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みんユルクロニクル#12 『思索と構築Ⅱ:演出家と編集者による対話』

※前回までのお話はこちら。みんユルクロニクル#11『思索と構築Ⅰ:みんなそこにいた』

2020年5月28日 木曜日

isomix:「あのさ、編集のプランなんだけどさ」
Editor:「ああ、どうやってきましょっか?」
isomix:「基本的にはさー、全篇、歌ってる人の映像だけでつなげてこうかなって思ってるんだよね」
Editor:「え、どういうことっすか?」
isomix:「うんとさ、これ、いわゆるサッカーファンの映像じゃん?」
Editor:「まあ、そっすよね」
isomix:「そうすっとさ、普通、スタジアムの画とか使いたくなるじゃん。雰囲気で」
Editor:「あ、普通にイメージっぽくそういう画も入れんのかと思ってました。満員のスタジアムの画とか」
isomix:「ま、それが定石ではあると思うんだけどね。でも逆に言えばさ、こすられまくった画でもあるんだわ。もうさ、サッカーファンやってるとね、そこらじゅうで死ぬほど見るわけ。一喜一憂するサポーターの画にいい感じのコピー載せて、みたいな映像。俺も散々作ったし」
Editor:「あー確かに、俺もめっちゃやったことあります、サッカーだけじゃなく、スポーツモノではよくあるやつですもんね」
isomix:「まあ、万国共通でそれが王道だからさ。別に否定するもんでもないんだけどね。でもこれってサポーターの自主制作じゃん?だから別に王道行かなくてもいいのかなって思って。別に奇をてらったことをしようってんじゃないんだけどね」
Editor:「なるほどっすね」
isomix:「あとさ、別にこれ、東京サポーターが全員出てるわけでもないしね。有志だけだからさ。スタジアムとか入れちゃうと、なんかサポーター代表してるみたいに見えちゃうじゃん」
Editor:「あーそうなりますかね、やっぱ」
isomix:「こういうの嫌いなサポーターもたくさんいるはずだしね。色んな考えの人がいて当然じゃん?首都だし」
Editor:「首都!話がデカくなりましたね」
isomix:「基本的にさ、同じサッカーチームを応援してるってだけの関係だからさ。それだけに、チームとかサッカー関係ないとこで嫌な思いさせるわけにはいかないじゃん」
Editor:「そりゃそうっすね。仕事じゃないんだし」
isomix:「そうそう。基本的には娯楽だからさ。ただでさえ負けたらしんどい思いするんだしね」
Editor:「理解しました!けど、編集の間、持ちますかね?それだけだと途中で画が足りなくなりそうっすけど。いや、足りなくなるっつーか単調になりそうだなって」
isomix:「それ、俺も最初心配してたんだけどさ、昨日全素材見てみて、大丈夫な気がした。一個一個の画が強いから。見ててそう思わない?」
Editor:「あー確かにそうっすね。それぞれのカットになんか画力(エヂカラ)ありますもんね。けどなんでだろう。基本カメラはフィックスだし、一人一人普通に歌ってるだけなんすけど」
isomix:「あのね、それ超単純なんだよ。画が派手だから」
Editor:「なるほど!確かに!赤と青だからってことっすね」
isomix:「青と赤な」
Editor:「どっちでもいいじゃないっすか」
isomix:「よくねーんだって!FC東京って青と赤じゃん?色がビビッドな上に、2色だからさ、やたらと画力あんだよね。これ、俺ずっと昔から思ってたんだけどね」
Editor:「単色のチームより派手になりますよね、確かに」
isomix:「そう。でね、選手でもサポーターでもさ、どういう画が一番強く見えるかっていうとね、寄り画なんだよ。遠くから引きで撮るより、近くから撮った画が絶対的に強いんだよ。東京の場合」
Editor:「え、なんでっすか?」
isomix:「たぶん、色面積が大きくなるからだと思う。青ドーン!赤ドーンって感じで」
Editor:「あーそっか。なるほどっすね!」
isomix:「俺、結構サッカー絡みの撮影してんじゃん?色んな色のユニのチーム撮って思ったんだけどね。東京サポーターが一人立ってる画と、どこでもいいんだけど、例えばオレンジの清水ユニの人が一人立ってる画ってね、東京の方が画力(エヂカラ)あるんだよ。その人のキャラとか関係なく」
Editor:「単純に色の話でってことですよね」
isomix:「そう。単純に色の話だけで。まあ、色々光の具合とかもあるんだけどさ」
Editor:「へー!じゃめっちゃ得してますね、FC東京」
isomix:「ところがさ、逆に引きだと引っ込んじゃうんだよ、色が。これもスタジアムでいつも思うんだけどさ、東京の観客席って引きで見ると濁ってるんだよね。2色だからどうしてもごちゃごちゃするじゃん。まあ、そのカオスな感じがよさでもあるんだけどさ。例えばレッズとかだとスタジアム一面真っ赤じゃん?だからすっきりして見えるわけ」
Editor:「あーなるほど。原色ドーンと。赤と青だと色が混じって紫に見えたりとか」
isomix:「青と赤な。そうそう。それも最初からのド紫じゃなくて、なんつーか、モヤっとした紫になるんだよね」
Editor:「俺らで言うと、画角考えてないスタイリストが服選んだ時みたいな感じっすね。引き画ばっかなのに変な柄物選んでたりとか」
isomix:「まさに!見えないのになんで柄にした?ってやつね。モアレっぽくなてうっとおしいやつ。ほら、俺らは画作る時、カメラとの距離感常に考えるじゃん?メイクでも遠ければ濃いめにするとかさ。画面の中での色の面積とかね。編集してるとわかると思うけど」
Editor:「あんまでかい声じゃ言えないっすけど、考えてねーなって時ありますもんね。寄り画で普通の主婦役がすっげー厚塗りしてたりすると」
isomix:「ありがち!距離感って、俺はすごい意識するんだけどさ、意外と気にしない人も多いんだよ」
Editor:「まあでも、寄り引きの距離感なんて普通の人、気にしないっすよ。カメラなんてないんだし」
isomix:「まあね。特にサッカーの場合は試合がメインで、別に映像のこと気にしてるわけじゃないからね。スポーツの現場って、あるものを切り取るって文化だから」
Editor:「そっか。俺らはなんもないところに画を作るって文化っすもんね」
isomix:「その違いはすげーあると思う」
Editor:「それで言うと、今回のこの素材って、全員寄り画っすもんね。確かに、わざわざマクロの画使って状況説明みたいの入れるより、パーソナルな寄りだけで勝負したくなりますね」
isomix:「まさにそう!引き画って結局状況説明なんだよなー」
Editor:「あー!でもわかっちゃいましたわ。それで言うと、僕も一個いいっすか?」
isomix:「なになに?」
Editor:「今回、マルチ画面使うのもやめません?」
isomix:「えっ?マルチ?なんで使わないの?」
Editor:「同じ理由っす。全画面で見せた方が感情が伝わって画が強くなるじゃないっすか。分割しちゃうと絶対弱くなるんで」
isomix:「あー確かにそりゃそうかもな」
Editor:「せっかく力のある素材が集まってるのに、わざわざマルチにして、それ弱める必要ないと思うんすよね」
isomix:「なるほどな。確かに今ってステイホームでめっちゃマルチ見るもんな。ある程度仕方ないとは思うんだけど、単純に見飽きたってのはあるよな」
Editor:「それもありますね。俺も何本かつないだし。あとこれって最終形はYouTube公開っすよね?」
isomix:「あー!視聴環境ね。確かに確かに。スマホで見る人がほとんどだわ、たぶん」
Editor:「ですよね。そうなると、やっぱ極力マルチ避けた方がいいと思います。全然表情とか見えなくなっちゃうんで」
isomix:「やっぱ表情優先にすべきだよな」
Editor:「あ、楽器の演奏とかはマルチ使っていいと思いますけどね。歌はやめときましょう」
isomix:「でもさー、マルチ使わずに、これだけの人数全員入れこめる?たくさん人出すための仕方なくってのもあると思うんだよね」
Editor:「つーか基本そうっすよね。演出的にってより、物理的にマルチ使わざるを得なくて使ってる感じっすよね」
isomix:「まあけど、割とマルチありきで考えてるとこあるかもな。俺もそうだったわ」
Editor:「でしょ?人数入れる方法は工夫しなきゃですけど。正直、カッティーには確実になりますが、上がりは絶対強くなります」
isomix:「なるほど。そうかも。じゃあ基本マルチ使わずに頑張ってみよっかな。でも逆にさー、スケール感出したり、数で圧倒したい時は有効なのかもって、今の話聞いてて思った」
Editor:「そうっすね。意図があるなら良いと思いますよ。ラストの盛り上がりのあたりとかってことっすよね?」
isomix:「そうそう。こんなにたくさんの人が!っていうグッと来る感じはマルチならではだと思うんだよね」
Editor:「あーそれは完全にありますね」
isomix:「あとねーこれは消極的な理由かもなんだけど」
Editor:「なんすか?」
isomix:「縦位置で撮ってきてる人、何人かいるでしょ?その人たちはトリミングしないといけないから、フル画面で使うと、さすがに荒れすぎてダメだと思うんだよ。その場合もマルチにせざるを得ないかもな、と」
Editor:「あー!そうっすね。トリミングして寄っちゃうと悪目立ちしちゃうか。募集する時、横位置でって言ったんすか?」
isomix:「もちろん言ったんだけどね。でもね、これに関してはさあ、ある程度本能みたいなもんだと思うんだよね」
Editor:「本能?なんすかそれ?」
isomix:「俺らってさ、基本的に横位置が当たり前になってんじゃん?昔、SDだったころは4:2で、HDになって16:9になったけど、どちらにしろ、ワイドの方が広いのが当たり前じゃん?」
Editor:「はい」
isomix:「だからさ、ムービーのカメラマンは絶対に横位置でアングル考えるんだけど、スチールのカメラマンは違うんだよ」
Editor:「縦位置で切るんですか?」
isomix:「そういう人が多いって聞くよね。なぜかと言うと、ポートレートを基準に考えてる人が多いかららしい」
Editor:「あーそっか。横位置だと無駄が多くなりますもんね」
isomix:「そう。全身入れようとすると人物がめっちゃ小さくなっちゃうから」
Editor:「だから、スマホでヒトを撮ろうとすると、本能的に縦になっちゃうんですね」
isomix:「縦で撮ってきてる人は、ある意味自然なんだよ。素材見てみると、縦構図の人、ほとんど一人で映ってるっしょ?」
Editor:「見事にそうですね」
isomix:「でしょ。本能だから責められないわけ。最初から縦位置の人はある程度いるだろうな、とは思ってた」
isomix:「そうそう。ま、あと世代もある」
Editor:「ああ。TikTokとかっすか」
isomix:「オッサンは映像っつったら横って先入観あるけどさー」
Editor:「あー俺ですらありますね横って先入観」
isomix:「はあ?俺ですらって、お前30とっくに超えてんじゃん」
Editor:「まーそーすけど」
isomix:「とにかくさ、編集的に言うと、ラストの方のマルチブロックとは別に、縦の人たちを集めたマルチの部分を作らないとだめかもな、と」
Editor:「あーそれならブレイク前っすね」
isomix:「えっ?どこ?」
Editor:「テンポが上がる直前、ブレイク前に盛り上がりがあるじゃないですか」
isomix:「あーはいはい。そこに一回駆け上がりを作るのか」
Editor:「そうっす。ブレイクへの駆け上がりにわちゃーっとマルチ使わせてもらえば、結構効果的だと思うんすよね」
isomix:「カタルシス2回作るのはありかもな」
Editor:「つーかマストっす。尺的になんかしら展開ないと中弛みすると思います。だから緩急2部構成になってるんすよね?この音楽アレンジ」
isomix:「もちろん。ユルネバってどちらかって言うと、割とゆっくりと淡々した曲だからさ。大きい展開はあるんだけどね」
Editor:「勢いで誤魔化せないっすもんね」
isomix:「スタジアムで歌うぶんには迫力出せるんだけどな」
Editor:「そこをどう編集で展開っつーか抑揚つけられるかがカギっすね」
isomix:「そのために楽器ソロパート作ってもらったってのはあんだよね。最初はなかったんだよ、あそこ」
Editor:「たしかに。1回間奏行くのはアクセントになりますもんね」
isomix:「前奏があって、歌出しからサビ…サビっつーのかわからないけど、You'll never walk alone〜のとこまでは割とストレートに表情でつないで、楽器パート挟んで、2サビに向けてドライブしてく感じにして、一気にブレイク。で、ラストのアップテンポんとこはお祭り騒ぎで派手に終わるってかんじかな」
Editor:「いいっすね。アタマんとこはどうする感じっすか?結構前奏しっとりしてますけど」
isomix:「実はそこが一番悩んでんだよね」
Editor:「その部分にスタジアムとか入れんのかなーって思ってたんですけどね」
isomix:「わかる!わかるよ、言わんとしてることは」
Editor:「まあ、ベタはベタっすよね」
isomix:「とりあえず、そこは保留にしようぜ。ある程度編集が見えてきたら考えよう」
Editor:「オッケーっす。あと、気になんのは、メッセージっすかね」
isomix:「あー、コピー的なやつ?」
Editor:「そっす。なんか入れます?」
isomix:「一応さ、こういうのはあるんだよ。これ、サマリーシートって読んでるんだけど、募集の時に概要書いたやつ」
Editor:「なるほどっすね。これ、メッセージとして入れる感じっすか?」
isomix:「うーん、でもちょっとなげーんだよなー」
Editor:「なんかあった方がいいと思いますけどね。この映像がなんなのか、FC東京サポーター以外が見てもわかるように」
isomix:「さすがに、なんもなしは不親切すぎるかな?」
Editor:「と思いますけどね。ある程度わかりやすくしてあげた方が」
isomix:「じゃあさ、この一行だけ入れよっかな『すべての戦う人に、リウペクトを込めて』だけ」
Editor:「はいはい。あった方がいいっすね。もっと突っ込んだ内容でも入れられる余裕ありそうっすけど」
isomix:「うーん、いや、まあこれくらいがいいかな。あんまりメッセージ強くなると押し付けがましいからさ。画で見て感じてもらった方が」
Editor:「なるほど。行間っすね」
isomix:「行間とは言わなくない?」
Editor:「あ、そっすか?行間的なやつが」
isomix:「まあ、食い足りないようなら後で考えるわ。とりあえずある程度画ができたとこでもっかい吟味しよっかな」
Editor:「そうっすね。今日はこのタイムラインにリップ並べる作業で終わっちゃいますから、明日、明後日で勝負っすね。俺、月曜日は別件入ってるんで」
isomix:「わかってるわかってる。マジありがたいって思ってるから」
Editor:「全然大丈夫っす!なんで、2日間で基本のカット順は作って、家で作業できるようにレイヤー整理したプロジェクトファイルを渡せるようにします。微調は申し訳ないっすけど…」
isomix:「わかってる!そっから先は自分でやるから」
Editor:「今やってるこの作業、素材数的に100レイヤーは軽くちゃうんで、ひとまずその段階は終わらせないとっすね。まあまあ見たことない感じのタイムラインになりつつあるんで」
isomix:「いや、ちょっとさっきから見てて引きはじめてるわ。すげーことなってんなーって。あとは音の構成を今日中に音楽担当してくれてるちーかまさんって人に投げたいんだよね」
Editor:「ちーかまさんっていうんすか?」
isomix:「そう。女性のアレンジャーさん。Twitter上でしか知らない人なんだけど」
Editor:「すごいっすね、それ。けど音楽アレンジめっちゃいいじゃないっすか。よくそんな人いましたよね」
isomix:「ホントだよな。奇跡みたいなもんだと思うわ」
Editor:「なんでちーかまなんっすか?」
isomix:「えっ?」
Editor:「いやなんでちーかまなのかなって」
isomix:「いや知らないけど」
Editor:「あ、そういうもんなんすか?」
isomix:「そういうもんじゃない?」
Editor:「けど、こっちで曲の構成組み替えて作るとして、明日つなげ出すまでに、アレンジとかできるもんなんですか?」
isomix:「うん。わかんないけどたぶん。ちーかまさん鬼のように仕事早いから」
Editor:「恐るべしっすね、ちーかまさん」
isomix:「恐るべしなんだよ、マジで」
Editor:「とりあえず音楽が来てくれりゃ、明日の作業時間的には問題ないいっすね。まずはこのリップ合わせ作業、ガンガンこれ進めるっすわ」
isomix:「頼むわ、ほんと。つーか昼飯食った?」
Editor:「まだっす」
isomix:「じゃなんか頼もうぜ。Uberでいいっしょ?なに食いたい?」
Editor:「なんでもいいっすけど、作業しながらなんで、ハンバーガーとかっすかね」
isomix:「オッケー。じゃ、このUMAMIバーガーでいい?」
Editor:「全然大丈夫っす!」



【#12 おわり】


みんユルクロニクル#13 『思索と構築Ⅲ:冒険者たち』につづく

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