みんユルクロニクル#17 『THE DAY』
※前回までのお話はこちら。みんユルクロニクル#16『ぼくらの作りたかったものは』
2020年6月4日 水曜日
みたけさんからのDMで始まる朝。もう何日目になるのだろう。思えば6月4日とは、色々な偶然が重なった日だった。Jリーグ再開のジャスト一ヶ月前であり、中断を発表して100日目の日でもあったらしい。さらに言うと、久保建英の誕生日でもある。
これを書いている今、Jリーグの優勝は既に決まっている。既にシーズンは終盤に差し掛かり、我らがFC東京は連勝も連敗も味わい、それでもルヴァンカップのファイナリストになっている。決勝は延期になったものの、まだチャンピオンになる権利は失っていない。過密日程の中、カタールに赴いたチームは、ACLでギリギリの戦いを繰り広げている。不公平や理不尽は多々あったものの、様々な人たちの尽力により、なんとかフットボールのシーズンと呼べるものが成立しようとしている。
しかし、6月4日。この頃、そんな気配は露ほどもなかった。誰もが覚えている通り、本当に露ほども存在しなかった。日々の感染者数に一喜一憂しながら、それでもリーグ再開を半信半疑ながら喜んでいたころ。橋本拳人も室屋成もまだチームの要として君臨していた。このころ、中村拓海や内田宅哉主力だと考えるサポーターがいったい何人いたのだろう?林に代わって波多野が守護神を務めることを予想できただろうか?
時の流れは止まることを知らず、それがどこに流れ着くかなど、誰にもわからない。コロナ自体がそうだし、コロナが引き起こした事態こそ、その最たるものだと思う。
だが、時の流れがそうでなかった試しが、ただの一度でもあっただろうか?2020年のこの状況は度を越してはいるが、まあ、いつものことだ、とも言える。コロナがあろうとなかろうと、6ヶ月も経てば、世の中は想像だにしないほどに変化する。2019年のシーズンが始まった時のメンバーと、2019年を終えた時のメンバーを比較してみれば、そんなことはすぐに理解できる。
とにかく、2020年の12月、東京は、いやJリーグ全体が、どうにかこうにか、シーズンのスケジュールを終盤まで消化しつつある。兎にも角にも、シーズンは再開し、そして終わろうとしている。
ぼくは考える。半年が過ぎてこの状態になることがわかっていたら、ぼくはみんユルを手伝っただろうか。みたけさんはマリサポからの煽りをどう受け止めただろう?ちーかまさんは手を挙げただろうか?獣さんはみたけさんの誘いに乗った?oomiさんはどうしていただろう?このプロジェクトに参加してくれた皆さんは、それでもユルネバを歌っただろうか?
こんな想像には、まったく意味などない。先など見えないから、人は行動するのだ。先などわからなくても、それでも行動するのだ。だから、こんなこと、本当に意味などないのだけど、それでもやっぱり思うのだ。
たぶん、同じことをしたんだろうな、と。
そう思えて仕方ない。あの時、ぼくらを衝き動かすに至った動機は人それぞれあれど、その原動力は、他でもなくぼくらや、参加した皆さんの考え方や生き方に寄るものだと思うから。
みんユル公開まで、あと11時間00分
ほとんど眠れずにベッドから起きたぼくは、昨日みんなに展開した完パケを、もう一度最初から最後まで再生した。そして、昨夜ちーかまさんが最終ミックスのつもりで送ってくれたファイル、「みんユル_Final_終」を聞いた時に思ったことを、きちんとちーかまさんに伝えよう、と思った。「終」まで付いたのに今更、とは思いつつ、もはや遠慮する方が失礼だ。
もうこれは、このDMの通りである。個人的に、KIMIKA_SPECIAL_ver.の時の、オーラス前の駆け上がりがめちゃくちゃ良いと思っていて、本篇にそれをどうしても入れて欲しいと思ってしまったのだった。
ここ、鳥肌ポイントだと思うんですよね。たくさんの人の歌声の中、最後の最後のところで、プロシンガーのKIMIKAここにあり!って感じにできないか、という思いだった。たくさんのストームトルーパーの群の中を悠々と歩く、AT-ATみたいなイメージだ。
やがて、ちーかまさんからとてもシンプルな返信が来た。
いま、このやりとりをキャプチャしようとして、とんでもないことに気づいてしまった。ちーかまさんが午前中に返事をくれている!!あのちーかまさんが!午前中に起きている!今始めてその事実気づき、震えている。さしものちーかまさんも、公開当日には自分と同じく落ち着かなかったのだろうか?
みんユル公開まで、あと8時間00分
今、この日の自分のスケジュールを確認すると、13:00〜C社音楽打ち(ZOOM)と書かれている。暇の極みだったこの時期にも、当然のことながら通常業務は進行していた。この日にこなす打ち合わせは、さぞ心ここにあらずであっただろう。この打ち合わせの内容、いや本当に開催されたのかさえ全然記憶にない。とにかくみんユルの作業に戻りたかった。ちーかまさんへの無茶振り以外、動画は出来上がっているはずなのに。とにかくこの時は、早く参加者リストの確認作業をしたかった。公開してしまってからでは取り返しがつかない。ただし、そのちーかまさんも悩んでいるようだった。
みんユル公開まで、あと3時間00分
にわかに、公開に向けて緊張感が漂って来る。ちーかまさんから送られてきた正真正銘のファイナルミックス。そのタイトルは…
「みんユル_Mix_final_終_完」!完がついた!これを持って、ちーかまさんの作業はオールアップである。
ぼくは「みんユル_Mix_final_終_完」をダウンロードしている間に、シーケンスから何箇所かフレームを選び、youtubeのサムネイル用の静止画を書き出して展開した。スタッフの意見を聞いて、この先動画の表紙であり看板となるはずの、サムネイルを選ぶ必要があった。ぼくは、独断と偏見で、3組の参加者をチョイスさせてもらった。
18時まで打ち合わせのはずのoomiさんが速攻で返信をくれている。やはり、みんな心ここにあらずなのだろうか。
この、ちーかまさんとのやりとりは、映像に使用した音声データの音量に関してだ。オンエアされるTVCMなどと違い、WEB公開の動画には明確な音量基準がない。YouTubeをザッピングしていればわかると思うが、動画によって極端に大きかったり、全然聞こえなかったり、という状態のものが混在している。みんユルは音楽企画なので、可能な限り適切な音量で出力したかった。『マリサポから4U』では、本職のミキサーさんがファイナルミックスしていることがわかっていたので、そのレベルを基準にすることは、理にかなっていると言える。
oomiさんが心配しているのは、英文の校正について。エンドロールに入れ込んでいる、スペシャルサンクスの項目の文章に間違いがないかどうかの確認を、獣さんが山中さんにお願いしていたのだが、その返答がまだ来ていなかったのだ。
楽曲のダウンロードが終わり、それを再生してみる。いい。めちゃくちゃいい。みんユルパフォーマーズの最後の盛り上がりの中にKIMIKAさんが確実にいて、好き勝手盛り上がってる感が凄まじくプラスされ、幸せ感が数段増している。これ以上ない終わり方だな、と思った。
ぼくはこの時、シーケンスの音レベルを調整して書き出してはYouTubeにテストアップして、チェックする、という確認作業を繰り返していた。最終的なミキシングはちーかまさんの方で行なっていたが、アップロードするファイルを書き出す際に、もう一度レベルを取る必要がある。普段、最終的にアップする素材を自分で組むことなど無いので慎重になっていた。一回のレンダリングには7〜8分かかるため、物理的に時間を削られていく。だいたいいいかな?というレベルのものが上がるまで何度も同じ作業を繰り返していった。
みんユル公開まで、あと1時間30分
ちーかまさんがレベルの確認をしてくれ、ようやく完パケと呼べるバージョンが完成した。…と思われたが、まだスペルチェックの返答が来ていない。この裏で獣さんひとりだったリストチェックにoomiさんが復帰する。
ここで、みたけさんの肩書きが、「Project Reader」になっていたことを山中さんが指摘していただいた。正しくは言うまでもなく「Project Leader」である。アホである。超恥ずかしい。
みんユル公開まで、あと1時間20分
ここへきて痛恨のスペルミス発覚!でも大丈夫。時間はまだある。焦る必要なんて全然ない。エンドロールのミスなので、画像を制作したoomiさん修正をお願いするのが本来なのだが、この程度ならこちらでもなんとかなる。ぼくはPhotoshopを開くと、「L」の文字を適当な場所からコピペし、「R」の上に貼り付ける。これでOK。大元のデータを更新したので、再びファイルを書き出す必要があった。
ぼくは焦り出していた。その証拠に、実はこの時、最後の書き出しの際に致命的なミスをしているのだが、そのことに気づいたのは、公開から数日後のことだった。公開までまだ1時間以上もあり、なにも焦る必要などまったくなかった、と今になって思うのだが、この時は妙にハイになって焦っていた。
みんユル公開まで、あと1時間10分
レンダリング中だったこの時、ぼくは公式YouTubeチャンネルへのアップロードのことを考えていた。通常のプロセスであれば、アップロードは獣さんの担当だった。ぼくが書き出したファイルをファイヤーストレージにアップし、獣さんがダウンロードし、公式youtubeチャンネルにアップロードし直す。
あと1時間あまり。間に合わないとは思わなかったが、この時獣さんはチェック作業に追われていて、この上アップロードまで頼むのはあまりにも比重が重すぎる。ぼくは映像を書き出してしまえば手が空くので、googleアカウントのパスワードを教えてもらってyoutubeチャンネルにログインし、自分でアップロードすれば、かなり手間が省ける。
ただ、それには、説明欄に書く文章が必要だったことに、ここで気付いた。やば。新しく文章を書く時間はもはや無さそうだったので、サマリーシートの文章をアレンジして使うことにした。
そして、同時に、我らが"L"eaderによる独断と偏見により、サムネイルが決定した。落選した皆さん、決めたのはみたけさんですよ!
偉そうに人に指図してんじゃないよって感じである。司令塔気取りで恥ずかしい。
みんユル公開まで、あと1時間
だから偉そうに人に指図してんじゃないよ!この一連、公開に至るまでの時間は、我ながら完全にハイになっており、いまグループDMを読み返すと、かなり噴飯ものである。
自分で書いた文章を探す手間を惜しみ、oomiさんに送らせている。なにをそんなに焦っているのか。
この日、ここに至るまでも、タイムラインには公開を楽しみにするツイートが溢れていたのだが、正直、テンパっていて全然追いかけられていなかった。今、これを書くために遡ってみると、期待してくれている方がこんなにいた事を初めて知り、今更グッと来てしまった。
みんユル公開まで、あと30分
ここでoomiさんに、半分冗談で無茶振りしてみる。サムネイル画像はぼくが素人仕事でいじっていたので、本当はoomiさんに仕上げて欲しかったのだ。しかし、残り時間は残り少ない。
みんユル公開まで、あと20分
最後の最後に至るまで、抜け落ちた参加者がいないか心配するスタッフ陣。だが、やれることはやった!ずっと夢に出るほど心配していた「私の映像、使ってくれなかったんですね」連絡が来てしまったら、もう全員で土下座しよう。とらやの羊羹と切腹最中を持って謝りに行こう。そう思って運を天に任せることにした。なにしろ、もう時間がない。
みんユル公開まで、あと15分
公開まであと10分の段階で、oomiさんがサムネイル画像を上げてくる。最後の最後まで、絶対諦めないプロ根性炸裂である。こっちから振っといてなんなのだが、焦るのはこっちになった。自業自得である。やべえ。慌ててYouTubeに戻り、サムネイル画像を差し替える作業に入る。
みんユル公開まで、あと10分
サムネイルの差し替えは終了し、いよいよ20時の公開を待つのみに。だが、今度は正しく公開設定されているかが不安になる。自分が信用できない。
みんユル公開まで、あと5分
まじ逃げたかった。滑ってたら申し訳が立たない。
みんユル公開まで、あと3分
このタイミングで、突然公式からのとんでもないアシストが!!!
信じられない。これには本当に感動した。スティーブンの声で始まる、という演出は最初に考えたのだが、様々な事情で断念していた。それを公式が補ってくれた形だった。公式がこのようなツイートをするということは本当にギリギリの判断のはずである。想像し得る最高のアシスト。さすが江戸にクラブである。粋としか言いようがない。このクラブを応援して来てよかった、と心の底から思ったし、本当に感謝しかない。一生応援します。
さあ、あとはもう公開だけだ。
2020年6月4日 水曜日 20:00
みんなでユルネバ、公開。
2020年6月5日 木曜日 0:00
その日が終わり、ぼくは酩酊した頭で、長いツイートを書いた。
7月に軽い気持ちで始めた、みんユルクロニクル。ついに公開までたどり着きました。まさかこんな大長編になるなど想像も計算もしてませんでした。6月に美しく終了したプロジェクトの、壮大すぎる蛇足。果たして何人の方が最後まで付いて来てくれたのかは疑問ですが、書きたいように書かせていただけて楽しかったです。次回でいよいよ最終話。みんユルクロニクル #18 『ある雨の日に』
それからのことと、そもそものこと。