vol.4 良い医療者は 泣かない医療者? 【1】 ーー死に際して医療者が泣けない理由を考える
家族が一番悲しいのに、
あなたが泣いてどうする?
看護師になってすでに15年近くになる菊地のはじめての勤め先は、総合病院の内科であった。そこで菊地は、看護師として何人もの患者の命を見送ることになるのだが、そのうちの1人である金澤とその家族とのエピソードを、菊地はいまでも忘れずに覚えている。
金澤は、50歳代の末期肺がんの男性患者であった。肺がんの末期は呼吸困難が生じて苦しいため、最後は、意識レベルを落としての治療が続いていたが、菊地はそれ以前から金澤の看護にあたっており、家族とも顔見知りの仲になっていた。
そのようななか、金澤が息を引き取り、お見送りのための着替えを菊地が施していると、それを傍らで見ていた家族が、「お父さんが一番好きな看護師さんが来てくれたよ。やってくれたよ」と、病室のベッドに横たわる金澤にやさしく話しかけた。それを聞いた菊地は感極まり、その場で思わずぽろぽろと涙をこぼしてしまう。
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