これからのタトゥー業界を支えるもの
わけもわからずにヤフオクで安いマシンを買い、基礎も何もわからないまま練習をくりかえす。少し慣れてきたら自分の肌にタトゥーを入れてみる。
仲のいい友達にタダで彫ってあげると言い、劣悪な衛生環境の中、未熟な技術で施術を行う。
当然お世辞にも上手いとは言えないデザインのタトゥーが入る。線はガタガタ、色は飛びまくり、その程度ならまだマシで、知識と技術が伴っていないせいで最悪の場合は皮膚組織を破壊し、晴れてケロイド状態の出来上がりとなる。
実はこんな信じられないことが、日本中の各地で密かに行われていて、毎年数多くの未熟な彫り師気取りによる犠牲者が生み出されている事実を知っておいてもらいたい。
数字やデータで示せと言われるとエビデンスは何も無いのだが、ひとつ確かなことがある。
未熟な彫り師気取りによる犠牲者たちが「自分のタトゥーをキレイに修正したい」という希望で、当スタジオには決して少なく無い数の問い合わせが寄せられるのだ。また、お客さんから「知人がそんなことをしている」「自分も実は独学で練習している」などという話を実際に聞くこともある。
なので、根拠は?と聞かれると、実際に目で見たモノや聞いてきたことなので信憑性があるか無いかは各自判断してもらってもいいが、少なくとも未熟な彫り師気取りによる犠牲者が数多く当スタジオへ訪れていることは事実として受け止めてもらいたい。
さて、どうしてこんな話をするのかというと、僕はこれからのタトゥー業界(日本)に危機感を感じている。大げさでもなんでもなくタトゥー業界の未来を憂いているのだ。
僕はツイッターを頻繁に利用しているのだが、
ツイッターの中ではタトゥーへの顕在ニーズはとても多い。ぜひツイッターをしている人は、試しに「タトゥー入れたい」で検索してみて欲しい。めちゃくちゃ人数いるから。
でも、そうつぶやく大部分の人は、入れたくても様々な理由でタトゥーを入れていない。というか入れることができていない。
その理由の多くが、「日本はタトゥーに対して偏見があり、タトゥーを入れると社会生活上の不都合が沢山あるから」で、例えば、温泉やプールに行けない、就職や転職などといった仕事事情、世間体や親兄弟からの反対というようなことだ。
(補足:温泉は入浴可能な施設もあるし銭湯は入浴可だし貸切風呂や露天風呂付き客室などもある。プールには半袖や長袖で隠せば入れる。)
このタトゥー顕在ニーズ層は、これらの【偏見】がなくなれば「タトゥーを入れたい」と、ツイッター上ではつぶやいている。
【教育】がタトゥー業界に求められている
では、これらの【偏見】を無くし、認められるためにはどうすればいいのか?これは今後の日本のタトゥー業界の最大の課題ではないだろうか。
結論から言ってしまえば、今後のタトゥー業界に最も必要なものは【教育】だと僕は思っている。
ただ、今さら彫り師として活動してきた人たちにあれこれ変えてくれと言っても、彼らにも独自の持論というものがあるだろうし今まで培ってきた経験があるのだから一筋縄ではいかない。
だから、タトゥーアーティスト(彫り師)になる前、目指す段階から教育してしまえばいいのだ。
彫り師としてデビューする前から、しっかりとした衛生管理の知識、正しいタトゥー施術の技術、スタジオ経営や接客に関するノウハウと訓練、社会人としてのマナーや礼儀などを身につけ、世間からのツッコミどころを排除してしまえばいいのではないだろうか。
別にキレイゴトを言うつもりでも、言いたいわけでも無い。
反社会的組織との関わりが無いことはもちろん、他人に迷惑をかけないような言動をし、しっかりとマナーを守り、きちんと納税の義務を果たして地域社会に貢献していれば、自ずと認められていくはずだ。
教育機関が今、タトゥー業界には求められている。
しっかりとした教育機関がないからクリアな彫り師が育たない。ダークな彫り師が増え続ける。だから偏見がいつまでたっても無くならないのだ。
どうしても彫り師には悪いイメージがつきガチで、そんなアウトロー的な世界に憧れて彫り師を目指す若者が多いのも事実だが、将来的にはそのようなダークな彫り師は淘汰されるべきだと思うし、クリアな彫り師が増えれば増えるほど必然的に淘汰されていくだろう。
現代の流れとして、一昔前のヤクザやヤンキー的思考や文化は流行らないし暴対法も益々厳しくなってきている。やれセクハラだパワハラだと世間の風潮も何かあればすぐに問題視する流れの中、クリアな彫り師が増えれば当然お客さんも大多数はそっちに流れていくのが目に見える。
そうなればダークな彫り師、未熟な彫り師気取りたちは商売として成り立たなくなり、生活が出来ないのだからいくら彫り師を続けたくても続けていくことができなくなるだろう。
タトゥーそのものは何も悪くない。偏見の根源を作っているのは、彫り師そのものなのだ。言わば、自分で自分の首を締める自業自得状態に陥ってる。ただ、誤解の無いように言っておくがそんなダークな彫り師はごく一部で、日本にも真っ当でクリアな彫り師は沢山いる。その真っ当でクリアな彫り師が、一部のダークで適当な彫り師気取りのおかげで【偏見】という呪縛から逃れられなくなっているのだ。
日本からダークな彫り師、未熟な彫り師気取りが居なくなればタトゥーに対する偏見はなくなるはずだ。
それを成し得ることができるのは、【教育】を置いて他にない。
あとがき
2018年11月に大阪高裁により、タトゥー施術に医師免許は必要ないとの判決が下されたものの、大阪高検が上告したため最高裁で争うことになっている。(2019年3月現在)
これによりタトゥー業界には、衛生管理方法などの自主規制が求められるようになり、大阪高裁を争った弁護団の一人と、タトゥーサプライ業界大手3社が手を組み、業界団体を発足する動きも出てきている。
要するに国側は、何か問題が起こった時がめんどくさいので今まで押し並べて「違法」としてきたのだが、これだけ一般の人がタトゥーをファッションとして楽しむようになってしまっては、もう一括りに「違法」で通すことが難しくなってきた。しかし国側はタトゥーに関する知識なんて当然皆無で免許などの制度を作ろうにも作れるはずがない。それならと、業界側に自主規制を作るように求めてきたのではないかと思う。それがうまくいけば国家資格にしてしまい、免許の取得にかかる費用などを収入源にしてしまおうという腹ではないだろうか。
しかし、業界団体が設立されたとて【教育】という面においては安心出来ない、これには大きな問題がつきまとう。そう、修得できるのは衛生管理の基準についてのみ、ということ。
いったい、タトゥーの技術はどこで学べばいいのか?
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