小さな水族館を作ったら、 子どもたちがとんでもない海の未来を考えた【子ども漁業体験レポート 】
海の未来を守るためには、未来を担う世代と一緒に活動しないといけない。
そう考えるISOP事務局は、毎年子ども漁業体験を実施しています。
※ISOP(Ishinomaki Save the Ocean Project)=なんらかの原因で海藻が減少し、生えなくなってしまう現象『磯焼け』によって荒れる海を守り、「ウニと人を育てる」ことを目指すプロジェクト。
ISOPの活動は、次世代の子どもたちのための活動でもあります。ウニを駆除するのも、海藻を増やすのも、豊かな海を自分達の世代で絶やさず、次の世代へと受け継いでいくため。
そんな未来の海を受け継いでいく子どもたちからみたとき、一体この活動はどのように映るのでしょうか。そして、子どもたちが望む海とはどんな海なのか。子どもたちと一緒に未来の海のあり方を考えるため、2021年10月に、小学2年生から6年生の子どもたち計8人と一緒に漁業体験を行いました。
今年も、昨年と同じように「船に乗って海の中をのぞく」という計画を立てていましたが、天候に恵まれず、雨天での開催となりました。しかし、「雨天でも、魚を間近で見てもらいたい」という漁協職員さんの思いのもと、なんと漁協施設内に1日限定の小さな水族館を作ってくれることに。
これには子どもたちも大喜び。ゆらゆら揺れる海藻や泳ぎ回る魚たちに子どもたちは目を輝かせていました。この記事では、そんな充実した半日の体験の様子をレポートしていきます。
体験1 触れたことのない魚に触る
漁協の方々が動き出したのは、体験の実施予定日の4日前。この時点で実施日の天気予報が雨だったため、雨天バージョンでの体験に変更されることが決まりました。雨の中でも、子どもたちに海を楽しんでもらうためには何ができるのか。
そう考えた時、漁協職員の一人が「せっかくなら、生きた魚を見せてあげたい」、「生き物と触れ合えるようにしたい」というアイデアを出してくれました。そうして、私たちは急遽、漁協施設の中に小さな水族館を作ることになったのです。
前日に仕掛けたカゴを揚げにいってくれた漁協職員さん。
当日できたのが、水槽がずらりと並んだこちらのスペース。なかには、漁協職員さんが前日にカゴを仕掛け、水揚げしてくれたアナゴやタコ、アイゴなどの魚たちが。一部を除き、全ての水槽のなかを触り放題です(触ったあとは美味しくいただきました)
最初は恐る恐る触っていた子どもたちでしたが、だんだんと積極的になっていきます。
「タコの吸盤はすごい絡みつくんだね」
「ヤドカリが貝を捨てて、歩いてる!これが本体なの?」
いきなり始まった慣れない生き物との交流には、小さな発見が溢れていました。
同じ水槽に入っていたアナゴとタコが喧嘩を始めました。
アナゴがタコの足に噛みつきます。タコを助けようとする子どもたち。
「(アナゴに向かって)お前、はなせよ!」
バシャッッッ。アナゴが水槽に体を打ちつけ、水が飛び散ります。
「きゃああ」
大騒ぎです。
一通り触ったあとは、魚に詳しい宮城県職員のツアー。水槽の中にいる魚や海藻の生態を解説しながらまわっていきます。
「この水槽だけは手をいれてはいけないのですが、なぜでしょう」
「……」、子どもたちは静かになります。
「この水槽に入っている魚はアイゴといいます。実はこの魚、毒をもっているんです。だから、触ると危険なんです。そして、何より臭いんですね」
「えーそれなら触らないよ!」、またもや、子どもたちは大騒ぎ。
普段触れることのできない魚や海藻を間近で見て、手で触れた子どもたち。はじめての体験だらけだった水槽のそばから、なかなか離れることができないみたいでした。
体験2 海にいる魚の、今と昔を知る
続いては、昔と今で獲れる魚が変わっているかを考えるコーナー。まずは今日見た魚たちを思い出してもらいます。
「あれ、なんだっけ。あの魚」
思い出した魚の名前をポストイットに書き込み、魚を触った時の感想も一緒にホワイトボードに貼り付けていきます。書き込まれた魚を見た漁協職員さんは、その魚がどこで獲れたものなのかを教えてくれます。
こうしてできた「今の海の様子」を、昔の海の様子と比べます。漁協の前に広がる海でおよそ30年前から漁業を営んでいる漁師さんに協力してもらい、昔の海の情報を予めマップにおこしておきました。
「えー!ここでハマグリが獲れたの?」
子供たちから驚きの声があがります。
「昔はアイゴとかいないね」
毒のことで印象に残っていたのか、アイゴを指摘してくれる子どもがいました。アイゴは海藻を食べてしまう魚。もともとは暖かい海域に生息する魚でしたが、温暖化とともに生息域が拡大し、各地の磯焼けの原因となっています。
「アイゴが増えすぎるとやばいんだね!」
温暖化とともに住んでいる魚が変わっていること、アイゴのような魚が増えると海藻がなくなってしまうことを、子どもたちが自ら考えてくれました。
体験3 未来の海を想像する
最後は、自分達が大人になったときに、どんな海になってほしいかを想像する時間。今日の体験を経て、将来どんな海であってほしいかを模造紙に書いてもらいました。
実際に魚に触れて、昔の海のことも知った子どもたちは、どんな風に考えるんでしょう?
ワークショップを考えた私たちとしては、「色々な魚や海藻が増えてほしいな」だったり、「アイゴが増えないで欲しい」といった意見が書き込まれるんじゃないかな…?と思っていました。そんななか、出来上がった地図がこちら。
「鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭鮭」
「イクライクライクライクライクライクライクライクライクラ」
「のりのりのりのりのりのりのりのりのりのりのりのりのりのり」
鮭と海苔ばっかり!なんなら、魚卵のイクラまで書いてあります。ひたすら自分達の食べたいものを描き続ける子供たちの自由さに、大人たちも大笑い。さっきまでの振り返りはどこにいってしまったのか……
なかには、「きれいでみんなで遊べる海にしたい」「泳ぎたい」「潜ってみたい」
そんな言葉も書き込まれていました。
好きなものを描き切った子どもたちは大満足の様子。最後はいい笑顔とともに記念撮影。触ったタコやアナゴをお土産にもらって帰っていきました。
まとめ
「子どもたちと一緒に、海の未来を考えよう」ということで実施した子ども漁業体験。海の生き物とたわむれながら子どもたちが考えたのは、「好きなものは残したい」ということでした。
釣りや魚が身近なものでない限り、まだ小さい子どもたちにとって魚=食べ物です。「食べると美味しいから好き。だから残したい」。それなら、「食べる魚」以外のことも好きになってもらえたら、もっともっといろんな魚を残すことにも、興味を持ってもらえるかもしれません。
「何か」を好きになるためには、まずその「何か」を知らないといけない。ISOPは、これから豊かな海の森を残すだけでなく、海のことを知ってもらう活動を広げていく必要があるのでしょう。
多種多様な魚で溢れる海をつくるために、子ども漁業体験で子どもと海をつなぎ続ける。そうすれば、いつかは地図の上の海藻の量が、イクラと同じくらいまで増える日もくるかもしれません。