【書評Unlimited】山口周著「思考のコンパス―ノーマルなき世界を生きるヒント」
Amazonの定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」に収録されている書籍の書評を中心にお届けするシリーズ「書評Unlimited」。気軽に本が読めるこのサービスを利用してサクッと読んだ本の感想や学んだことを紹介しています。
次々と新しい変異種が台頭していまだ収束する気配を見せない新型コロナウィルス。
個人の生活はもちろん、ビジネスの世界でも働き方改革のそのまた先の「リモートワーク」が当たり前となり、これまでの常識がまったく通用しない仕事のありかたを受け入れざるを得なくなっています。
何年もかけて積み上げてきたキャリアと仕事時間、職場、そしてワークスタイルを180度転換させる必要に迫られ「これからどう対応していったらいいのかわからない」という悩みや焦りは誰もがもっていますよね。
山口氏と各界トップとの対談が「こりかたまったビジネス脳」を解きほぐす
私たちの心の中に充満しているそうした「不安」や「モヤモヤ」に対する心の整理を促してくれるのが、電通とボストン・コンサルティング・グループをへて研究者・著述家となった山口周さん。
とかく短期的な利益にばかり目を向けがちな日本企業やその社員にとって、山口さんとの対談から導き出される柔軟な考え方が、先の見えない日本の未来を照らしてくれているかのように感じました。
「知の巨人」同士の対談がなぜ日本人の「思考のコンパス」たりえるのか
この本をひととおり読み通してみて気づいたこと。それは「日本、そして日本人が経済成長と引き換えに失ったもの」について詳しく解説をされていることです。
社員の採用クラウドサービス、ワンキャリア取締役にして「職業人生の設計」の専門家である北野唯我さんは「35年住宅ローンや子供の養育費負担が日本人のキャリア転換を阻んでいる」と言っています。
哲学研究者の近内悠太さんは、行き過ぎた資本主義を修正するための「贈与」の役割について説き、養老孟司さんは「便利さの代償として五感をうしなった」と話しています。
そして、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋さんは「ベーシックインカムが日本の閉塞感を打ち破る」と訴え、京都大学こころの未来研究センター教授の広井良典さんは「これからは『ゆるやかに今を楽しむライフスタイルが徐々に広がっていく』」と伝えているのです。
いづれにせよ、今の日本を覆っているおおきなモヤモヤを突き抜けるには、これまでとはまったくちがった視点で考えることが重要だというのです。
いったん始めたことを途中でやめることができず集団で突き進んでしまう日本民族の特徴をこれからは変えていかなければならないのです。
コロナウィルス大流行という危機が全世界をおおうなか、人類は力を合わせて対応するどころか、格差と分断がますます激しくなっているように思えます。
行き着くところまでいきついた感のある資本主義社会をよい方向へ変えていくことができるのか。それはわたしたち全員がこれまでのしがらみや成功体験を捨てて新しい一歩を踏み出せるかどうかにかかっています。
「コロナウィルス」という黒船によって日本は変わることができるのか。それは地方への移住だったり副業というかたちで自己実現を果たす人が増えています。
こうした変化の兆しはすこしづつ見え始めているので、ひとりひとりが勇気をもち自分の気持に正直になって社会を変えていくことが必要なんじゃないでしょうか。
★★
オーストラリアの作家であり作詞家・作曲家のブローニー・ウェアさんの著した「死ぬ瞬間の5つの後悔」では、緩和ケアに長年携わった著者の体験から知った人間の後悔について紹介しています。
●死ぬ瞬間の5つの後悔
・自分に正直な人生を生きればよかった
・働きすぎなければよかった
・思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
・友人と連絡を取り続ければよかった
・幸せをあきらめなければよかった
このなかのひとつ「働きすぎなければよかった」という項目こそ、今の日本人がもっと真剣に考えなければならないことではないでしょうか。
1度しかない自分の人生、死ぬ前にこうした後悔をすることのないようしっかりと生き抜いていくとともに、自分の欲望にとらわれず社会の一員としてこの日本を良い方向へかえていく強い気持ちを持ちたいものです。