました」

「その理由を聞いても教えてくれなかったんです。ただ、南尾さんという男性に会いたいと」

「私は数週間悩みました。母の表情から何かあるのかと思い、教えられた会社を尋ねることにしました。その時に偶然、写真と同じ顔を見つけました」

「あとをついていったら、ヨガ教室に入って行くのを見届けたんです。母からはただ南尾さんに会いたいと言ったことが不思議でした。だから少し南尾さんを観察してみようと‥ヨガ講師の資格があるにもかかわらず教室に入会しました」

南尾はなぜか話を聞くにつれ不思議な感覚に包まれた。

「南尾さん、あなたと母との間に何か特別なつながりがあるのかもしれません。」私と長山亜希子の間に何かあったのか?でも、どうして私は思い出せないんだろう?

「母はあなたに会いたいと言っていました」

南尾は自分の過去と向き合うことが怖かったが、樋口涼子の言葉が彼にとって新たな変数となり得ることを感じた。

「樋口さん、母に会っていただけますか?」

【変数は絶えず変わりゆく。南尾勇人は自分の過去と向き合い、新たな絆を築くために、未知の道に踏み出す覚悟を決めたのである】

第4章 忘却の彼方

南尾勇人は、樋口涼子からの連絡を受けて長山亜希子との再会の場所へと向かった。
カフェの扉を開けると、そこにはテレビや映画で見ていた平川紀子こと亜希子が座っていた。

「南尾さん、お久しぶりです」と彼女は柔らかな声。

南尾はなぜか懐かしさを感じたが「申し訳ありませんが、私はあなたのことを覚えていないんです」と答えた。

亜希子は微笑んで「それもそのはずです。私たちの出会いは、あなたにとって忘れ去られるほどのものだったのでしょう。しかし、私にとっては忘れられない出来事だったのです。」

南尾は混乱しながらも、亜希子の話に耳を傾けた。

「私たちは大学時代に一度だけ、とあるイベントで出会いました。その夜、私たちは深い会話を交わしお互いの夢や希望について語り合ったのです。しかし、その後私は芸能界に入り、あなたは自分の道を歩み始めました。私はあなたの言葉は私の心に残っていたのです」

南尾は、亜希子の言葉に心を動かされた。彼女との出会いが彼の記憶の彼方にあることを感じながらも、なぜかその記憶に触れることができなかった。

「そして、私にはあなたに伝えたいことがあるのです。それは、私の娘、涼子に関することです。」

亜希子はゆっくりと話を続けた。
「あなたがヨガ教室で出会った女性です。私があなたに会いたがっていた理由は、あなたが私にとって特別な存在だったからです。」

第5章 運命の再会

秋の柔らかな日差しの中、南尾勇人は公園のベンチに座っていた。彼の心は亜希子と彼女の娘である涼子との再会によって、期待と不安で満たされていた。

そんな彼の前に、静かな足音が近づいてきた。顔を上げると、そこには涼子が立っていた。
彼女は、母親の亜希子がかつて持っていたような、落ち着いた美しさを身にまとっていた。

「南尾さん、お久しぶりです」

京子の声は、亜希子の温かさを受け継いでいるようだった。南尾は立ち上がり、涼子に手を差し伸べた。

「あなたの母さんとは、大学時代に一度だけお会いしたことがあります。その時のことは、ほとんど覚えていないのですが…」

涼子は微笑みながら、南尾の手を握り返した。

「私は、あなたが母に与えた影響について聞いています。あなたの言葉が、母の人生にとって大きな支えになったそうです。そして、その話を聞いて育った私もあなたに感謝しています」

南尾は涼子の瞳に、亜希子との過去と未来への架け橋を見た。彼は、涼子との出会いが自分自身にとっても新たな意味を持つことを感じ始めていた。

「涼子さん、私たちの出会いが、あなたやあなたの母さんにとって、そんなにも意味のあるものだったとは思いもしませんでした」

涼子は優しく頷き、公園の小道を歩き始める彼を誘った。

「南尾さん、私たちの話はこれからです。一緒に歩きながら、お互いのことをもっと知りましょう」

二人は、秋の風に吹かれながら、ゆっくりと公園を歩き始めた。
過去の影響が未来に繋がる瞬間、南尾勇人は新たな章の始まりを感じていた。

第6章 新たなる出発

南尾勇人は、涼子との会話から自身について新たな発見があった。

彼女との出会いは、彼の過去の記憶を呼び覚ますきっかけとなった。それは亜希子との一夜の出会いが彼の人生に与えた影響の大きさを理解することができたからだ。

涼子との散歩を終えた後、南尾は自宅に戻り長い間開けていなかった古い日記を手に取った。ページをめくるごとに、彼の大学時代の思い出が蘇ってきた。
そして、あの夜、亜希子と交わした夜が彼の心の中で鮮明になっていった。

「人生は予測不可能なものだ。でも、その不確実性が、私たちに夢を追い続ける力を与えるんだ」という亜希子の言葉が、日記の隅に書かれていた。

南尾は深くため息をつきながら、自分がどれほど人の気持ちに寄り添うことが出来なかったことを思い知らされた。しかし、同時に、これからの人生をより意味のあるものに変えるチャンスがあることも感じた。

第7章 再生の兆し

南尾は、涼子との出会いをきっかけに、自分の人生を見つめ直す決意を固めた。彼は、自分の仕事に新たな情熱を注ぎ始め、部下たちとの関係も改善していった。また、息子との関係も修復しようと努力し、彼の成長を支える父親であり続けることを誓った。

ある日、南尾は会社のプロジェクトで大きな成功を収め、その功績が認められて部門の責任者に昇進した。
彼のリーダーシップと献身的な努力が、会社全体に良い影響を与えていた。

第8章 未来への架け橋

涼子との再会から数ヶ月後、南尾は彼女からの招待を受けて、亜希子が主催するチャリティーイベントに参加した。イベントでは、亜希子の演技キャリアと彼女の慈善活動についてのドキュメンタリーが上映された。

南尾は、亜希子が芸能界での成功を通じて、多くの人々の生活を改善するために尽力していることを知り、深い感銘を受けた。
イベントの最後に、亜希子はステージに立ち、南尾に向けて感謝の言葉を述べた。

「南尾さん、あなたとの出会いが私の人生に大きな影響を与えました。今日、ここにいる皆さんと共に、私たちの出会いがもたらした良い影響を分かち合えることを嬉しく思います」

南尾は、自分が亜希子や涼子の人生に与えた影響を実感し、自分自身も彼女たちから多くを学んだことに感謝した。
彼は、過去の出会いが未来への架け橋となり、新たな希望と可能性をもたらすことを確信した。

おわり

最後に

本を読むことが幼いころから大好きであり、さまざまな小説を読んでいく中で小説家の凄さに感銘を受けてきた。

そんなことから自分自身で短編小説を書いてみようと思ったが、改めて小説家の凄さを思い知らされた。

本当に本は素晴らしい世界。

今あるこの世の中はすべては人間の創造が原点だと考えると、言葉にすること(文章)こそが原点ではないだろうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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