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Creepypasta私家訳『望みが叶う森』(原題“The Forest of Things You Want to Happen”)

作品紹介

The Forest of Things You Want to Happenを訳しました。原著者であるTiololoという方は既に亡くなられているらしいです。

作中に出てくる「グミベア」はおそらくハリボーのことです。多分。

原作: The Forest of Things You Want to Happen (Creepypasta Wiki、oldid=1492561)
原著者: Tiololo
翻訳: 閉途 (Tojito)
ライセンス: CC BY-SA 4.0


望みが叶う森

外では雪が降っている。そこでは子供たちが橇やスキーで遊んでいた。ママが幼いジョニーが羽織っている毛皮のコートのクロームのボタンを留めて、ジョニーの頭を軽く叩く。

「ジョニー、今日は雪が降っているね」ママが言う。「だから、公園には遊びに行けないね。きっとブランコがツルツル滑るしね。森の中をちょっと散歩しに行こうよ」

森? ジョニーはこれまで本物の森に行ったことがなかった。ジョニーは頷き、親子はウェリントンブーツを履く。ママは傘を持ち、親子は家を発つ。それから、親子はジョニーが通う学校を通り過ぎ、それから病院、郵便局、バス乗り場を過ぎていく。バス乗り場でジョニーは、笑みを浮かべた交通安全のおばさんが喜んだ様子で手に持つ標識をジョニーの方に振っているのを目にする。ジョニーは手を振り返して笑う。ママはトラネコを指さす。トラネコはバス乗り場のスクリーンの下で自分の手を舐めている。

「子猫さんがいるよ、ジョニー。子猫さんに『こんにちは』って言いなさい」ママは笑顔で言う。

「こんにちは、子猫さん」ジョニーはママの言葉を繰り返し、手を振る。

親子は森の外れに辿り着き、ママはジョニーの手を握る。暖かな光がママの笑顔から放たれる。

「この森は魔法がかかっているのよ。他の森とは違うの」

「どうして、ママ」

「この森は、起きてほしいことを見せてくれるの。ここで見える全てのことはジョニーが望むことなの」

ジョニーは立ち止まり、驚きで目を見開いた。

「本当?」

「もちろんよ」

ここは本当に……魔法の森? 今になって、ジョニーは進むのが心配になってきた。ジョニーはこれまで魔法が関わるものに出会ったことがなかった。少し信じがたかった。それでも、ジョニーは信じることにした。なぜなら、大人は嘘を吐かなかったから。

「ママ、僕はもう森の中で何が見えるか分かるよ!」

「それじゃあ、ママに何が見えると思うか教えて」

「きっとキャンディが見えるよ。いや、キャンディ千本だ! 百億万本のマース・バーと綿飴。それがそこら中に! マシュマロもほしいし、いろんな味のタフィーもいいな!」

「あらジョニー。本当にほしがりさんね」ママはジョニーの髪をくしゃくしゃに乱した。

「それだけじゃないよ。キャンディだけじゃない。おっきなおっきなおうちも見えるよ! えっと、それと新しい自転車、フットボール、たっくさんのお金も」

「森に行ってみましょうか」

「やったぁ!」

親子は手に手を取って2本の見事なオークの分け目の中を入っていった。ママは傘を折り畳み、ハンドバックに戻す。頭上に広がった葉の落ちた枝が十分に雪を防いでいるからだ。

並木の間を通る道を歩いていると、地面の上に降り積もった雪が薄くなり始める。木々は色味を帯びて生き生きとし始め、葉が生え始める。すぐに、足の下でザクザクと音を立てていた雪は消えてなくなり、青々とした緑の草の層が姿を現す。美しいピンク、黄色、赤色の花々が親子の周りの原っぱで生えてくる。進むにつれて木々は数を減らし、瞬く間に木々は姿を消す。

ジョニーは目の前の光景を不思議に思い、当惑しながら辺りを見回す。ジョニーは夢を見ていたのだろうか。もちろん、ママは嘘を吐いていなかった。大人は絶対に嘘を吐かない。この場所は本当に魔法がかかっており、まるで夢のよう。その森は間違っていない。ジョニーは本当にこんな場所に永遠に住めたらいいと願っている。親子が歩みを進めると、周囲の風景はもう一度変化する。

このときは、原っぱは美しい砂浜に変わる。歩いていくと、金色の砂が足の下で小さくサラサラと音を立てる。親子の周囲をカモメが飛ぶ。もはや寒くはない。太陽が頭上で輝き、ジョニーは移動遊園地を目にする。そこには様々な乗り物がある。アイスクリーム売りのトラックもある。楽しい道化師も。ジョニーはついさっきはあの原っぱが気に入っていた。しかし、この場所の方が大分好みだ。やはり、その森は正確だ。ジョニーは確実にこの場所を望んでいる。実際に、ジョニーは残りの人生をこの黄金の理想郷で過ごしたいという衝動に駆られている。

雷鳴が轟き、そして、雷とともにあるはずの灰色の陰鬱な風景の代わりに、綿飴でできた色とりどりの雲が空を覆う。オレンジ、青、ピンク、赤。ジョニーは虹色の雲さえも目にする。虹色の紙幣が空から降ってきて、ジョニーの髪の上に着地する。

「ママ、急いで、傘を出して!」ジョニーは叫ぶ。

ママはハンドバッグから傘を取り出して、ジョニーを見て笑いながら、傘を開いて逆様にし、色とりどりの紙幣を集める。

空は晴れ、太陽が再び輝いている。紙幣は消え去るが、ジョニーは気にしない。アイスクリーム・トラックに近づいているためだ。トラックはジョニーの目の前で巨大な青い豪邸に変わる。その巨大な家は、まさしくジョニーが夢に見たものだ。とても小さい頃から、この豪邸を所有する夢を見ていたのだ。ママは豪邸の方に向かうように促して、ジョニーは階段を上ってドアをノックする。ドアが開いて、百億万のマース・バーとグミベアが地滑りのように零れ出て、ジョニーを押し倒す。ジョニーはキャンディの雪崩の中でママの方へ滑り落ちて倒れる。ジョニーは両腕と両脚を広げ、ワイパーのように両腕と両足を前後に動かして、地上にキャンディの天使を作り出す。ママは笑い、築山を指さす。

赤いフレームのピカピカの自転車が誇らしげに壁に寄り掛かって停められている。黄色と緑のフットボールがそのそばでキラリと光る。ジョニーはハッと息を飲み、キャンディの内側にできた天使形の空間から起き上がると、その方へ走るが、ママに止められる。

「ジョニー、時間があまりないの。まずは森の中のご馳走をすべていただきましょう。それから、戻ってきてお気にのものを取りに行けばいいの、わかる?」

ジョニーは自転車を十分に試乗し、フットボールを蹴飛ばす誘惑に抗う。ジョニーは再びママの手を取り、豪邸を後にする。

親子が進んでいくにつれて、空は暗くなり、太陽は灰色の雲に覆われる。このときは、雲は綿飴ではできていない。ジョニーはこれは先ほどの風景から次の風景へのただの変わり目なのかと思うが、空は暗くなり続ける。木々が再び姿を現すが、葉は無く、不気味に捻じれている。ジョニーは怯え、困惑する。親子は森から出ていくところなのだろうか。ジョニーはそんなことは望んでいないと分かっている。そのせいでジョニーは狼狽する。ジョニーのママの手を握る力が強くなる。

「ママ、寒いよ……。もう歩きたくない。おうちに帰りたいよ」

「ママ?」

ママの手が冷たく固く感じる。視線を降ろしてギョッとする。そこにもうママの手は無く、ジョニーが握る手はガラスでできている。装飾品のように、人間の手を形作っているガラス。それは完全に透明で、掌が透けて自分の指が見える。ママの指輪の形は指の周りにまだ明らかに目に見えている。

ジョニーは深く息を吸い込むと、左の方を見る。ママはそこにはいないが、ガラスの手はまだジョニーの手を握っている。ジョニーは悲鳴を上げ、咄嗟にその手を離すと、ガラスの手を落としてしまう。

手は床に落下し、千々に砕け散る。今、砕けたガラスが目の前の床に散らばっている。ママはまだどこにも見つからない。ジョニーは数秒間、物も言えないほどに驚愕し、それから泣き出す。森を見渡すと、今や森は完全に影に覆われて灰色だ。

「ママ……。マ、ママ……。怖いよ……、どうなっているの」

突如、ママが目の前に現れる。ジョニーはママに駆け寄り抱き着こうとして、どういうわけか恐怖で戦慄が走る。ジョニーは啜り泣き、ママの数十センチ前で立ち止まって縮こまる。新たなママは生気のない、恐ろしい表情をしている。

「ママ……手はどうしたの」

ママの左手は無くなっていた。

「ジョニー、お前がママの手を壊したの」ママは半ば呟くように言い、ジョニーの背後の床でキラキラと輝く残骸を指さす。細くてなよなよとした枝が不気味で悍ましげな影をママの顔に投げかける。「お前のせいでママの手は無くなったの。お前がやったの。お前がそう望んだんでしょ」

「えぇ?」混乱、当惑、恐怖。何が起きているのか。有頂天だった子供が今や鼻水を抑えようともがいている。彼は凄まじい悪夢に囚われているのだ。ジョニーは慎重にそっと辺りを見回す。さながら肝を潰した猫のようだ。「ママ、こんなこと起きてほしいと思っていなかったよ。絶対に! ママの手を壊したいなんて絶対に思っていないよ! ごめんなさい!」

「ジョニー、森はいつだって嘘を吐かないの。お前はキャンディもフットボールも欲しかったでしょ」

「でも、こんなことは望んでないよ! ママ、ごめんなさい! ママと手を繋ぎたいよ!」

「ジョニー、残念だけどもう無理なの。ママがもう一方の片手も壊されたいと思っているとでも?」

ママは不気味にジョニーを睨みつけ、そのまま黙ったまましばらく経過する。ジョニーは恐怖の余りに動けない。ジョニーはこの新しいママが好きではない。ジョニーは偽りの罪で泣き喚き、偽りの動機で責められている。

遠くの暗闇の中に明るい光の輝きが見えて、ジョニーは動きを止める。

ジョニーは慎重にその方向へ向かい、近づいてからいったんしばらく立ち止まる。馴染みのある人影が光の下に座っていて、咳をして苦痛でぜぇぜぇと息を切らす。禿げ頭で短い爪に、顎には無精髭を生やした男。生え際に薄くなった茶色の髪が残り、それ以外は禿げあがった頭皮。

「パパ? パパ、どこか悪いの」

パパは答えない。ただ、ブツブツと不明瞭に呟き続けるだけだ。すると、赤い光が出現し、パパの胸部の左側から出てくる。パパは立ち上がって赤い光から逃れようとするが、光は糊のようにパパに貼り付いて離れない。ママが自分の肩に残った手を強く置いて、ジョニーは跳び上がる。

「パパは痛がっているよ。どうして助けようとしないの」

「でも……」ジョニーはハッと息を飲み、ママの失われた左手の方を見て、先ほど何が起きたか思い至る。「どうやって?」

「胸の中にある何かがパパを苦しめているの。切って取り出せば、パパを救えるわ。愛するパパを救うのよ」

ジョニーは目を見開く。ママが大きな包丁を取り出したからだ。空の裂け目から微かな光の筋が差し込み、包丁の刃がキラリと光る。

「ママ……。すごく怖いよ。こんなこと絶対嫌だ」

「あら、そうなの。森はいつだって噓を吐かない。ということは、お前がこうなれと望んだ奴なんだ。お前はパパが苦しめばいいと思ったんじゃないの」

ジョニーはできる限り激しくかぶりを振る。再び泣きたくなる。

「ほらほら、しっかりしなきゃね、可愛いジョニーちゃん? お前は間違いを償って、パパの苦しみを止めなきゃいけないの」

ジョニーが包丁を手に取ると、手が震える。ジョニーはパパの方まで歩いていき、その横で膝をつく。パパは急に恐怖にかられたように見える。パパの目から涙が流れ、目が大きく見開かれ、懇願するような風だ。

「ごめんなさい、パパ。こんなこと起こってほしくなかった。でも、森はぼくが望んだって言うんだ。だから、ママは僕がパパを苦しめる何かを取り出す助けをしないといけないって言うんだ。心配しないで、すぐに済ませるよ。約束するよ」

パパは首を横に振るが、ジョニーはそれでも包丁を手に取り、切開を始める。パパは悲鳴を上げて喚き散らす最中、ジョニーは泣き叫ぶ。驚くことに、パパの肉はバターのように切れる。血は湧き出てこない。パパの体の内側には数百万もの小さな白い蛆が詰まっている。そのすべてがパパの皮膚の下をのたうち回っている。小さなハサミを持つ蛆もいて、ジョニーの手に這い上がる。ジョニーは悲鳴を上げて、気持ち悪さと恐怖で後ずさり、ママの方に目を向ける。ママはジョニーの行動を良く思っていないようだが、その顔には奇妙な表情が浮かび、歯を見せて笑いそうになっているところである。

「しっかりしろ」ジョニーは自分に向かって呟く。「しっかりしなきゃ」

ジョニーはさらにパパを切っていく。何か大きく丸いものがパパの内側で動いている。何か固く震えるものが。ジョニーは悲鳴を上げて泣き叫び、手を蛆の塊の中に沈め、パパを苦しめていたものを引きずり出す。

それは赤いもので、2本の長い紐が繋がっており、その紐はパパの肉体の内側へと続く。ジョニーの手の中でまだ鼓動を打つ。ジョニーは泣くのをやめて、怯えながらその物体を見つめる。

「じっと持っていてジョニー」ママが呟く。「パパの心臓をママの手みたいに落としたらパパはね、死ぬ」

「でも、ママ、そうしろって言ったでしょ。あんたが言ったんだよママ!」ジョニーは泣き喚きながら、かなり慎重にパパの心臓を両手に抱く。震えてしまい、何をすべきか決心がつかない。心臓をパパの胸に戻そうとし始めるが、パパは叫び声を上げてもだえている。しかし、赤い光がパパを地面に押さえつける。

ジョニーは叫ぶ。パパの皮膚が急にジョニーの両手に癒着していく。すぐに、両手はパパの皮膚に包まれる。今やそこから血が湧き出始め、さながらパパの胸の中に手が囚われてしまったかのようだ。

「やめなさい! ジョニー! お前がパパを苦しめているんだ!」ママが叫ぶ。

「ママ、どうしたらいいんだよ!」

パパは荒々しく手足をバタつかせる。突如、パパは床に倒れ伏し、肉体が衰弱する。ジョニーは全力でパパから手を抜き出し、地面に倒れ込む。明るい光が出ていって、パパの死体が地面に倒れている。ママは泣いている。

「ジョニー! お前が何をしたか見なさい! どうしてそんな悍ましいことが起きてほしいと思ったの」

「思っていないよママ、思っていないって言ったでしょ! こんなことになっている理由なんて分かんないよ、こんなこと本当に望んでなんか……」

「お前は父親を殺したんだ! お前は父親に死んでほしかった。お前は殺したかったんだよ! ママ恥ずかしい。お前がこんなに卑しい奴だったなんて、ジョニー!」

「ママ、そんなこと望んでいないって!」涙が川のようにジョニーの目から出てきて黒い地面に流れ込む。「こんなこと本当に起きてほしくないよ! 訳分かんないよ! 怖いよ!」

「この嘘吐き!」ママが金切声を上げる。その叫び声は森の中をこだまする。

叫びの最中、ママの肉体は突如、凍り付く。眉は怒りで吊り上がり、顔はしわくちゃで、口が大きく開いている。ジョニーは震えあがり、ママの頭が完全にガラスに変化していくのを見つめる。すると、パキッと割れて頭が体から外れる。ジョニーは飛び退いて叫び声を上げる。首は肩の上から地面に落ちて、砕け散ってバラバラになる。

ママの頭の無い体が動き始め、しばらくの間よろよろと歩く。ママの声がいまだに地面の上の破片からこだまする。

「ジョニー、望みが叶う森は絶対に嘘を吐かない。お前がこんなことが起こればいいと望んだんだろ。お前は本当に、悪い子だ」

ジョニーは不意に陰鬱に沈黙し、無表情になる。ジョニーはじっと立ち尽くす。森の中へは進みたくない。こんな悪趣味は沢山だ。

「ママ」ジョニーは言う。「あんたは嘘吐きの、冷酷な怪物だよ」

ジョニーはたった一人ではなかったことを、2人の人間がこの森に入ったことを思い出していた。


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