17.哺乳類の呼吸 背骨の運動から読み解く
哺乳類は横隔膜を使って呼吸を行います。胸と腹を区分けする横隔膜という筋肉が上下することによって空気の出し入れをしております。
肺そのものは陰圧状態ですが、横隔膜が下降すると強制的に膨らむので空気が入り込んでくれます。そして横隔膜が上昇すると肺がしぼみ、空気が出ていきます。
横隔膜の動きに加え、肋骨の上下、前後径と左右径の拡大も呼吸運動に関わります。
背骨はどうでしょう?呼吸における背骨の運動は、あまり語られることがありません。といいますか、解剖生理学では取り上げておりません。
呼吸における横隔膜と大腰筋
模式図を描きました。あまり上手くないですが許して下さい。
息を吸うと、椎体腹側が頭方と尾方にそれぞれ動き、椎体背側がそれぞれ反対に動きます。
若干の反りをともないますが、動物によってこの反りの具合には大きな差があります。
横隔膜は下降するときに椎体腹側を引き込むので、結果的に椎体に回転運動を起こします。
大腰筋は横隔膜の動きに応えるように、椎体腹側を引き込み、結果的に胸椎とは反対の回転運動を起こします。
横隔膜は弛緩時には上に膨らんだドーム状の筋肉なので、こうして斜めに描くのは本来間違っております。しかしながら、緊張時の役割として、斜めに描いた方が分かりやすいのでこのように描きました。横隔膜の働きをロジックで解釈したときには、このような斜めのほうが本質を描いていると考えております。
椎体のズレ
哺乳類以外の椎体は、こうしたズレ運動を起こしません。順番に曲がっていくだけです。椎間板に線維輪が加わったり、同時始動といった動きが可能になったのも、こうした椎体のズレの認識が関わっていると思われます。
哺乳類化と肋骨の消失
説明が後手になりましたが、先の図で横隔膜が担当しているのが胸椎で、大腰筋が担当しているのが腰椎です。背骨の途中で動きが反対になったので、腰椎の肋骨が消失します。肋骨運動に齟齬が生まれたということです。
厳密にいうと、この境目は胸椎10〜腰椎1番のどこかになります。動物によって違いがあり、ややこしいので胸椎と腰椎の間とお考え下さい。おそらく哺乳類の始まりにおいては胸椎10番だったと考えております。なので肋骨の運動齟齬は、境目から少し後方で起こったと考えております。
誰も指摘してないのですが、ときを同じくして頸椎肋骨も消失します。図には描いてませんが、胸椎のズレ運動は頸椎とも齟齬が生じるのです。頸椎は胸椎から少し独立し、肋骨消失。それとともに頸椎肋骨前にあった烏口骨も退縮、下顎骨の一部が耳小骨へ変貌、その上の顔面頭蓋も退縮、そして表情筋が発達します。
構造的にみると、頭蓋および頸椎腹側にある環状構造のほとんどが変貌しています。
(顔面頭蓋の退縮は、敬愛する三木成夫氏が指摘しておりますが、ほかにはいないのかもしれません。)
たかが横隔膜呼吸なのですが、数多の連鎖を引き起こし、前哺乳類の体は大きく変貌していきました。
これだけ沢山の変貌があると、その始まりを決めるのは難しいのですが、わたしは横隔膜呼吸にその始まりをみています。理由のひとつは、両生類以降、爬虫類でも鳥類でも呼吸方法の変遷があり、哺乳類ほどではないですが、体の変貌もあるのです。
呼吸方法の確立時期は、おそらく最初に爬虫類、そして鳥類、最後に哺乳類と続き、少なくとも6,500万年前以降に大きな変革はないと思います。
哺乳類は丸くなれる
哺乳類の緩い定義として、「腹側に丸くなれる」というのがあるようです。しかしながら、「トカゲなどもある程度丸くなれるので定義にならない」、というのが生物界の結論のようです。
わたしとしては、「丸くなれる」というよりも、「腹側に二つ折れできる」という定義を主張したいです。上図のように、背骨が胸腰椎の境目で反対方向に動くので、二つに折れることが出来ます。これは哺乳類だけの特徴といえます。
おことわりと注釈
昔は哺乳類の祖先は爬虫類とされておりましたが、その後爬虫類に似た哺乳類の祖先型という意味で「哺乳類型爬虫類」という提案があり、現在は「キノドン類」もしくは「単弓類」となっております。両生類から分岐した有羊膜類、そこから分岐した単弓類の中から生まれたのがキノドン類です。
このブログはある程度知識がないと分からないことを書いてますが、普通の人にも読んでもらいたいので、とりあえず「前哺乳類」とか「哺乳類の前型」といった表現にしております。
出典元
見出し画像 横隔膜 - Wikipedia
横隔膜 Diaphragme (organe) — Wikipédia