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ショートショート(コント)「帽子型ウェアラブル端末を初めて付けた人の会話」1600字

 街を歩いていて、帽子屋さんの店頭に並ぶセール品のカゴが目に付いた。様々な帽子が無造作に置かれている中に、一風変わった帽子があった。

 鍔広のハットで右半分にスパンコールのブルーのラメが輝いていて、左半分はメカっぽさのあるシルバーの光沢がある。未来のパリピがかぶっていそうなデザインだ。

 わー、変わった帽子だなぁ。しかもセール品で安くなってる。これかぶって合コンに行ったらウケるかな。

 試着して店内の鏡を見る。いかにも怪しい。

「わぁ、とってもお似合いですよ」

 店員さんが話しかけてきた。そんなわけないのに。

「これ、売れ残ってますよね。だからこんなに安いんでしょ?」

 店員さんは苦い顔で笑っている。

「いえ決してそのようなことは……」

「いいですよ、これください」

「え、あ、ありがとうございます〜」

 550円を払ってお店を出た。

 さっそく買ったばかりの帽子をかぶる。昼間っから街中を歩くのも恥ずかしいデザインだ。

『おお、ついにこの帽子の所有者が決まったのか』

 ん? なんか聞こえる?

『お、この声が聞こえておるようじゃのぅ』

 洞窟の中のようなくぐもった声が頭に反響している。周囲を見渡しても人の気配はない。そもそもこんな帽子を被っている人には寄りつかないし。

「もしかして、帽子から声出てます?」

 私は声に出して言ってみた。

『おお! その通りじゃ! なかなかすぐに理解できるものじゃないぞ。さすがこの帽子を買うセンスのある者だ』

「それ褒めてないですよ。それよりこれ、どうやって声出してるんですか? 霊的なやつですか?」

『はっはっはっ。心霊現象と思っても無理はないが、そうではない。これは近未来のウェアラブル端末でのぅ。帽子型の高性能サポートアイテムなのじゃ』

「既に存在してるのに『近未来』なんですね」

『まだ一般向けに実用化されてないから近未来なんじゃ。普通のサラリーマンなんかじゃとても手が出せないような値段だったじゃろう?』

「あ、めちゃくちゃ安かったです。売れ残ってたんで。ワンコインでした。正確にはワンコイン+税でした」

『なんと……! 資本主義の弊害じゃのぅ』

「世の中在庫に厳しいですからね……。そんなことより、コレどうやって声出してるんですか? 脳波に直接語りかけてるとかですか?」

『脳波に直接……!あっはっはっ! さすがにSFの見過ぎじゃ! そんな技術は存在せんわ』

「なんかツボ入ってるみたいですけど、そんくらいのこと起きてますからね」

『これは骨伝導じゃ』

「ええ? 骨伝導ってあのツーカーの?」

『よく覚えてるな。当時は画期的だったのに歴史に埋もれてしまったな』

「へぇ、その技術って生きてたんですね」

『君の耳石に直接語りかけておる』

「なんか脳波よりイヤな表現だな。耳の穴こちょこちょされてる気分になる。ところで、普通に会話してますけど、あなたはどこにいるんですか?」

『どこも何も、帽子に内蔵されておる』

「え? 帽子の中に? だって今しゃべってるのって、その、博士……ですよね」

『これはこの帽子の機能であるサポートAIの音声じゃ』

「え? じゃあなんでそんなに、その、博士口調なんですか?」

『開発者であるわしの声をサンプリングして作られておるからな』

「なんでそんなことするんですか。こんな口調だから霊的な何かだと思われるんでしょ。もっと平板な合成音声とか、ファンタジーなら可愛いマスコットキャラクター的な声とか、あるじゃないですか」

『すぐそこにあってサンプリングするのに手っ取り早かったんじゃ。それだけじゃ』

「……博士、友達いないでしょ」

『そんなことはどうでもよい。せっかく高性能AIを手に入れたんじゃ。君、なにかサポートしてほしい事はないか?』

「あー、じゃあ僕、これから合コンに行くんですけど、そこで気の利いたアドバイスもらえませんか?」

『なんじゃそんなことか、お安い御用じゃ。だがなぁ、そもそもこんなハイセンスな帽子を被っていたら、それだけで若者たちはメロメロじゃろうに』

「いやそこはリスクしかないわ〜!」

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