【創作小説】僕とおばあの49日間納骨チャレンジ 4【短編】
「つまりこれが遺言なわけか…」叔父が困ったように呟いた。「おふくろは昔からちょっと変わってはいたけど…」苦笑いする。
「兄貴…これ兄貴が無理やり撮らせたわけじゃないよな」敏行は硬い表情で言ってくる。「そんなわけないだろ」
遺産をせしめるためにこんな動画を撮らせたとでもいうのだろうか。失礼な奴だ。
「だってさあ、こればあちゃん一人で撮ったわけじゃなくね?だってほら、ここのところ途中でズームしたりしてんじゃん。iPadの自撮りでこんな細かいことできなくね?」
「えっ?」
内容が衝撃的すぎてそんな細かいところには気付いてなかった。言われてみればそうかもしれない。
「それに、この動画他にも気になることがある。」
叔父も口を開いた。
「字幕のフォント、MSゴシックだから…iPadには入ってないだろ。この動画はこのiPadではない端末で撮影されて、その後WindowsのPCで編集されてるってことになる。」
「いや、待ってくださいよ、僕のPCはMacですからフォントがどうこういうなら絶対に僕じゃありませんって!だいたい、もし僕が撮るんだったらこんなふざけた内容にするわけないじゃないですか!」
しばしの沈黙。
「…まあ、そうだよな。」
叔父が息を吐きながらつぶやく。
「でも、ばあちゃん一人じゃないのは確実だよ。撮ったのは誰なんだろう。」
敏行が動画をもう一度再生しながら言う。
「僕としては、この金をどうしたらいいのか…。」
「まあおふくろがこう言っているから、生前贈与ってことでタカくんが貰っときゃいいとは思うけど。」
「でもこの動画、二人の話からすると誰かに撮られたものなんですよね。どこまでおばあちゃんの意思で作られたものなのかわからないってことじゃないですか。」
「実際に金も用意してあった訳だし、おふくろのやったことだとは思うよ?タカくんが毎日見舞いに行ってくれたことへのお礼なんじゃないかな。」
「ただのお礼なら学費に充てますよ…!でも、そうじゃないなら僕は遺骨を持ってエジプトに行かないといけないじゃないですか!」
叔父は目を丸くする。
「タカくんは本気でやるつもりだったのか」
その反応に、一気に顔が熱くなる。大人はこれを冗談だと受け流すものなのか。僕はやはり祖母にからかわれてるのか。
「え?やらない訳ないですよね」
敏行が逆に驚いた風に叔父を見た。
「カタチはどうあれ、ばあちゃんの遺言なんですから、金だけパチってヘラヘラできないっしょ」
真っ直ぐな瞳が僕と叔父を貫いた。
「いや、遺骨を持ってエジプトに行くって…無理だろう?」
「無理なのかどうかよくわかんないっすけど、最近は宇宙に散骨するとかテレビで見たことありますし、やりようはあるんじゃないっすか?」
敏行の言葉に僕も揺り動かされる。
「僕は…この動画を撮ったばあちゃんの『協力者』を見つけないといけない気がします。これが本当の本当にばあちゃんの本心なのか、僕にはわからない」
敏行と僕を交互に見つめ、叔父は頭をかきながら言う。
「動画は少なくとも病室で撮ってるんだから、見舞客の中の誰かだろ。なら、葬式にも来るかもしれないし、会えばわかるかもしれない。」
そんなものだろうか。
「トシくんと、タカくんの二人で受付をしたらいいんじゃないか。この動画を撮ったんなら、孫が居るってことは『協力者』にもわかっているはずだろ。それなら向こうからコンタクトをとってくるかもしれない。」
「確かに少なからず反応しそうっすよね。『あっ、あのタカユキか〜!』って」
なるほどと、僕はうなずいた。
「君らの父さんは多分この後、通夜、葬式に、相続の手続きで慌ただしいだろうから一旦この金のことは俺たちだけの秘密にしておこう。タカくんが持っておいたらいい。ある程度目処が立ったら伝えよう。通夜と葬式で、君たちが受付をできるように俺から話をするってことでどうだい。」
僕たちが頷いたのを見ると、「じゃあ一旦話はここまで」と、中断していた掃除機をかけるために和室に向かっていった。
僕も布団をとりに二階へ向かった。
敏行はiPadを手にまた動画を再生していた。
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