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みんユルクロニクル#4 『世界の中心でぼくらを支えたけもの』

※前回までのお話はこちら。みんユルクロニクル#3 『夜と音楽』

2020年5月15日 金曜日 10:00

四人目の適格者/Forth Beast

  朝まで作業していたので、本当は昼まで眠るつもりだった。

 しかし、どうしても気になることがあり、つい目が覚めてしまう。枕元のスマホで、前夜(正確には今朝なのだけど)みたけさんとちーかまさんに送った内容を確認する。真夜中テンションで(正確には早朝テンションなのだけど)送った内容は、必ず翌日チェックしないと危険だ。延々とポエム垂れてたりするから。

isomix:
おはようございます。
すみません、朝になってしまいました。。
超長文です。
音楽に関して、こちらから振っておいて返事できずスミマセン。。そのアレンジ、良いと思います!で、こちらはみなさんに配布するプロジェクトの告知シートの草稿を書きました。
一枚で趣旨、必要素材、撮影方法など全て網羅してあるつもりです。
まずは、齟齬がないかご確認ください。文言的に過不足あれば言っていただけると。参加方法の項目と、素材引き渡しのあたり、チェックしていただければ、と思います。
さらに、撮影のコツなんかは加筆しようかと思っています。
現状、スケジュールに触れていないですが、シート入れ込んじゃうと変更がめんどくさいので別途連絡にする方が対処しやすいかな、と。
最終的に綺麗にデザインしたPDFにして、ツイートに貼る形にできれば、と思っています。
というところで、すみません、ちょっと寝ます。。
以下、シート用文言
↓↓↓↓

 この続きに、のちにサマリーシートやガイドシートとして公式からリリースされる事になる諸々の草稿が延々とこの10倍ぐらい続くのだが、ここでは割愛することにする。まあ結局がっつりポエムなのだったが、ここは致し方なし、との判断。まあ、内容はおいおい出てきます。
 
 今朝、朦朧としながら送りつけたこの長文DMに、みたけさんから返信が来ていた。

みたけ:
おはようございます。お二人ともありがとうございます!
一晩でここまで…スゴすぎます。
参加者ですが、今現在で75名程度となっております。
参加方法のツイートが発表されましたら、こちらから参加者へ確認のお願いのDMを送るようにしますね。
そのDMに動画の送り先もお伝え出来ると良いですかね。一つだけ質問なんですが、参加の形ですが、動画ではなく静止画での参加は可能でしょうか?
何人かから質問がありました。
2020年5月15日 午前7:21

 みたけさんは、朝型だ。反対に、ちーかまさんから午前中に連絡が来たことはたぶん一度もない。
 ぼくの平均起床時間は10時ぐらいだと思う。昨夜ほぼ徹夜した割にやはり10時に目覚めてしまったのは、拭いきれない不安があったからに他ならない。

 昨夜、プロジェクトの今後についてかなり時間をかけて考えた結果、映像の実制作に入る前、いや、そもそも募集を行う前にクリアしなければならない問題が多すぎることに思い当たったのだ。ちーかまさんの狂気の仕事っぷりにより、楽曲の目鼻は早くもついた。最重要マターがあっさり進んでしまったことで、他の遅れっぷりが露わになってしまった形だ。(冷静に考えれば、むしろそっちが速すぎるのだが)

 まず一番大きくは、基本コンセプトが固まっていない。加えて応募要項も詰めなければいけないし、参加者に求める具体的な撮影の内容も未定だ。それに、当然、全体スケジュールも未知数だった。

 特に問題だったのは、映像を送ってもらい、取りまとめていくフローやシステム的な部分に関してだ。現状の3人の中には誰も専門の人間がいない。まあこの部分での専門家、というのも中々難しいとは思っていたので素人対応するしかないのだが、それができたとしても、全部をこのメンバーで回そうと思えば膨大な時間のロスが発生してしまう。参加希望者の熱が冷める前に動くことが至上命題だと思っていたぼくには、これは大きな痛手に感じられた。要は、中の人が足りないのだ。

 思いばかりが先行していたが、昨日のスピード感でプロジェクトを進めるにはどう考えてもこの人数では厳しい。ちーかまさんには楽曲に専念して欲しかったので、すべてをぼくとみたけさんで考えなくてはならない。それでもぼくが動けるうちはいいのだが、いざ映像の制作が始まればいよいよ手が回らなくなってしまう。
 そうなる前に、お手伝いしてくれる方を募集しませんか?この朝、ぼくはそうみたけさんに提案しようと思っていた。泣きつこうとしていた、と言ってもいい。

 だが、問題はすでに解決されていた。

 ヤバい臭いを誰よりも早く嗅ぎ取り、下のもんが気づく前に先回りして行動を起こし、速やかに対処を終える。優秀なリーダーとはそういうものだ。みたけさんからのDMにはこんな続きがあった。

みたけ:
そういえば、楽曲発表用のYouTubeチャンネルを漆黒の獣さんがすでに開設してくれています。打ち合わせに参加していただけたらと思うのですが、こちらのDMに招待してもよろしいですか?
2020年5月15日 午前8:21

 いいに決まってんじゃん!
 猫の手も借りたいタイミングで、第四の男は突然現れた。いや、猫の手などと言っては失礼千万。漆黒の獣の手だ。

 太古の森と漆黒の獣さんとは、相互フォローの関係だった。性格上、親しくやりとりをしていた訳ではなかったが、コミュニケーションをとったことは(いいねをくれたとかそのレベルではあるが)は何度かあったし、Twitterアイコンも常々目にしていた。なによりそのやけに重厚な名前が印象深かった。

 獣さんのイメージは、FC東京とアーセナルのエンブレムが並ぶヘッダーを見ればわかるように、Jリーグのみならず、広くサッカーの人、という感じだった。試合の戦術や理論を冷静に分析したプレビューやレビューをnoteに執筆し、ツイキャスも行うなど、理知的かつ行動的な方でもある。基本的にクレバーで、勝ち試合でも負け試合でも、獣さんが感情的になったところを見たことがない。他チームのサポーターや海外クラスタにもその名の知れた、社交的な方でもある。そんな獣さんによる戦術ノートはこちらです。

 余談ではあるが、ナルガクルガ狩りはぼくも得意としていたし、海外サッカーは正直全然なのだが、ガナーズだけは前回FAカップに優勝した際、たまたまロンドンで撮影していて優勝パレードに巻き込まれたことがあり、なんとなく愛着が湧いた、いう点で身近に感じていた(遠い)。

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大国魂神社の豆撒きぐらいの距離にベンゲルいた(遠い)。
もっと言うとぼくはモンハンにおいては専任のライトガンナーであり、そういう意味でもガナーズと近い(遠い)。

 ネット上にもリアルでも知り合いや友達の少ないぼくとは違い、みたけさんと獣さんにはTwitter内外に多くの人脈があるようにお見受けしていた。例えて言うなら、教室のメインストリームに位置する、キラキラしたグループの方たちのようだった。まるで部活やめなかった霧島みたいな。
 こちらは教室の隅で誰にも打ち解けられず、内心メイングループに話しかけられることを夢見ながらスカして音楽とか聴いているタイプだ。イヤホンしてて話しかけづらいことに気づかずに。とにかく、獣さんとみたけさんとは親しそうで、気心の知れた関係のように思えた。バスケ部とテニス部のキャプテン同士のように。

獣の戰い/INTROJECTION

 ここで急になんなのだが、このプロジェクト全体を通して、ぼくは獣さんには正直、申し訳ない気持ちがある。

 ぼくやちーかまさんは、本業とプロジェクト上の役割が一致しているので、行動がとてもシンプルだ。プロジェクト中、色んな人に「大変だと思いますが」とお気遣い頂いたのだが、実はそれほど大変な自覚がないのだ。これはちーかまさんもラジオで語っていたが、元々そんな働き方をしているので、わりと通常運転に近い。
 威張って言うことではまったくないのだが、基本的に普段から趣味と仕事の境目が曖昧になっていて、調子に乗ってさえ来れば、寝ない、食べない、休まない、などのブラックな働き方も率先してできてしまう。そんなことより、作品の先が見たくなる体質だからだ。だから普段通り時間を忘れて突っ走る。

 しかし、結果的に獣さんにお願いすることになった役割は、主にシステム面やデータ管理など、非常に重要だがどちらかというと縁の下の力持ち的な部分だった。まったく別の本業(謎に包まれている)がありながら、制作チームからは質問やらお願いやら、ご意見くださいなどが24時間飛んでくる。むちゃくちゃなスケジューリングに付き合うことは、さぞや閉口したことと想像に難くない。

 しかも、最初の頃はいざ知らず、プロジェクトが進行するに従って獣さんの責任と作業量は肥大化していった。応募者が増えれば、当然データの量は膨大になり、必然的にその窓口となっている獣さんとそのPCの労力ばかりが増え続ける。それでもニコニコ笑って(いたかどうか実際のところはわからないのだが)バックアップに徹し、ぼくらを支えつづけてくれた獣さんの存在は、とてつもなく大きく、ありがたかった。

 サッカーに例えると、さしづめセンターバックだろうか。後方にどっしりと構え、危険を察知してピンチを未然に防ぎ、時々後方からの視野で的確な指示をくれる。ストッパーというより、展開力のあるタイプだ。

 実際に、状況判断を見誤りそうになりながら、獣さんの冷静な状況判断と指摘により事なきを得た場面が何度もあった。この瞬間も、獣さんが入ってくれたということで、どれだけ気が楽になったことか。

isomix:
漆黒の獣さん、もちろんウェルカムです!
みたけさんがリーダーですので、そのへんはどんどん判断していただいて大丈夫ですよ!
ぼくは従いますので!
isomix:
静止画の件ですが、断る必要はないと思います。
ただ、あまり静止画ばかりになっちゃうと寂しくはなってしまうので、そういう方があまり多そうなら映像の構成を練り直します。
ただし、この後まとめますが、歌うのが厳しい、という方は一定数いると思います。
もしもそういう理由で静止画とおっしゃっているのであれば、3秒とかでいいので、歌わずにカメラに向かってアピールする動画を撮っていただけると、色々と使いやすいかな、と。
それでも静止画で!という方がいたら、それはそれでなんとか入れ込むようにします。
もしかすると動画の方よりも扱いが小さくなってしまうかもですが。。
基本的にみなさんの参加したい、という気持ちは汲みたいので、無碍にはしたくないですよね!
2020年5月15日 午前10:13

 とにかく懸念点が一つ減り、明らかにテンション上がっていることがわかる。事実、寝不足ではあったものの、頭の中はフル回転していた。

 完全に目が覚めたぼくは、飛び起きると(ここまではベッドの中だった)そのまま仕事部屋に行き、Premiereを立ち上げ、いきなり映像の編集を始めた。寝起きで編集。
 ここまで考えることばかりが先行し、全然具体的な作業をしていなかったので、突然手を動かしたい衝動に駆られたのだ。これは試験勉強中にプラモとか作り始めたくなる感覚に近い。

 作り始めたのは、後にガイドムービーとして完成するバージョンの、その大元になる編集だった。昨夜、ちーかまさんが送ってくれたセカンドデモで尺とタイミングがとれるので、あとは字幕を入れれば一旦はムービーの形にできる。ほぼ組み立てるだけの作業なので、頭をクールダウンできる。とは言え、文字だけでは寂しいので、背景になにか写真を入れよう。やっぱり味スタかな?手持ちの写真から、とりあえずどれか入れよう。とかは考えてしまうのだが。とにかく目に見えて完成に近づいていくものを作る行為は、とても良い気分転換になっていた。

 DMグループには、獣さんが初登場していた。ぼくはそこには直接参加せず、横目で見ながら作業を進めた。こういう時は勢いを止めてはだめだ。すべては勢い。

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 ここでyoutubeに、獣さんの手による  #みんなでユルネバ 公式チャンネルが開設された。最終的に完パケまですべての映像制作物が格納されることになるチャンネルだ。ちーかまさんも起きてきて、やりとりに加わっている。

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 ぼくもここに参加したかったのだが、とにかく我慢して作業に集中した。まずは編集が終わらないことには、先に進むことができない…わけでもないのだが、昨日からほぼ連続して働き続けている、頭と心の平穏を保つためだ。経験上、最上の息抜きは休憩ではなく、別作業だ。
 それに、昨夜ちーかまさんが示したとおり、「モノが出来ている」ことの説得力は圧倒的である。ぼくもちーかまさんも現場の人間なので、クライアントワークではないこんなケースでは、企画書を延々と詰めるよりも一発作ってしまう方が話が早いのだ。見りゃ一発でわかるから。

2020年5月15日 午後1:20

isomix:
ガイドムービーをテスト制作しました。
歌いやすいかどうか、とかご意見ください。
カラオケ的にすると視線がそっちに行ってしまうので、あえて紙芝居的にしてあります。
あと知っとるわ!と思われるかもしれませんが、子供さん用にカタカナで歌詞入れてます笑
いかがでしょう?
KIMIKAさんから仮歌が届いたら、音のデータを差し替えます。
ちなみにリリースが余り五月雨にならないほうが良いと思いますので、昨日草稿書きました告知シートと同タイミングが良いと思います。
なので、アップロードは少しお待ちいただけますか?

 完全には程遠いものの、とりあえずつながった。この編集は、まだ仮歌も載っていない状態のデモをベースにしたテストバージョンで、後にYouTubeにアップされて参加者のガイドとなるムービーのプロトタイプだ。プロトタイプのテスト、ぐらいかも知れない。なのでこれ、作業工程の一部を公開する意味で一応リンク貼りましたが、見ても全然面白くないと思います。

 10時30分に起床して作業を始め、約3時間後にアップロードしているのだから、なかなかのスピードだ。このころのぼくらは、完全にスピードに取り憑かれていたように思う。

isomix:
ああああ!!!ごめんなさい、古いファイルアップロードしちゃった!!!
すぐ上げ直します。。
2020年5月15日 午後1:24

 しかし、それと引き合えに、ミス連発である。

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 獣さんの娘さんがテストで歌ってくれ、とりあえずの機能確認ができた。これにより、獣さんの長女ちゃんが、みんユルシンガー第1号、ということになる。

我らの作りしもの/A HUMAN WORK

 この日は、様々な要素が同時進行しており、決めなければならないこと、考えなければならないことが錯綜していた。とりあえず、今後ローンチ時までに必要なことを整理すると、概ね以下の通りだった。

①趣旨説明文と概要シート作成
②ガイドムービー完成
③応募内容、方法の確立
④プロジェクト全体のスケジューリング
⑤ひたすら煽る、盛り上げる

 このうち、②のガイドムービーに関しては、さっきまでの作業でとりあえず叩き台は出来た。ここから先はちーかまさんのアレンジやKIMIKAさんの歌入れが終わらないと進みようがないので、とりあえず忘れてよし。③は獣さんによってプランニングされつつあったので、そちらにお任せ。④はまだ要素が出そろわず、なるはや、としか決めようがない。⑤に関しては、この時点では昨日の勢いそのままに、まだまだタイムラインは盛り上がりを見せていたので、現状はみたけさんや公式からの個人ツイートレベルで十分だと思った。

 個人的に一番重要だと思っていたのは、①の、趣旨説明文と概要シートを作成することだ。それには、ぼくが昨日バッテリーの切れた自転車を漕ぎながら考えていたふたつ目の懸念、この映像のコンセプトをどこに置くべきなのか?に対しての回答が必要だった。

 実は、昨夜徹夜して考え続けたことの大部分は、ここに関してだった。明確な答えを用意せずに参加を呼びかけることなど出来ないし、たとえそれが出来たとしても、映像作品としては芯のないものになるだろう。だから、まずはプロジェクトのスタート時には、それをきちんと言葉にして宣言すべきだと思っていた。

 いま、このコロナ禍に覆われた世界のなかで、日本の、Jリーグの、FC東京サポーターがクラブアンセムを歌うことの意義はなんなのだろう?必然はなんなのだろう?ユルネバでしか出来ないことってなんだろう?昨日から、そればかりを考えていた。

 全員とは言い切れないかもしれないが、ユルネバでFC東京サポーターの気持ちをアップリフトできるのは間違いない。たぶん、選手やクラブ関係者もそうだと思う。そう信じてる。では、それ以外の人に、この歌はどこまで届くのだろうか?FC東京を知らない世の大部分の人々に、なにを伝えられるのだろう?英語を母国語としない人たちを、どこまで励ませるのだろう?そもそも、なぜこの歌は世界中で歌われているのだろう?

 どこまで考えたところで、結局のところ答えなどない。だんだんと考えが禅問答のようになっていくのを感じたぼくは、昨夜、答えをひとつだけ決めた。答えを出したのではない。決めた。

 ユルネバは、戦う人への歌。

 詭弁だと思われるかもしれないが、戦う人が誰なのか、なにと戦っているのかを定義するのはやめた。その人をどうしたいのかもまた定義するのもやめた。誰かを励ますか、誰を応援するか、誰に感謝するか、誰を奮い立たせたいのか、それは参加者個人に委ねよう。参加するサポーターひとりひとり、置かれた状況によってそれは違うはず。だから、誰のために、なんのために歌うかは自由。そう決めた。そうすれば、こちらからの押し付けではない、心からの、嘘のないユルネバが生まれるはずだから。

 その代わりと言ってはなんなのだが、ぼくもひとつ、自分の立ち位置をはっきりと決めた。

 制作する側のぼくは、これを東京サポーターのことだけを考えて作る。そう決めた。それも徹底的に。参加者の方々が、自らの意思や気持ちを歌に込め、誰かに伝えられるように。本気で気持ちを入れて歌えるように。そして歌うことを、このプロジェクトを心から楽しめるように。
 サポーターの方々だって、自粛して、我慢して、家にこもって、それぞれ戦っているのは間違いないはずだ。ならばこちらは、徹底的なサポーターズファーストを貫こう、そのために動こう、と決めた。それは参加する人もだけでなく、しない人も含めて、出来る限り。そうしたいと思うのには個人的な理由があったのだが、それはまたあとの話。まあ、たいした理由じゃない。

 とにかく、東京サポーターがユルネバに向き合うための状況を、ありとあらゆる手を尽くして用意する。そうやって集まった素材を、どこに出しても恥ずかしくない映像作品に仕上げる。

 結果として、そこに映っている誰ひとり嘘をついていない、心からのユルネバが出来たのなら、それは誰が見ても真に心を打つものになり得るのではないか?もしかしたらFC東京という軛すら外れて。

 ぼくは、朝までかけて、こんな趣旨説明文を書いていた。

世界は未だ、新型コロナウイルス禍の中にあり、
先行きは不透明な状況にあります。
ぼくらの日常であり、生き甲斐であるJリーグも止まったまま、
未だ再開の見通しは立っていません。
先日、ぼくらの愛するFC東京は、
ついに年間チケットの払い戻しを決めました。
それがどれほどのことか、想像に余りあることです。

しんどい状況ですが、幸せなことに、ぼくらには、あの歌があります。
苦しいときも、楽しいときも、みんなで歌った、あの歌が。
歌って世界が変わる、なんて思わないけど、それでも。
選手やスタッフ、チームやサポーター仲間のためだけじゃない。
前線に立ち続ける医療関係者のみなさんや、
営業自粛せざるを得ない方々、
すべての戦う人たちにリスペクトを込めて。

ひさしぶりに、みんなでユルネバ、歌ってみませんか?

 言いたいことは、すべてこの文章に込めたつもりだった。これらはすべて、ぼくの一方的な思いではあった。しかし、この日、みたけさんもちーかまさんも獣さんもこの考えに賛同してくれた。それが、この日一番嬉しかったことだ。

 ぼくはIllustratorを立ち上げると、この趣旨説明文を周知するための概要シートを作り始めた。慣れないイラレ作業に悪戦苦闘しながら。

ちーかま:
>みなさま
さきほどKIMIKAさんよりご連絡があり、本日が録音と撮影で立て込んでいて今日中にできるかわからないとのこと、最悪明日になってしまってもよいですか?とのことでした。ガイド動画公開、明日でもよろしいでしょうか?
2020年5月15日 午後2:14

 なるほど。この週末を参加者にうまく使ってもらえるように、できるだけ早い募集受付開始を目指していたが、これでスタートは明日以降になることが決まった。若干スピードが落ちることにはなるが、まあ、明日は土曜日で好都合かもしれない。逆に少し時間の余裕ができ、全体的なスケジュールを見直す余裕が生まれた。

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 個人的に、このあたりのやりとりは、とても心地よいものだった。みんなが同じ目標が見ていて、そこに向けて進む疾走感。これぞまさしく、グッドなヴァイブスと呼ぶのではないのか?知らんけど。

isomix:
とりあえず今告知シート作っております。
後ほど展開しますのでご意見ください。
期日がいちばん悩ましいところですね。。
募集期間はある程度日にち無いと集まらないと思いつつ、あまり完成が先になるといけませんし。
個人的には五月雨で映像が集まって来てくれれば、ちょっとづつ編集していって、締め切り後4、5日で完パケるイメージかな、と思います。
音の方と同時進行になるとは思いますが。
2020年5月15日 午後2:54
isomix:
たぶん、方法論については、今夜シートアップした時点で色々知恵が出てくると思っています。各方面にプロの方もいらっしゃるので。
できるだけたくさんの人巻き込んで進んでる感が大事で、
転がり出しちゃえば勝手に進んでいくと思うので、まずはそこまでファストブレイクしたいな、と、寝ずに頑張っております笑
まあ暇なので。
2020年5月15日 午後3:07

 そうは言いつつ、イラレ作業は難航していた。ぼくは美大のグラフィックデザイン科を卒業しているにも関わらず、デザインの才能や能力がまったくなかった。そもそも、デザイナーになりたくないから映像を志した、と言っても過言ではない。ぼくには、繊細さや几帳面さが絶望的に欠けているのだ。とにかく、今夜までにはこの概要シートを公開し、コンセプトを宣言しなければプロジェクトがスタートできないと思っていた。ここはとにかく自分でなんとかしないと、と思いつつ、このまま素人仕事でデザインワークしていくのには無理があるのではないか。と薄々考え始めていた。

 そうこうしている間にも、DMグループ上では様々なことが決まっていく。

ちーかま:
音と映像を別に頂けるのはありがたいです!
動画から音だけ抽出する事もできますが、作業量が倍になってしまう、、どうしよう、、と思っていたので
素材送って頂くサポさんにはお手数おかけしますが、音データと動画データ、別に録って頂くのがよいと思います。
獣:
動画の受け取りですが、dropboxはどうでしょうか?
URLをクリックして簡単にアップロード出来ます
ちーかま:
それともしボイスレコーダーや録音機などお持ちであればそういう機材を使って頂くのを推奨して頂いて、音データはmp3のデータで送ってもらうようアナウンスして頂ければ、、!
獣:
とりあえず動画の収集はgoogledriveとDropboxを使う形ですかね?
みたけ:
告知用に専用アカウントを作りました。
鍵アカにしてあるので、こちらを使えば参加者向けにツイートできると思いまして。
試験的にフォローをお願いできると助かります。
皆さまからフォローがきましたら、参加者の方々へも告知をしようかと思います。

 ここで、ついにみたけさんの手で、このあと、参加者のみなさんとのハブになる、おなじみのプロジェクトの公式Twitterアカウントが開設された。

 それから10分後、(これ以上粘っても無理という諦めとともに)概要シートが完成する。概要シートってなんか堅いよな、と思っていたので、「概要」をGoogleで英訳してみた。すると「Sumally」だということがわかった。サッカー絡みの仕事をするとき、試合全編素材のことをフルマッチ、ハイライト素材のことをサマリーと呼び分けるのを思い出し、このシートをサマリーシートと名付けた。スタッフには、さもそういう言葉があるかのように振舞っていたが、実はこの時考えました。

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 いやいや今みてもあんまりである。一生懸命書いてる感丸出しの文章は百歩譲って置いとくとしても、誤字脱字は酷いし、字詰めもなにもできていない。諦めと妥協、技術不足をこねくり回して青と赤に塗りたくったような出来だ。

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 この時点で、やはりデザイナーさんの必要性を痛感していた。この先も素人デザインで行くのは問題がありすぎる。恥ずかしいとかみっともないとか、作業が大変とか以前に、参加したいと思えるかどうか、見た方の気持ちに影響が出てしまう、と思った。
 妙な話かもしれないが、きちんとしたプロが関わっているという事実は、安心感につながり、参加へのハードルを下げると思っていた。大人がマジになってふざけようとしている感、とでも言うのだろうか。歌っている映像を顔出しで送らせる、というとてつもない労力に対して、受け入れる側にもそれ相応の迎え方があると思うのだ。そのためのインターフェイスとして、デザインやアートワークは、プロジェクト全体を揺るがしかねないほど重要な要素だ。

 それはともかく、この素人仕事のサマリーシートは、プロジェクト最初の成果物として、午後5時(正確にはみたけさんがフライングしたので4時58分)世に出ることになる。

 いまだに、みたけさんの個人アカウントの最初にはこのツイートが固定されてるのはなぜなんだろう?公式にも、旧ロゴとともにアップロードされている。

 そして、ぼくも個人アカウントでこれをツイートする。デザイナー募集のメッセージとともに。

 思えば、このツイートに、わざわざ(女気)と付け加えたのは、なにかのの暗示だったのかもしれない。

 それぞれのアカウントから発信されたツイートには、いいねとリツイートが乱れ飛ぶ。コメントからも熱が伝わってくる。タイムラインに発生したうねりのようなものを感じながら、ぼくは軽く震えていた。半分は感動に、半分は武者震いみたいなやつに。ようやく一歩全身できたものの、まだ概要を発表しただけで、まだなにも決定していないのだから。決定どころか、これから考えなければならないのだ。ガイドムービーだってまだ途中も途中。
 
 まだまだやること山積みだー!とスローモーションでソファにダイブしかけた矢先、最後のシ者は突然ぼくらの目の前に現れた。

 みんユル公開までは、あと20日。
 それは、シ者というよりシ炎シ毎だった。

 

【#4 おわり】


 本格稼働をはじめようとしていたプロジェクト。ついに次回、5人目のスタッフが現れ、ついに制作チームが完成します!第5話にしてやっと!遅!次回、みんユルクロニクル#5『The OOMI Stiuation(オオミの一件)』へと続きます。

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