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冬至
白っぽい朝。
地下鉄は時々地上に顔を出して地下鉄ではなくなり、窓から朝の光が射し込む。サングラスも、ブルーライト避けグラスもしていない目には眩し過ぎて、思わず目を閉じる。
冬至。
冷えて乾燥した空気の中で、短日の太陽は存外に鋭い。
昨年の冬至は自宅で朝を迎えた。
夜明け前に起きて毎年恒例の用事を済ませ、朝焼けを見たのだ。どこまでも深い青に光が差し、地平が赤く染まる。ビルのシルエットがアイボリーブラックに輝いて、すべてが浄らかになる。目から指先から口腔から、そのすべてを吸い込んだ。あの澄んだ心持ちのおかげで一年頑張ってきた。
今年の冬至は親元にいる。
加速度的に進む父の老いに、向き合う日々。いや向き合えているのかどうか。どうしたらよいかわからないまま、泣きたい心のまま。父の大きな身体の重さがそのまま私や母の胸を塞ぐ。本番の寒さで肩から力を抜く暇もない。
それでも、ふっと和らぐ一瞬がある。
何しろあの父が、先月あたりからはエプロンをして食事をするようになった。赤い帆布のエプロンの紐を、食事の度に背中で結ぶ。その一瞬。
微かな安らぎを、逃さずに過ごしていくしかない。少しずつ長くなる日を、できる限り味わうのだ。
来年のこの日はどうしているだろう、と冬至の晩、日記に書いた。生きていたら、何を力に生きられているか。
きっと短くとも光が差している。それこそが希み。
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