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Creepypasta私家訳『サンドマンの倒し方』(原題“How to Beat the Sandman”)

作品紹介

サンドマンとは西洋に伝わる精霊の類で、夜更かしする子供の目に砂をかけて眠らせてくるそうです。本稿はサンドマンを撃退する方法を伝授します。

原作: How to Beat the Sandman (Creepypasta Wiki。2021年5月23日取得。oldid=1460445)
原著者: RedNovaTyrant
翻訳: 閉途 (Tojito)
ライセンス: CC BY-SA 4.0
画像: British Library digitised image from page 178 of "The Viking Bodleys; an excursion into Norway and Denmark ... With illustrations" (British Library)


サンドマンの倒し方

眠らないように起き続けようとして苦労していない? 大事な試験のための勉強をしようとして、手つかずのまま週末に先延ばしにしていた締切りぎりぎりの宿題を終わらせ、気づけば午前3時で疲労困憊、なんてことは? もしかして、最近似たような状況になり、助けになりそうなものを探しているところかな。やあ、マイフレンド、君の疲れた心を和らげる処方箋がちょうどある。必要なことはゲームに勝つことだけだ。

ゲームの準備は比較的シンプル。必要なものは砂時計、蝋燭、マーカーだけ。ここではっきりさせておこう。必要な砂時計は1時間計ることができるタイプだ。シリアルの箱から引っ張り出してきたようなボードゲーム用の30秒間しか計ることができない安物は駄目だ。ゲームを始める前に、砂時計の性能を確認しておこう。砂が上から下にすべて落ちきるまでに1時間か少し長いくらいかかれば合格だ。わずかに長くかかるくらいだと良い。ただ、長くかかりすぎるか、短すぎると、ゲームの最中に厄介な問題にぶち当たることになる。ゲーム中は部屋に完全に自分一人しかいない状態にする必要もある。

ゲームの準備ができたら、封鎖できる部屋を選ぶこと。単に出入口や窓を閉じることができる部屋であればいいという意味だ。事前に部屋から時間を計るデバイスやアラームの類を撤去しておく必要がある。そうしないとゲームは始まらない。砂時計だけが時間を計ることができる道具になる。だからこそ、精確な砂時計を持っていることが重要になる。電子ディスプレイがあるものも撤去した方がいい。テレビや携帯電話、コンピュータのモニターなどだ。ゲーム中にこのようなものを部屋に残しておくとひどく不利になる。


午後8時にゲームを始めるとする。まず、部屋を封鎖する。カーテンを閉めて外からの光を遮り、それから、片腕の手の甲に単純化した砂時計の絵を描く。どの手に絵を描いたかよく覚えておこう。ゲーム中は大抵、部屋が暗くなっているからだ。蝋燭を持ち、火をつけ、部屋の明かりを消す。前述の三つの必要なものを近くに集めておき、床に座る。そして、砂時計をひっくり返し、砂が空っぽの下半分へ落ちるようにする。光源は蝋燭だけになるはずだ。

それから、次のような言葉を大声で叫ぶ。「私は疲れていないから眠りたくない」目を閉じて10数え、それから目を開ける。はっきりとは分からないだろうが、部屋のどこかに影のような人の輪郭が見えるような気がしてくるだろう。このとき、ゲームが始まっており、ゲームの相手は睡眠の支配者サンドマンその人に他ならない。サンドマンを怒らせてはならない。話しかけてもいけない。君はサンドマンに異議を唱え、ある意味ではその職務を侮辱したわけだから、サンドマンは控えめに言っても上機嫌とは言えない。

ここからがゲームの本番だ。君の任務はできるかぎり長く起きていること。最長8時間で、午前4時までかかることになる。1時間ごとに砂時計をひっくり返し、ゲームを続けられるようにしなければならない。砂時計をひっくり返すたびに、マーカーを持って腕に印の線を引いていい。どちらの腕に印をつけるかの詳細は後で説明する。砂時計をさっさと8回ひっくり返すとか、腕にただ8本線を引けばいいとは考えてはいけない。1時間が順番に経過していくことが「魔法」が働くのに必要だ。砂粒の最後の一つが落ちる前に砂時計をひっくり返し損ねたり、万が一眠気に屈してしまったりすると、敗北になる。

ゲームの間、サンドマンはできる限り多くの策を展開してくる。君を眠らせるか、屈服させるためだ。ほら見て、砂時計の下半分は常にサンドマンの力を表している。砂が下半分に多く入っているほど、サンドマンの影響力は強くなる。ゲームを開始してほぼすぐに、君は眠気を感じ始める。これは単にサンドマンが出現しているためだ。もし、眠気に抗えないならば、すぐにゲームをやめることだ。最初の1時間は、サンドマンはそれほど多くのことはしてこない。部屋中を歩き回るかもしれないが、君の体に触れてきたり、話しかけたりはしてこない。サンドマンに話しかけようとしても (そんなことは本当にやめた方がいいが)、反応してこないだろう。

また、その場を離れてサンドマンに近付いてはならない。近付けば近付くほど、さらに眠くなる。それに、蝋燭の近くにいないと、サンドマンは君が眠ることができるように蝋燭の火を消してしまう。ゲームの最中に気を逸らしてはならない。どれほど時間が経ったかすぐに分からなくなってしまうし、時間通りに砂時計をひっくり返すのを忘れてしまう。サンドマンは時間がどれほど経ったかという認識を歪めることもできるが、砂時計に影響を与えることはできない。だから、集中力を保ち続ければ、ゲームに勝利する絶好のチャンスが生まれる。ちなみに、部屋を出ようとすると、ドアはすべて施錠されており、窓からは見える限り晴れることのない暗闇ばかりが広がっている。

最初の1時間が経過すると、サンドマンは君を嘲笑ってくるかもしれないが、部屋に留まり続けようとする。このとき、サンドマンは策のタネを引っ張り出してくる。サンドマンは君を手強い相手だと見なしているのだ。オルゴールやハープの音が聞こえるようになるかもしれない。最初は遠くから、しかし、徐々に聞き取れるくらいの大きさになり、心地よい音色になっていく。目を閉じて聞き入りたい衝動に抗わなければならない。

そのときのサンドマンの気分によって変わるが、2、3時間近くになると、君の体は疲れを感じるようになる。このころになると、サンドマンが様々な声を使って話しかけてくる。幼い少女の柔和な声、祖父母の思慮深げな甲高い笑い声、それかおそらくは愛してやまない聞き覚えのある母親の言葉。その声はサンドマンとそれほど長く渡り合ったことを、ゲームに勝つために日夜眠らずに過ごしたことを祝福しようとする。子守歌やわらべ歌の囁きで頭がいっぱいになる。ただ、君は馬鹿じゃないはず。何も言うな、声は無視しろ。どれほど本物のように思えても、声に耳を傾けるな。眠りに落ちるな。

どうにか半分まで辿り着き、腕に四つ目の印を書く頃合いになると、君はまさしく疲れ果てているだろう。そして、サンドマンもまさしく腹を立てている。サンドマンはいっそう周囲の環境を操作し始め、新たな戦術で君を眠らせようとする。安静に寝付かせようとするのではなく、攻撃を仕掛ける。幻覚を使ってくるのだ。どこからともなく差し込まれたスポットライトで照らされた、天井からぶら下がった死体という恐ろしい幻影が見えるようになる。部屋の大きさが変化し、縮んで、それから広がり、また縮んで、そして広がるなんてことが起こるかもしれない。耳の中に響いていた囁き声が、目に見えないものから発せられる叫び声に変わり、君の顔の方に浴びせかけてくる。

衰弱し、睡眠不足にもなっていることで、君に残されたエネルギーはサンドマンが一気に仕掛けてくる恐怖によって使い果たされるだろう。突然にアドレナリンが迸るかもしれない。もちろん、サンドマンは抜け目ない。サンドマンは頃合いを見計らって幻覚を仕掛けてくるため、単に気にかけているだけでは次の1時間までもたない。サンドマンは待ち続ける。そして、君の感情がさらに1段階落ち着くと、そこでバン! 腐敗した両足が君の目の前でぶら下がってくる。君は叫びたいだけ叫んでもいいし、サンドマンにやめるようにお願いしてもいい。でも、そんなことをしても活力が減るだけだ。

6時間が経つと、幻覚は恐ろしいものにも心地よいものにも変わる。サンドマンは君の脳を引っ張り出して、どんな悪夢を見たときに冷や汗を沢山かいたか見つけ出す。一方で、君を眠りに誘い、君は十分我慢したから休んだ方がいいと言ってくる幻覚もある。心地よい暖かなベッド、いちばん柔らかい毛皮と羽毛でできた枕。ハープとオルゴールが君の聴覚に負担をかける。君の今の状態では、眠るためのチャンスを歓迎してしまうかもしれないが、気を取り直せ! 砂時計を見てきたか? サンドマンの恐怖で気を逸らさないようにしろ。これがサンドマンに話しかけてはいけない理由だ。些細な情報でもサンドマンに渡ってしまうと、君への対抗策に使ってくるのだ。

このとき、電子ディスプレイも大きな問題になる。電源があろうがなかろうが、勝手にスイッチが入る。万が一、ディスプレイに映る人を惑わす幻影を長く見すぎると、瞼が落ちて、体が床に倒れてしまう。画面を見えないように別の方向に向けていても、サンドマンが君の方に向きを戻してしまう。そうして、画面がよく見えてしまうわけだ。

カーテンが開いて、輝かしい夜明けや、綺麗な青空が見えるかもしれない。でも、この部屋の中で真実を示しているのは、君の腕の印と砂時計だけだ。腕に八つ目の印が書かれるまで、ゲームが終わることはない。力を振り絞って砂時計をひっくり返せ。このときには、サンドマンの影響のせいで、砂時計をひっくり返すだけでもかなりの骨折りになっている。マーカーで腕に線を引け。たとえ、ナイフで自分の腕を切り裂いているように見えたとしてもだ。

最後の1時間になると、サンドマンは直接君に話しかけてきて、単純そうな質問をしてくる。でも、このときの君では、2足す2が何かすら頭に浮かばないだろう。質問は頭から追い出すのに最も難しいものだ。だから、質問が頭に入らないようにしろ。耳を塞げ、ただ砂時計だけ見ていろ。目を開きっぱなしにしろ。眠りに落ちるな! 質問が頭の中に入れば、質問について考え始め、さらにストレスがかかり、わずかに残っていた心の中のものも使い果たすことになる。何かが肺を圧し潰しているかのように、それか、空気が濃くなって取り込みにくくなっているかのように、呼吸がしにくくなるかもしれない。また、サンドマンが暴力に走り、君を掴んで投げ飛ばしてくる。君は時間切れになる前に、砂時計の元へ這って戻ることになる。サンドマンの顔を一目見てしまうと、あまりにも恐ろしくて目が閉じられなくなるほどの悪夢になるかもしれない。そこには区別できる顔のパーツはない。血走った二つの目を除けば。眼窩から瞼が切り取られており、絶え間なく君を見つめ続けるのだ。

8時間が経過しきる前に耐えられなくなったら、砂時計を手に取って全力で壊せ。ゲームを終わらせるには上下両方の部分とも壊す必要がある。そのためにも、砂時計はガラス製が望ましい。7時間が経過すると、砂時計を壊す余力などない。そうなれば、ゲームを続けるか……夢に降伏するかのどちらかだ。ゲームをこの方法で終わらせると報酬はないが、サンドマンの激怒を免れられるという慈悲はある。眠りに落ちることなく8時間を終えることができれば、砂時計を再びひっくり返す必要はない。ただ腕に八つ目の印を書いて、目を閉じてしまえばいい。

ゲームが終わったとしても、まだ眠ることはできない。最後の仕事が残っている。必要なのはただ待つことだ。サンドマンが砂時計を拾い、「お前はもう立派に成長した。眠りたいときに眠るがいい……」と言うのを待つのだ。目を開けてみろ。そうすると、砂時計が無くなっており、蝋燭の火が消えている。そうなれば、君は倒れて眠ってしまうかもしれない。きっかり12時間眠ることになる。ゲームは君の精神と肉体に重い負荷をかける。だから、回復は必要だ。

ただ、これが必要になる最後の睡眠だ。少なくとも、その長さの眠りは。なぜならば、一度十分に回復すれば、君の腕に刻んだ印の分の時間だけ起き続けられるようになるからだ。普段の睡眠の時間によるが、必要になるのは短時間の昼寝だけになるということだ。大抵の人にとっては1時間か2時間でよくなる。一部の人にとっては、二度と眠る必要がなくなる。もちろん、望めば長く眠ることもできるし、夢だって見られる。ただ、疲労がつきまとってくることは一切ない。なんて生産的!

ただ、甘い話ばかりではない。砂時計の絵を描いていない方の腕に印を付けると、逆にさらに睡眠が必要になる。逆の腕に一つ印を付けるごとにきっかり1時間の睡眠が必要だ。一日中活動し続けるのに、さらなる休息が必要になる。砂時計を描いた腕に印があれば、逆の腕の印を取り消せる。でも、そうでなければ、あれほどの苦痛を経験したのに残るのは……前よりもひどい結果だけ。ゲーム中の錯乱状態やら何やらで、普通の人が砂時計の絵のある腕にすべての印を書くというのは起こりそうにない。

敗北する状況もある。砂時計をひっくり返し損ねると、サンドマンが全力を獲得する。そして、サンドマンが指をパチンと鳴らすと、君は床に倒れ伏してしまう。砂時計をひっくり返し損ねたか、疲れに屈したか、どのような経緯で眠りに落ちたとしても、回復のために12時間眠ることになる。ただ、そのときの睡眠は今までで最悪のものになる。サンドマンがそのように仕向けてくるのだ。最悪の悪夢が君の精神に溢れ出し、抜け出すこともできず、冷や汗いっぱいで目が覚めるなんてことも許されない。できることは何年も続くように感じる夢の責め苦に耐えることだけだ。

そして、翌朝に意識を取り戻すと、君は部屋の床に倒れ伏している。腕に印はまだ残っている。そして、かつて瞼があったところから血が流れ出す。君は目を閉じて眠りたくないと言った。サンドマンはただその願いを叶えてやっただけなのだ。

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