Creepypasta私家訳『セオドアくんへ』(原題“Dear Theodore”)
作品紹介
お節介な恐ろしいモンスターについてのお話です。Creepypasta Wikiでは“Suggested Reading”に選出されており、評価が高いです。
原作 : Dear Theodore (Creepypasta Wiki、oldid=1511170)
原著者 : SpiritVoices
翻訳 : 閉途 (Tojito)
ライセンス : CC BY-SA 4.0
画像 : Beds (Didriks)
セオドアくんへ
セオドアくんへ
僕は君のベッドの下に隠れているモンスターです。僕としては、「モンスター」なんて言い方はちょっとキツいと思うけれど、君は僕のことをそう呼んでいるよね。だから、僕もそう名乗ることにするよ。
実を言うと、君以外には多くの名前で呼ばれているんだ。「夜を彷徨う者」というのがそうだね。「影男」というのもそうだ。そんなつもりもないのに、うっかり伝説になってしまったことも何回かあったみたいでね。ビッグフットは僕が森の中を散歩していたときの姿かもしれないと聞いて、君は信じるかな。本当は、姿を見た人次第で決まるから、人によって違うものを想像する可能性がある。今のところ、僕は君の想像したものが一番好きだね。
僕がこれを書いているとき、君は6歳だね。6年間ずっと、僕は君のベッドの下にいた。僕は新生児集中治療室から君についてきたんだ。病院から家に向かうまでの道すがら、僕は君の泣き声を聞いていた。正直に言えば、ベビーベッドは自分の体を圧し潰して下に潜るのが大変だったよ。でも、頑張ったんだ。男の子向けベッドに移ってくれたのはありがたかった。君の背後に潜むのが大分楽になったんだ。
君は成長するにつれて、家を出ることが多くなった。君が帰ってきて、無知な両親の前で、学んできたことについて興奮しながら取り留めもなく喋り出したとき、僕はやっと思い出したよ。子供というものは学校に行くものだということをね。トーマス夫人は君の話を聞いて楽しそうにしていた。僕も奥さんに賛成だな、今のところは。
君が人について話すと、誰でも素敵な人のように思える。君は人の一番良いところを見ようとするからね。そんな資質に僕は希望を貰った。この世界には、君のように無限に楽観的な人がもっと必要だ。そのことは、デカくて恐ろしい夜のモンスターのことを引き合いに出してもいい。実のところ、君は僕にさえ良いところ見つけようとしている。月が影と光を混ぜ合わせた悍ましいものを君の部屋に差し込ませ、僕がまさに存在するという恐怖で君が身を震わせるとき、君の囁き声が耳に入る。
「僕、怖いよ。君も怖い?」
君が誰に話しかけているか気付いていないのは明らかだ。君にとって、僕は名も無い生き物以外の何者でもない。狙いや目的も無く、ただ定まっていない悪意があるだけの生き物だ。君は僕が辺りにいるときに万が一にも眠ってしまったら、僕が何をやらかすかもしれないか分かっていないみたいだ。昼間、君は僕から離れていて安全だと思っている。影が単に消えているだけとは思わないのかな。僕は君を傷つけたいと望めば、やってのけるよ。
君は4歳のとき、僕の絵を描いたことがある。あのしわくちゃの紙は、しまいには僕のいるベッドの下に行った。君は僕の真の姿を見たことがなかったし、君の芸術の腕前は控え目に言っても未発達だった。だから、当たり前だけど、いくつか間違っているところがあった。君の絵は灰色で描かれたデタラメな落書きだった。尖った歯があって、角が生えていて、数えきれないほどの無数の鉤爪がある。吐き気を催すような悪魔じみたヤマアラシのような感じだった。僕はこの絵を見たとき、つい面白く思ってしまった。君は完全に間違っているとは言わないよ。
僕がこんなことを書いているのは、君が僕について何もわかっていないことを知っているからだろう。でも、僕は君のことをとっても、とっても知っているよ。実のところ、君が自分のことを知っている以上に、僕は君のことを理解していると思う。
君が野菜が嫌いなことを僕は知っているし、果物が目の前に置かれれば、どんな果物でも食べてしまうことも知っている。君のお気に入りのリーシーズ・パフのシリアルを僕は知っているし、君は滅多にそのシリアルを食べられないことも知っている。君は汚い言葉を一つだけ知っているけれど、口に出して言う勇気は無いことを僕は知っている。君が消防士になりたいことを僕は知っているし、2か月前は建設現場の仕事をしてみたいと思っていたことも知っている。君がどちらにもならないことも知っている。君の友達全員の名前を僕は知っている。どの友達が君をいつか裏切ることになるかも知っている。君に最初にできるガールフレンドの名前を僕は知っているし、2番目のガールフレンドの名前も知っている。君の最初で最後のボーイフレンドのことも知っている。君が両親を愛していることを僕は知っているし、両親が君のことを傷つけることさえも知っている。君が何歳で死ぬかも僕は知っている。
君の死を防ぐ方法も知っている。
僕は沢山のことを知っているけれど、この手紙が君の元に届くかははっきりとは分からない。実のところ、君がこの手紙を読むことになるかもはっきりとは分からない。君がもっと成長したとき、僕がやろうと企てていることを理解して、僕の判断に賛成してくれると確信できたらいいのに。でも、本当のことを言えば、君がいつかそうしてくれるかも分からないんだ。
ただ一つ、100%明らかなことは、僕が奴らにやることに後悔しないということだけ。奴らは然るべき罰を受けることになる。なぜならば。夜、窓のところの木の枝が巨人の鉤爪のように見え、暗闇が迫ってくるように見える時間。君が本当に恐れているものは僕ではないと知っているからだ。奥深く、君の心が今なお辿り着けない場所で、君は両親を恐れている。
「僕、怖いよ。君も怖いの?」
君が尋ねたのは僕がたてた物音のことではなく、奴らのことだ。奴らは喧嘩をして、野性動物のように唸る。決して終わるのことのない、無視と怒りの竜巻。君は教室がもたらす仮初の避難所にいて不在のとき、両親がどのように振舞っているかを知らない。君にはまだ奴らがもたらすであろう苦痛がいかほどかを推測できない。君が成長して、甘やかせなくなったことに気付いたそのとき。君が成長して、自分たちが互いにやっているのと同じような扱いを、君にもできるようになったと気付いたそのとき。奴らは君に苦痛を与える。
君は奴らがいなくても上手くやっていけるだろう。縁が切れた方が遥かに素敵だと保証する。しばらくのうちは辛いだろうが、君はまだこんなにも若い。痛みは次第に消えていくだろうし、そのうちに解放される。奴らがもたらす混乱や自滅、虐待から逃れることで、君は自分が望む人生を生きていられるし、引き留める者は誰もいない。
いつか、この手紙を読めば、僕がどうして奴らを君から引き離したかを理解するだろう。そうしたら、君が僕に感謝してくれるといいな。両親の血の悪夢が、徐々に背景に聞こえるハミングの中へ消えていって、君がぎゅっと抱きしめている無尽蔵の楽観に置き換わるといいな。
それで、そんな日が来たら、僕が奴らよりも君のことを大事にしていたことに気付いてくれるといいな。
永遠に君のもの
君のベッドの下に今もいるモンスターより