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底冷え
山の中にできた新しい町では
事が起きても隣りはそっぽを向いているという
地をはう車さえあればわが家の事は足りるし
手のかからぬくらしのからくりの中でささやかに生きていけばよいか
影だけのともだちは 部屋の隅の箱の中からやってきて
手も握らず 食卓にもつかず かってに歌って 喋っては消えてゆく
ゆっくり動いている冬の終わりの星いっぱいのきれいな空
かぜがはやっているのはいつも部屋の中である
納め忘れた洗いものがかすかに軒先でゆれながら やがて
死んだ人のようにこわばって冷えてゆく
ピーポピーポの白い車が
また近くにとまったが誰も寄ってはこないのだ
くりかえされる女たちの長い長い電話のつらら
星空を忘れた女たちは やがて忘れられることも知らず喋りつづけている
詩誌『駱駝』146号(1976年2月)