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Creepypasta私家訳『ゼリービーンズ』(原題“Jelly Beans”)

作品紹介

CreepypastaであるJelly Beansを訳しました。皆さんはゼリービーンズを食べたことはありますか。私はありません。不味そうだし。この話みたいにとんでもないものが混じっていそうだし。

原作: Jelly Beans (Creepypasta Wiki、oldid=1464077)
原著者: TeamKillerCody
翻訳: 閉途 (Tojito)
ライセンス: CC BY-SA 4.0
画像: Jelly beans (Mark Hillary)


ゼリービーンズ

俺は子供の頃、いつもゼリービーンズが大好きだった。学食用の金をゼリービーンズを買うために放課後まで少し残しておいたことを覚えている。帰宅途中にガソリンスタンドに立ち寄ってゼリービーンズを買っていたのだ。毎日、同じガソリンスタンドに行き、同じ女性に会った。女性は笑みを浮かべながら、嬉しそうに同じゼリービーンズを売ってくれたものだった。家まで歩く道すがらで一袋全部食べきった。だから、昼ごはんを買う金を無駄遣いして菓子を買っていたことを、お袋に知られて怒りを買うことはなかった。高校までこの日課を続けた。

高校生のころ、ゼリービーンズはだんだんと人気がなくなり、見つけるのが少し難しくなった。免許をとるころにはガソリンスタンドでももう売られなくなった。ガソリンスタンドに立ち寄る理由はガソリンだけになった。毎日、放課後にガソリンスタンドに立ち寄って満タンにし、ウォルマートへ車を走らせ、キャンディコーナーを探り、ゼリービーンズを買わなければいけなかった。ウォルマートから家まで車で15分かかった。この日課はだいたい4年間続いた。高校を卒業するまでにお袋は死に、家は俺のものになった。この時期は人生の休止期間だったが、ゼリービーンズ中毒のおかげで気分が慰められた。

新しいフレーバーが出現し始めた。トロピカルフルーツ、サワー、ミント、あらゆる味のフレーバー。そのころは変なフレーバーがあった。ビーン・ブーズルド、バーティ・ボッツの百味ビーンズ。耳くそやゲロ、土、ミミズなどのフレーバーがあった。あまりにも奇妙だったものだから……このようなひどいフレーバーを結構楽しんだ。最初に素敵な味のゼリービーンズを食べ、最後に凶悪な天国をすべてとっておくようになっていた。汚れたおむつ、鼻くそ、おしりふき、どれも味蕾を満足させた。

そしてハロウィンの数日前、新たにひどい味のゼリービーンズが出現した。モンスタースライム、脳みそ、ミイラの骨。どれも新しいフレーバーだったが、箱に「New!」と書かれたギザギザの吹き出しがあったのは血味のゼリービーンズだけだった。パッケージを買って、家に帰り、買ったフレーバーを一つ一つ試してみた。「モンスタースライム」はゲロとブドウを混ぜたような味、「脳みそ」は鼻くそとレバーのような味、「ミイラの骨」はただ犬用ビスケットのような味がしただけだった。

ぞんざいに組み合わせただけのフレーバーにがっかりして、ただゼリービーンズを一掴みして口に放り込んだ。口の中で二つピシャリと弾けるのを感じ、すぐにその味が分かった。しょっぱくて金属のようなフレーバーで味蕾がいっぱいになった。最初、俺は衝撃を受けた。「口の中で出血している……?」と頭の中で自問した。思いつくのに数秒かかったが理解した。血のフレーバーだ! ゼリービーンズの会社がぞっとするほど正確に血のフレーバーを作ったのだ! 本当に、本当に血のような味がした。口いっぱいのゼリービーンズを飲み込んだ。その後、パッケージは2、3個の血のゼリービーンズを残して空になっていることに気付いた。残ったゼリービーンズをすべて手に取り、ゆっくりと食べた。一つ一つ、舌ざわりと、しょっぱく鉄臭いフレーバーを20分近くかけて味わった。

そのまさしく翌日にウォルマートへ向かうと、昨日買ったミックスパックのそばに、ハロウィンフレーバーが個別に入ったパッケージが置かれていることに気付いた。俺は死に物狂いで新しいお気に入りのフレーバーを探していた。お気に入りではないものは全部見つかった。「モンスタースライム」、「脳みそ」、「ミイラの骨」。そして、お気に入りのフレーバーもあった。それは他のものとは違って単に「血」味と書かれておらず、「バンパイアパック」と書かれていた。値段は5.99ドルだった。他のフレーバーよりもかなり高額だったが、大好きな金属のような味付けのキャンディにはその価値があると思った。

バンパイアパックを購入し、車で15分かけて帰宅した。俺はこの新しいフレーバーに夢中になっていた。味と舌ざわりが俺の心を捉えたため、翌日にまたウォルマートへ戻った。このときは財布に金を詰めるだけ詰め込んだ。バンパイアパックの在庫を全部買い尽くすつもりだった。いつもの駐車場に到着し、キャンディコーナーに向かって、あの麗しの味覚を探しにいった。驚いたことに全部無くなっていた。他の「こわ~いハロウィンフレーバー」も残っていなかった。俺はキャンディーコーナーでウォルマートの店員が在庫を確認していることに気が付いた。その女性の店員はどこか見覚えがあるような感じがしたが、そんなことは気にせず、それよりも本題に入ることにした。

俺は店員の方へ向かって、その女性店員の意識を引いた。

「すみません」

「はい?」と言って店員は棚から顔を上げた。

「ハロウィンをテーマにしたフレーバーはどうしたんですか」

俺は何気ない調子で声をかけた。狼狽しているような素振りや、立ち去ってしまいたいという思いでいっぱいであるような素振りは見せないようにした。

「申し訳ございません。その商品は回収されました」

店員は顔に思いっきりにやりとした笑みを浮かべた。このことが俺にとって悩ましいことであると知っているかのようだった。

「きっと、子供にとってはあまりにもひどい味だったのでしょうね」

店員の口ぶりは、さながら飢えた犬の目の前でステーキをぶら下げているかのようだった。店員がからかうような物言いをしたものだから、俺は店員を絞め殺したくなった。それでもそんなことはしなかった。

ゼリービーンズ中毒はかなりのものだったが、欲求に振り回されないようにした。「なるほど、あ、ありがとうございます……」

俺は頷きつつ言った。抑えきれず、少し震えているかのように瞼をひくつかせた。立ち去ろうと歩き始めたとき、女性が仕事をしていた棚の下に何かがあることに気が付いた。危うく見逃しかけたが、バンパイアパックの「バ」の字が見えた。あのゼリービーンズがここにあることが分かった。バンパイアパックが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は携帯電話を取り出し、女性が立ち去るまで少しの間、文字を打っているふりをした。女性がいなくなると、棚の下でさながら子供がなくしたおもちゃを探しているかのような気分でいた。驚いたことに、見つけたバンパイアパックは1袋だけではなかった。3袋もあったのだ! バンパイアパックはリコールされたのだから、買って店を出ることはできないと分かっていた。俺はすばやくバンパイアパックをひったくり、着ていたパーカーの中のおなか側に押し込んだ。そして、パーカーのファスナーを上げて立ち去った。

とうとう家に着き、車寄せに入り、エンジンを切り、玄関の鍵を開け、家の中に足を踏み入れ、コンピュータデスクに座り、愛するゼリービーンズがリコールされている理由を調べようとした。奇妙なことに、ゼリービーンズのリコールについての情報を何も見つけられなかった。なんと、ハロウィンフレーバーがこれまで存在した証拠さえも見つけられなかったのだ! パーカーからバンパイアパックを取り出し、お椀を持ってきてその中に注ぎ込んだ。とりわけ大きいゼリービーンズを取り出し、机の中央に置いた。目を逸らし、ランプの電源を入れた。10秒間、大きめのゼリービーンズを調べた。ゼリービーンズは本物の血のような紅色で、企業印が白文字で押されていた。どうしてバンパイアパックはリコールされたのだろうか。そして、どうしてそれほどにも本物のような味付けなのだろうか。何かが落ちた音が聞こえた。少し辺りを見回すと、ゼリービーンズの一つがお椀から零れ落ちていた。この奇妙なものを数秒間見つめた。どうしてあのゼリービーンズはお椀から零れ落ちたのだろうか。山になったゼリービーンズのてっぺんとお椀の端は少なくとも3センチ弱はある。

突然、左手に鋭い痛みが走った。見てみると、調べていたゼリービーンズが俺の手をひどく噛んでいたのだ! ゼリービーンズは手から吸い出した血で脈打っていた! ゼリービーンを摘まんで引き抜いたところ、ゼリービーンズには脚や顔がついていた。これはゼリービーンじゃない。うげぇ。恐怖して明かりのところに持っていって分かった。これはダニだ! 大きくて、丸々太った、暗赤色の、血でパンパンになった蠢くダニだ! 不快感で震える右手で、血を吸う生き物を取り去ろうとした。その最中、ゼリービーンズでいっぱいのお椀をひっくり返してしまった。床に零れ落ちたゼリービーンズはすべて動き出し、俺の方に這い寄ってきた。胸部と腹部に痛みを感じた。パーカーの内側を覗くと、小さな怪物どもがバンパイアパックから弾け出ていた! 怪物どもは俺にかじりつき、血を吸い取っていた。俺は卒倒した。そして、名前に込められた皮肉に気が付いた。「バンパイアパック」という名前は血の風味だからではなかった。バンパイアが中に入っていたからだったのだ。多くの思考で頭がいっぱいになり、このグロテスクな寄生虫が体を覆ったせいでパニックになった。バンパイアパックの中身を千ほど食べてしまっていたことを考え込んで頭がいっぱいになり、俺は戻し始めた。ゲロが床を広がった。吐瀉物からダニが姿を現した。俺が食べたダニの中に卵をいっぱい抱えていた個体がいたに違いない。全部が俺の中で育ったのだ! 俺の体は内側も外側もダニで覆われていた。血と吐瀉物の臭いが鼻孔を充満し、体液を失ったことで視界がかすみ始めた。小さなドラキュラのような寄生虫のすべてが小さな牙から血を吸い取っているのを感じた。あまりにも衰弱して逃げ出せず、あまりにも衰弱して動けず、あまりにも衰弱して何もできなかった。できたことは、小さな生き物が俺の体を覆っている最中、横たわってじっとしていることだけだった。ダニが這いまわり、噛みつき、血を吸っているのを感じた。ダニは顔を覆い、顔にある鼻や口といった穴という穴すべてにどんどん這って入り込んでいった。目は最悪だった……。ダニがひっかき、噛みつき、頭の中へ侵食していく音が聞こえた。そして俺の目にまで。1匹のダニが瞼をこじ開けたのが見えた。あまりにも、あまりにも近くにいた。牙に生えた最も細かな毛すらも見えた。ダニが目を掘っていき、計り知れないほどの痛みが走るまでは。俺はとうとう意識を失った。

俺は死んだものと思っていた。いや……、俺は死ぬことを望んでいた。視界が戻ってきた。周囲を見回して自分の状況を把握した。そこは病院、ベッドの上、包帯が体中を乱雑に巻かれ、左目も覆われていた。看護師がベッドわきに来た。俺は看護師の顔を見ていなかった。

「ここはどこ……」

「どうして病院にいるのか、ですね。ハロウィンでトリック・オア・トリートと言いに来た人たちが、自宅で床の上に倒れて血をたくさん流していたあなたを見つけたのです。その人たちはただのハロウィンのいたずらだと思っていましたが、すぐに嘘じゃないと気付いて警察を呼んだのです」

と看護師は言った。俺は袖を引いて腕を見た。腕は小さな吸血動物どもが残した赤いブツブツでいっぱいだった。看護師は「どうぞ」と言って俺の手の上に何かを乗せた。それは小さな箱だった。顔を上げて看護師の顔を見ると、看護師は俺に微笑みかけた。その微笑みをどこかで見たことがあった。看護師は

「楽しんでくれると思いましてね」

と言い、嬉しそうにその場を去った。そのとき思い出した。子供の頃に会ったガソリンスタンドの女性、ウォルマートの女性、看護師。思い返してみれば、ウォルマートでゼリービーンズを買ったとき、いつも同じレジ係が対応していた。全員が同じ女性だった。女性は子供のころから一日たりとも年をとっていなかった。どうすればこんなことが起こるのか。あの女性は何者なのか。どうして女性はいつもそこにいたのか。

俺は手の上に目を向けて、女性が渡したものを見た。

それに書かれた文字を声に出して読んでみた。「バンパイアパック」俺は微笑んだ。

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