今日の800字小説「星空」
「すごいな。吸い込まれるような星空だなぁ」
「うん」ん?
秋の夜長。長く続いた雨も今日は落ち着いて、過ごしやすい空気の中、私と彼は雲のない夜空を眺めていた。澄んだ空に数多の星が瞬いている。
「晴れて良かったなぁ」
「うん」ん?
二人で計画した週末のデート。車で県外み足を運んで一日レジャーを楽しんだ。今はこうして、丘の上のキャンプ場で、草っ原にシートを敷いて並んで寝転がっている。
「星を見てると、落ち着くなぁ」
会話、いらないなぁ。こういうとき男の人って話したいもんなのかな。
「あ、あそこ、オリオン座だよね?」
彼はざっくり虚空を指さした。
「あ、うん。そうだね」
私はもう15分も前からオリオン座を認識していた。
「星座にまつわる物語って知ってる?」
あ、この男、なんかロマンチックなこと言おうとしてるな。めんどくさいな。
「ああ、よくギリシャ神話と紐づけて語られるよね」
嫌だなぁ。聞きたくないなぁ。
「え、あ、うん、そうそう」
今の反応からして、たぶん私の方が詳しいんだよなぁ。
「えっとその、ペルセウス座ってあるじゃん」
彼は特に夜空を指さすでもなく語り始めた。ペルセウス座がどれかは知らないんだ。
「ペルセウスって英雄でね、いろんな神話が残されてるんだけど」
今日私が運転してたし、もう疲れてるんだよなぁ。星を眺めながら寝落ちしたいなぁ。
「ある日ペルセウスは、怪物ゴルゴンを殺すように言われて…」
いやちょっと待て。
「ああもうグロいグロいグロい!物語のチョイス違うでしょ!このシチュエーションでする話じゃないでしょ!あと私もう疲れてるから星空みながらウトウトしたいの。ちょっと静かにしててくれない?」
あーやっちゃった。疲れて我慢できなくてキレちゃった。嫌われるかな。
「カナちゃん…」
まあいっか。こんな空気読めない男、嫌われてもしょうがないか。
「カナちゃん、"グロい"とかいう子だったんだね」
「いやどこで引いてんだよ!」