プラネタリウムと言えばカレーライス という話
名古屋市立科学館のプラネリウムは、私の子供の頃から現在においても、ドーム型としては世界最大です。ドームの直径は35メートルあります。
私は小学3年生くらいから、同級生の悪ガキ4、5人のグループで、毎月毎月プラネタリウムに通っていました。ここはプラネタリウムを併設している名古屋市立の科学館なので、いわゆる科学や物理、電気などのさまざまな説明や実験の展示があって、小学6年生になるまで100回は通ったんじゃないかと思います。
その影響から天体観測はもちろん、電気工作やアマチュア無線を小学5年生ではじめたり(当時ぎりぎり日本最年少記録に3ヶ月負けた)といったように、いわゆる理系少年でした。そして高専に行くわけですが。
この科学館グループにはときどき「俺も行きたい」というヤツが噂を聞きつけて現れるので、オープンマインドな僕らはもちろん一緒に行きました。
ただし、それは条件付きだったのです。
プラネタリウムではお昼ご飯には毎回食堂で必ず200円くらいのカレーライスを食べるのですね。この時に「新入り」に対してはコップの水にテーブルにおいてある食塩を思いっきり入れた塩水を作って、それを飲むことが仲間の印みたいなルールだったのです。
誰が決めたのかは覚えてないですけどなんとなく。これ、我々的には全然排他的でもいじめでもなんでも無く、いわば契(ちぎり)の盃なわけですよ。別に飲み切らなかったらダメだとか、無理やり飲ませるとかではなく、黙ってこれを飲めってやるんです。
結局新参者は4、5人いたと思いますがみんなこの儀式を通過して、ずっと毎月毎月楽しんでいました。
いまだったらこれも、新参者が親にチクって、学校に言われて、いじめだとか言われちゃうんでしょうね。まあ全くそういう要素がないとは言いませんけど、少なくとも排他的であったり陥れるためのものではない。あくまで「なかまのしるし」としての酒ではなく塩水の盃なのです。まあ酌み交わしてないですけど。
もしかすると、というかきっとそうなんだと思いますけど、今のいじめとか言われてるものの多くはこんなもので、それに対しての対処法を甲乙ともにちゃんとできなくて、それに親とか教師が一律同じ対応で介在してくるからいけないんじゃないか、と思う部分もあります。そんなたった50年くらいで人の気持ちなんて変わらんのじゃないですかね。
炎上は望まないのでここまでとします。
そんなアホなことをしていた定例のプラネタリウム行きも、小学6年の2学期に私が転校したために、いつからか途絶えてしまいました。それ以降、50年以上訪れることはありませんでした。
科学館のオープンは1962年で、私が生まれた年。そして2011年に同じ場所に全く新しく建て替えられたことは知っていました。しかしながら、再オープン当初のプラネタリウムのチケットは結構プラチナチケットで、オンラインでも購入できなかったはずで、東京に住んでいる私が入手するのは至難の業でした。
そんなプラネタリウムに、満を持してこの5月に思い立って行ってみることにしました。
当時の投影機は、ドイツのカール・ツァイス・イェーナ製でした。ちなみに渋谷にあった東急文化会館の五島プラネテリウムの方が少し早い1957年の開館でしたが、ドーム系が30メートルで小さかったのです。
光学式というのは、平たく言うと内部に高輝度の電球があって、その周りに星座の配置に合わせた小さな穴が空いたプレートがあって、さらにその先にあるレンズでドーム上のスクリーンに穴から漏れ出す光が拡大投影されていたのです。
なのでスクリーンに綺麗にピントを合わせて表示させるためには、電球が放つ光源の輝度とその直進性、それと超高精度のレンズ技術が必要になるわけです。だからツァイスなんです。日本だといまでも五島光学研究所という歴史ある会社があります。
私が通っていた時代に、ドイツのツァイス本社から技士がやってきて、半年くらいかけてフルメンテナンスが行われました。メンテ終了後の驚くほどクリアに投影された星空を見た時の感動と言ったら、今でも決して忘れることができません。都会っ子だったので本物の星ではなく星空というものはあくまでもバーチャルなのです。
2011年の再オープン時には、同じツァイスの光学式最新機種になりました。
ここはあくまでも公営の科学館なので、ちゃんとした天体や天文に関する解説をしてくれました。中でも最も有名で一番好きだったのが山田卓(たかし)さんです。私は山田さんが大好きだったので、できる限り山田さんの解説回を選んでいました。
説明はとにかくわかりやすく、ナレーターのような優しい声で情緒的な語りをしてくれたのです。地元のラジオ局ではレギュラーコーナーも持っておられました。調べると2004年に69歳で亡くなられていました。残念でなりません。
山田さんは単なる解説だけにとどまらず、ときどき「星と音楽の夕べ」という、投影と音楽と星座にまつわるギリシア神話を本当にロマンチックに語る企画をされていました。これにはガキのグループではなくて単独行動に通っていました。夕方5時か6時からの限定投影だったので、周りにはカップルばかりで少年は無駄にドキドキしていました。
この企画がその後の池袋の満天あたりからスタートした、エンタメ的なプラネタリウム上映の先駆けになったわけです。
せっかく名古屋でプラネタリウムを見たので、投影ではなく最新のLEDディスプレイに直接表示する、イオンモール ノリタケ名古屋にあるコニカミノルタ プラネタリウム 満天NAGOYAのDYNAVISION®-LEDも見てきました。ちょうどラスベガスのSphereも話題になっているので、こうした大型ドーム型のビジュアルエンタメを体験するためです。日本には池袋サンシャインシティの満天とここの2箇所にしかありません。
投影(つまり反射光)しているのではなく、球面がLEDディスプレイ(つまり直接光)で自ら光っています。
ここの直径は名古屋市科学館の半分以下の15メートルですから、どうしても広がりと没入感は弱いです。参考までにラスベガスのSphereは水平ドームではなく傾斜ドームではありますが、ドーム自体の直径は157メートルとまさにケタ違いのスケールです。オープン以降あれだけ行っていた(たぶん通算50回は優に超える)ラスベガスに行っていなくて、どうしたものかとは思っています。
そんなこんなで、私はとにかくプラネタリウムが大好きなのです。当時まだソニー社員だった独立直前の大平さんにお会いして、メガスターやホームスターのお話も聞きました。
そしていまでもプラネタリウムとカレーライスは、私の中では必ずセットなのです。