【小説アスペルガー革命】Day0:消えた希望と新たなる希望
日本組織の極北「官公庁」で僕がみたもの
世界がようやく現代の疫病から立ち直りつつある6月のある日、僕はリーダーの山中さんに書類の処理方法について確認していた。
「オカムラ商店から来たこの請求書、いつものように回覧で決済印もらっとけばいいすかね?」
「ああ、このまま受付印を押して請求書と一緒にまわして、上司のハンコをもらえばいいよ」
「わかりました。あざーす!」
僕はまるで算数の解き方を教えてもらった小学生のように、よろこびいさんで自分の席に戻って作業を始めた。
上司への信頼が消え「組織人」としての自分も消えた
「ん?どういうこと?」
一瞬、僕の頭脳が回転を止めてしまった。
そのひとからさっき質問したこととはまったく逆の内容が口から出てきたので、すっかり面食らってしまった。
自席に戻って速攻書類を整えた僕は、得意げに山中リーダーの机に決裁書類をおいておいたところ、思いがけず「物言い」が入ったのだ。
さきほど質問したときには「これをそのまま決裁文書として回せばいい」といっていたのに、こんどはこんなことを言い出した。
さっきオリジナル文書処理の手順を質問したときにはそんなことはひとことも言っていなかったはずだ。
もし文書に間違いがあるのなら、なぜそのことを先に言わなかったのか。
リーダーはさきほど自分が言ったことなどまったく忘れてしまったかのように、さらっと指示を出して自席に戻っていった。
組織に居続けることのデメリット
社会人になってから35年あまり、数え切れないほどの数の職場を経験した僕がたどりついた「公務員」という名の底しれぬ別世界。
これまで歩んできた組織とはまったくちがうカルチャーに戸惑いながら2ヶ月、そこは民間企業でつちかった時間とコストの感覚がまったく通用しない世界だった。
現場の第一線に立つ日本人はとても優秀であることは疑いようがないし、そのために日本が発展してきたのも事実だ。
しかし、世界中がネットワークでつながり地球の反対側の国家元首のことばが瞬時にスマートフォンで伝わる世の中で、時間とコストの感覚を持
たないことは即「衰退と滅亡」を意味する。
自分の努力では解決しないならすぐに方向転換する
今回の僕の体験のように、ブレる上司や「紙・決裁・印鑑文化」が根強く残っている職場なら、自分にできることはたかが知れている。
日本人は真面目である上に自己肯定感が低い人が多いので、上司にちょっと注意を受けると縮み上がってしまって必死に努力をしようとする。
でもそれは、かえって自分の首をどんどん締める結果になってしまうことが多い。
だれにだって向き不向きはある。僕の場合で言えば、今の職場のように「作業着を着て行う仕事」つまり肉体労働系がまったくダメで、ミスにミスを重ねてどんどん自分の評価を下げる「鬼門」だ。
組織で生きるか、個人で生きるかを問われる時代
職場でたった一人残っていた「信頼できる上司」が消滅したいま、僕は今の仕事にとどまっている理由もまた煙のように消えてしまった。
自分が幸せになる仕事の仕方って、けっきょく「自分しかできない仕事」「努力しなくても成果が出せる仕事」なんじゃないだろうか。
逆に言えば「誰がやっても結果が同じ仕事」や「自分以外の人でもできる仕事」はやっている意味がない。
なぜなら、そんな種類の仕事はロボットや人工知能がやってしまう世の中になっていくからだ。
そう考えるならば、今日はいままで抱いていた「組織の中で生きるという妄想の日々」が消え去り、「強い個として生きていく自分」が始まる前日と言い替えることができる。
そう、今日がゼロの日、そして明日からDay 1が始まる。
自分の中に革命を起こし、そしてそれを自分のまわりにも広げていく。
明日6月14日、たったひとりの「アスペルガー革命」が始まるのだ。
(つづく)
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