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「点」ではなくて「線」で聞く―誰もが表現したい世界の中で
国語学者の斎藤孝さんが、著書『質問力―話し上手はここが違う』の中で、講演後の質問時間をだんだん設けなくなったことを述べている。
その理由は、質問のレベルがあまりに低く、齋藤さんだけでなく、聴衆もつらいと思ったから。
齋藤さんがいうレベルの低いとはどんな質問かというと―
1. すでに講演の中で話したことを再度聞いてくる
2. 言葉尻をとらえて上げ足を取ってくる
3. 質問の前に自分の知識と経験をひけらかす
である。
確かに学会やシンポジウム、講義など、人の話を聞いたり、自分で話したりといった場で、こういう光景を目にすることは多い。
またそればかりでなく、質問にすら至らない「質問」も存在する。自分の人生と知識を披露した後に質問があるならまだいいのだが、それすらないのである。
その「質問」はこんな感じだ
〇〇さんが、このようにお話しされていましたが、私はかくかく云々こういう人生を歩んできて、その中ではこんな体験をし・・・、これまでこういうことをして、こんなことを感じてきました・・・・・・・(いつまで続くのかな?)・・・・・・・・・・大変興味深いお話しをありがとうございます (なんとまさかの質問なしっ!)
どの辺りに興味を持ったのかをせめて指摘してくれれば、そこから話も繋げられる。だが、こういわれると話し手は「そうですか。ありがとうございます。」としか返しようがないのである。
なので私もイベントの運営をする際は、この手の「質問」を避けるため、「意見ではなく質問をしてください」と聴衆に求めたり、休憩時間に質問を書いて提出してもらい、それを運営側でまとめてそれを演者に答えてもらったりすることが多くなった。
なぜこのようなことが起こってしまうのだろう。
これは端的に言うと、人の話を自分の人生の中に落とし込み、その中で話を解釈をしているから起こる。
「話し手はなぜこのように思ったのか?」、「なぜこのようなことをしてきたのか?」という相手を中心にした聞き方をしないと、相手を知るための質問は生まれない。
しかしおそらく多くの人は、「自分はどうだったか」、「この意見について自分は賛成か、反対か。それはなぜか」といった、自分中心の聴き方してしまう。そうすると質問の時間に、ひたすら自分の意見と人生を披露することになってしまうのである。
相手の話を「線」で聞いているか?
話すことと、聞くこと、どちらが得意かと言われれば、 「話すことは苦手」、「聞くことの方が好き」と答える人の方が多いのではないかと思う。
確かに、相手の言葉を頭の中に入れることは、そんなに難しくないのかもしれない。
でも、その言葉を、相手をよりよく「知る」ために使える人は少数派ではないだろうか。
なぜなら相手の言葉を相手のことを知るために使おうと思ったら、自分の世界観ではなく、相手の言葉を手掛かりに、相手の世界に入り込み、そして聞かなければならない。当然相手は自分と違うのだから、そこには結構な集中力と想像力が必要になる―そして、これはけっこう疲れる。
相手から提供された言葉のパーツを、自分にとって心地よいように組み替えて、発信することは簡単にできる。でもこれをしていたらいつまでも、相手の言葉のパーツが相手の中でどういう風につながっているのかを知ることはできない。これをするためには、相手の話を「線」で聞かないといけないからだ。
言葉の断片を、自分の世界に落とし込んで解釈する時、あなたは相手の話を「点」で聞いている。
自分がつかんだ言葉の断片を、相手の世界の中で解釈しようとするとき、あなたは相手の話を「線」で聞いている。
「線」で話を聞ける人から生まれる質問は、話し手の世界により踏み込み、時には話し手が言い忘れていたこと、話し手が意識していなかった、でも話し手にとって言うべきことを指し示す。そういう質問は、話し手にも、聴衆にも感謝される、みんなが幸せになれる質問だ。
「聞く」はいっけん受動的なプロセスである。ぱっと見、何もしているように見えないため、簡単なことに思われがちであるが、ほんとうに聞こうと思ったら、能動的かつ、クリエイティブに動かなければならない。
みんなが表現者になりたい世の中で忘れられていること。
それは表現する前に、世界を見渡してみること、そしてその一つが、相手の話を「線」で聞くことだと思う。
関連note: なぜ「おじさん」は英会話ができないのか
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