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小説「エンドロールにはまだ早い」(ふたりの日々)1400字

『まだ終わらないからな……。必ず戻ってくるからな! その時まで……生きるんだぞ……』

 ノートPCの画面の中で、キエトが馬車に乗せられていく。アスニは地面に押さえつけられながら、這いつくばって馬車が遠ざかるのを見送っている。二人の運命が大きく反転したところでエンディングが始まった……。

 私は潤んだ目元をティッシュで抑えた。

 え〜マジか。ここで終わり? 次の配信まで待てないよ〜。

 少し溜まっていたタイの配信ドラマを観ていたら、だいぶ遅い時間になってしまった。リビングの電気だけを点けた室内はここだけがくっきりと明るい。

「物語の結末を見るのって、ちょっと怖い時ない?」

 ダイニングテーブルに座って鑑賞していたナオが、唐突につぶやいた。

「え? なにそれ?」

 ソファーで目に溜まった涙を拭いながら、ナオに目線を向けた。PC画面には配信ドラマのエンディング曲が流れている。

「本とかドラマとか、物語には必ず終わりがあるじゃない。私さ、最後まで観るのが怖い時がある」

 ふーん、私にはあんまりない感覚だな。

「私は……、早く最後まで見たいタイプだなぁ。面白い海外ドラマって見てると止まらなくなる」

 私は自分の感覚をストレートに伝えた。するとナオは指に絡めたミルクコーヒーのカップをじっと見つめながら言った。

「いつもそうって訳じゃないんだ。その、続きが気になるっていう感覚もわかる」

「じゃあ、どんなときに終わらないでって思うの?」

 単純な疑問をナオにぶつけた。ナオは少し考えてから、ゆっくりと言った。

「たぶん感情移入が強いときだと思う。主人公とか登場人物とかが悩んでいたりすると自分と重ねて見ていて」

 それは私にも経験がある。主人公が泣いていると、一緒に泣いちゃうこととか、理不尽に腹が立つこととか。

「それでハッピーエンドでも、悲しい結末でも、その人とのつながりが切れてしまうのが寂しいのかもしれない」

 その言葉でナオの方に顔を向けた。ふと、椅子に座ったナオの背後に、今まで生きてきた足跡が影を作っているような気がした。ナオは物語が終わるのをたくさん見てきたんだ。

「私はね、物語が終わっても、主人公たちの人生は続いてるって思うな。いろんな人生が、ずっと先まで続いていて、それを想像するのも楽しいじゃん」

 ナオの悩みの答えになるかわからないけど、私は自分がよく思ってることをそのまま言った。勝手に続編を作るのは楽しいから。

「そっか、そうすれば、つながっていられるのか」

「たまに好きなドラマの夢見たりするからね」

「それはカナデの想像力が強すぎだろー」

 私は声を出して笑った。ナオも笑っている。

「実は、最終話まで見られなかったドラマとか、途中で止めちゃった本とか結構あるんだ。今度、続きを見てみるよ」

「えー、そんなにあるの? もったいないよ」

 ナオの背中を押せたようでよかった。

「それにさ」

 私は思いついちゃった言葉を言うことにした。

「私たちの物語は、これからもずっと続いていくからね。そんなに簡単に、終わったりはしないよ!」

 やだ、変にクサいセリフになっちゃった。

「なにそれ……あはははは」

 ナオはもっと笑った。

 ドラマのエンドロールは一番の盛り上がりを迎えていた。

 そう、私たちの冒険は、まだ始まったばかりなのだから……。

 って違う違う! これじゃ少年漫画の打ち切りテンプレじゃん!


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